第17話 婚約の花 2

「うん。これなら私、作れるよ!」


 魔法の映像を見た紬はそう断言した。


「「「 は…? 」」」


 ランスとロッドとリゼルが揃って腑抜けた返事をした。


「ちょっと試させてね」


 上手く説明する自信がなくて、部屋の中にあった木で出来たテーブルの上に自分の肩掛けバッグから手芸道具を取り出す。


 取り出したのは裁縫セットとピンクと紫色のレース、ワイヤー、ビーズ、緑色の紙テープと手芸ボンドだ。


 やはり願った手芸道具が出てきてくれることが再確認できて喜ぶ。


 まず、ピンクと紫色のレースを重ねて端の方を大雑把に糸で並縫いしていく。それをある程度並縫いしてから縫ったレースを縫い始めの玉止めにギュッと寄せると、一瞬でレースの花が出来上がった。


「おぉ!」

「えぇ!?」

「すごい!」


「もう少し待ってね。これにビーズを花弁のように縫いぬけて…」


 そしてワイヤーに緑色の紙テープを巻き付けレースの花に手芸ボンドでくっつける。


 すると、そこには先程ロッドが映像で見せてくれた花が出来上がった。


「すげー!さっきの花だ!本物みたいだ!」


「君は魔法使いみたいだね!あっという間に作れるなんてすごいよ」


 ランスとロッドが手放しに褒めてくれる。

 それに気分を良くしてリゼルに尋ねる。


「えと…出来たけど…作り物じゃあ、やっぱりダメ…かな?」


 リゼルは花を見たまま表情を変えず先程から何も言わない。

 

 やはり神聖な花を作って見せたのは罰当たりで怒ったのだろうかと心配になってきたところでリゼルが紬をギュウッと抱き締めた。


「ありがとう。すごいよ!作り物だなんて全然わからない。これで2人は幸せになれる。俺、2人を呼んでくるよ!」


 リゼルは勢い良く家を飛び出し、すぐさまフレイヤとダスティを連れてきた。


「嘘…その花は…」


「これが作り物!?信じられない。本物の婚約の花と見分けがつかないよ」


 紬が作った花を見て感極まる2人。フライヤは涙を浮かべながら紬を抱き締めお礼を伝えてくれた。


「本当にありがとう。このままこの恋を諦めないといけないのかと絶望してたのよ」


 エルフはお礼を伝える時によくハグをするのだろうか。リゼルに抱き締められた時も驚いたが紬より背が高く綺麗なフライヤに抱き締められるのもドキドキした。


「す…好きな人がいるのに他の人と結婚するなんておかしいから。だから、2人は幸せになってね」


 フライヤとダスティが婚約の花を見て手を取り合っている。この2人はもう心配ないだろう。長老達も婚約の花があるなら文句はないだろう。


 ただ、このままエルフの村にいるとフライヤとの結婚を見込めないならと別の女性を連れてこられると困るので、やはり今夜村を抜け出すことにした。


 村を抜け出す作戦を立て夜を待つ。

 その間に紬はフライヤの他にも婚約の花が必要になった時の為に婚約の花をさらに10本程作ってフライヤに預けた。


 とても感謝され、豪華な食事を準備してくれたうえに旅に必要な食料や水もたくさん用意してくれた。


 準備万端で夜が更けるのを待つばかり。

 そこにリゼルがやってきた。


「ツムギ、本当にありがとう。なんとお礼をしたらいいのか…」


「お礼はたくさん食料をもらったよ」


「君達はどこを目指してるの?拠点は王都なのかい?」


 この質問はわからずランスを仰ぎ見た。


「今は魔物退治をする気ままな旅で特に目的はないが、そろそろ王都に戻らないとな…」


「そうか…。ツムギ、突然だが…この村に残らないか?」


「え?どうして?」


 突然のリゼルの申し出に驚く3人。紬からの質問にリゼルは落ち着きなく視線を動かしながら最後は紬の手を握り見つめた。


「俺…ツムギの事が好きになったんだ!」


「「「……………はぁ!?」」」


 見事に驚く声が3人揃った。


「待って、今日会ったばかりだよ?全然お互いの事も知らないのに…」


「今日会ったばかりだけど、前向きな思考、器用な手先、 かわいい笑顔…この短時間で君に恋したんだ!」


「なっ……」


 こんな直球でというか、告白された事、事態が初めてで何も言い返せず頭が真っ白になった。


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