第18話 隠し宿
確かにと白馬に乗って王子様が迎えに来てくれたらいいのにと夢見た事もあった。
だが、実際王子様のようにカッコいい人から告白されてもどうしようもなく困るという事がわかった。
なんて断ろうかと考えてると後ろから腕を引かれバランスを崩した所にランスがいた。
「悪いな。こいつは置いて行けない」
「ランス…」
見上げたランスの顔が真剣でわけもわからず胸が高鳴った。
「はっ!いや、ツムギが…残りたいなら…」
「ううん!まだランス達と一緒に冒険したい!」
ランスが慌てて下にいる紬に確認すると食い気味に返事が返ってきた。紬もここ数日しかランス達と一緒にいないがこの旅が楽しいと思っていた。
それに今日会ったばかりの人と付き合うなんてありえない。
「というわけだから、リゼル…ごめんね」
紬とランスを見て少し考えるリゼル。
「年齢も知らなかったという事は、知り合って間もないんだろ?」
「私達?それは、そうだけど…」
「なら今日会ったばかりの俺にもチャンスはあるよな?今すぐは無理だけど、フライヤとダスティの結婚式まで見届けたら俺も一緒に旅に連れて行ってくれ!」
「えぇ。私はそんなに追いかけたくなるような人間じゃないよ」
リゼルの情熱に押され戸惑う紬。
「そんなのもっと一緒にいないとわからないだろ?この後は王都に向かうんだろ?結婚式が終わったら王都に行くよ」
その言葉に返事をしたのはこの成り行きを見守っていたロッドだった。
「いや、僕達はどこを旅するかは気まぐれだからなぁ。でも王都の魔法術師団にいたら、そのうち帰ってくるよ」
ロッドが所属している魔法術師団を教える。
「おい、ロッド教えていいのか?」
まさか親切に仲間に入れてあげるのかとランスも少し不満に思っていると、ニヤッとロッドが笑う。
「だって、面白そうじゃないか。それにエルフは滅多に村から出ないのにツムギの為に出てくれるなんて健気だろ?」
「おまえなぁ、面白がってるだけだろ」
「まぁまぁ、さてと…じゃあ、エルフの村にさよならしますか」
リゼルの事はとりあえず置いといて、まず村から出る事にする。
リゼルに案内され、ロッドの魔法も効いてすんなりと村を出ることができた。
「この先を行くとエルフの隠れ宿である『長耳亭』がある。ダスティの叔父が経営していて話を通してある。もし追手を出されても今夜は気づかれずに泊まれると思う」
エルフの村から少し離れた所でリゼルが説明してくれる。
「今日泊まる所まで用意してくれてありがとう」
「いや、こちらこそ世話になった。次に会う時まで俺の事忘れないでくれよ?」
紬に念押しして顔を覗き込む。整っている顔が近づき戸惑うが何とか笑顔を返す。
「うん。じゃあ、またね」
リゼルに別れを告げ夜の森を進む。
森の中は真っ暗で魔法の灯りがないと足元さえおぼつかない。
夜行性の獣や魔物もいるが気配と音を遮断する結界を張ってくれているおかげで何事もなく長耳亭に到着した。
長耳亭の宿主は快く迎えてくれ、部屋をそれぞれに用意してくれて、この世界に来て初めてちゃんとしたベッドで眠る事ができたのだった。
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