第19話 退治依頼

 朝は魔物の襲撃の心配もなく気持ち良く起きることができた。


 宿泊した部屋は2階にあったが朝食を摂る為に1階にある食堂へ降りる。


「おはよう。ツムギ」


 先に起きていたランスが挨拶してくれた。


「おはよう!ロッドは?」


「まだ寝てる。ベッドだと寝心地良すぎてなかなか起きてこないんだ。先にご飯、食べとくぞ」


 紬の分の朝食も持ってきてくれた。焼き立てのパンにソーセージと目玉焼きにサラダが付いていた。

 2人で食べていると宿主がやってきた。少しふっくらとした体系で人の良さそうなエルフのおじ様だ。


「おはよう!よく眠れたかい?ダスティが世話になったって聞いたよ。ありがとな」


 朝食に付くミルクを持ってきてくれた。ただ、それだけで終わらず話が続く。


「ところで、あんた達はあの、バシリスクを倒したんだろ?すごいなぁ!強いんだな!」


 尊敬の目を向けられたが、倒したのはロッドなので正直に話そうとするが宿主の話はまだ続く。


「そこで相談なんだが、ここから北に進んだ人の住む村の近くにある崖の下に住み始めたドラゴンがいてな。そいつもやっつけてもらえねぇかな?」


「ドラゴン!?」


 この世界にはドラゴンまでいるのかと驚く。どんなゲームの中でもドラゴンはよく出てくるが、無条件で強かった気がする。


「……種類は?」


 真剣な顔をしたままランスが尋ねる。


「アークドラゴンだ。被害は今のところ出てねぇが、崖近くの村の奴らは、いつ襲ってくるかわからないから引っ越そうか話し合ってるらしい」


「そうか…。被害が出てないなら良かった。ちょっと考えさせてくれ」


「あぁ、相手はドラゴンだからな。生半可な覚悟じゃヤラレちまうしな。町の騎士団にも討伐要請を出してるみたいだし、無理な時は断ってくれて構わねぇからな」


 そう言って宿主は別のテーブルの片付けをしにいった。


「アークドラゴンって強いの?」


「あぁ。普通なら騎士団や冒険者グループがいくつか集まって大勢で退治するものだ。アークドラゴンは俺の火属性があまり効かないからロッドの手伝いにならないし、今回は分が悪い…」


「なら、この事はロッドの耳に入れない方が…」


 コソコソと2人で話し合ってるとすぐ近くで声がした。


「ドラゴン退治、喜んでお受けします!」


 この場にいなかったはずのロッドがいつの間にかいて、にこやかな笑顔で宿主に返事をしていた。


「待て待て待て!お前、本気か?」


「当たり前じゃないか。こんな強い魔物がすぐ近くにいるのに退治するチャンスを逃すなんてあり得ないね!」


 キラキラとした目に楽しそうな笑顔。これはもう止められないと2人は瞬時に悟る。


「……私達、死ぬんじゃ…」


「そんなわけないだろ?」


 ロッドは笑顔ですぐさま否定する。


「ドラゴンだって僕は、これまで何匹か倒した事あるし、素材もすごく高く売れるし、きっと報奨金もたくさんもらえる。こんな美味しい話はないよ!」 


「誰か助っ人を待ってからでも…」


「僕が待てると思う?」


「…思わないけど、待っ…」


「待てないね。さぁ!朝食を食べたらすぐ向かおう!」


 紬とランスの意向も聞かず、ロッドはやる気満々で朝食をモリモリ食べて出掛ける準備をあっという間に整えた。


「気をつけてくれな!頼んだ身だが死なれちゃ困るからな!」


「物騒な事言わないでください」


 心配してくれた宿主の言葉だったが余計に不安になっただけだった。


 泊めてくれたお礼を宿主に告げて、長耳亭を出発する。


「ドッラゴン♪ドッラゴン♪アークドラゴン〜♫」


 先頭を鼻歌混じりに突き進むロッド。


「ロッドの趣味、今からでも変わってくれないかな…」


「まぁ、ロッドだからな…。何とかなるだろ…。足止めくらいなら時間稼いでやるから、ヤバい時は早く逃げろよ」


 紬とランスは足取り重くロッドに付いていく。


「ロッドが勝てない魔物って今までいた?」


「いや、大怪我してたことは何度かあったけど最後はロッドが勝ってたかな。血まみれで大笑いして立ってたが、倒した直後に貧血で倒れたな」


 血の気が引くが想像ができてしまった。


「何してるんだよ!早く行かないとドラゴンがいなくなるかもしれないだろ!?」


 先を行くロッドが2人を急かす。


「いなくなっててくれないかなぁ…」


 ロッドに届かないくらいの声で呟くと、その声が聞こえていたランスが同情しながら苦笑した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る