第16話 婚約の花 1

 ロッドを一人を置いていくわけにもいかず仕方なくエルフの村に一緒に滞在することになった紬とランス。小さめだが現在無人である家に泊まるよう案内された。


 その家に入り、やっと3人になってから紬とランスはロッドに詰め寄る。


「どうしてこんな事になった!?」

「ちゃんと断らないからいけないんじゃない!?」


 2人の剣幕に押されながらロッドが疲れたように部屋にあった椅子に腰掛けた。


「大型のバシリスクなんて滅多にいないから夢中になって倒したらエルフを助けた事になっててさ…。僕だって何度も断ったんだけどあの押しの強さには圧されてしまって…」


「確かにあの押しの強さには、なかなか勝てなそうだけど…」


「でもあの2人の仲を引き裂くわけにはいかないだろう?それに結婚なんてしたくないだろ?」


 ランスが呆れたようにロッドの気持ちを確認する。


「もちろんだよ!僕にはツムギというかわいい…」


「ロッド?」


 ふざけて紬を再び婚約者に立てようとしてじっとりとした目を2人から向けられ口を閉じるロッド。


「というか、ツムギが僕と年が一つしか違わない事に驚いたよ」


「私も、そんなに年下に見られてたなんて思わなかったよ」


 ムキになって言い返す。だが、ここでランスも申し訳なさそうに謝ってきた。


「悪い、ツムギ。俺もまさか17歳とは思ってなかった」


「どーせ私は童顔ですよ~だ。老けて見られるよりいいもんね」


 少し拗ねて見せながらもポジティブに考える事にする。


「そうそう、ランスは19歳なのに20代後半に見られたりするからな~」


「19歳!?2つしか違わなかったの!?へ〜…」


 人はやはり見た目で判断してはならないとランスの顔を見ながら改めて思った紬だった。


「ツムギだって老けて見えるって言いたいんだろ?」


 今度はランスが拗ねて見せる番だった。


「老けてっていうより、大人びてる?の方が正しいかな。背も高いし体付きもいいし、しっかりしてるし、私としては羨ましいよ…って、ランス?」


 ランスが急に全く別の方向を向いたので不思議に思う紬。


「ツムギに褒められて恥ずかしがってるだけだからそっとしててあげて」


「褒めるというか事実を言っただけで…」


「わかった!もういいから!これ以上言われると恥ずかしくて死んでしまう」


 なおも言い募ろうとする紬を顔を真っ赤にしながら遮って止める。


「俺の話はいいんだよ!今はロッドだろ?これからどうする?」


 話を変えたくて話題を戻すランス。

 ロッドはしばらく考えてから提案する。


「僕は夜中にこっそり抜け出すのがいいと思うんだ!」


「抜け出せる……かな?」


「僕を誰だと思ってるの?こういう時に魔法は便利だよ?」


 暗闇に紛れて気配を消す魔法や身代わりを作るのやらいろいろあるらしい。


 と、ここでランスが人差し指を口に当て、ジェスチャーで静かにしろと伝える。そして家の入り口に静かに近付き扉を勢い良く開けた。


「誰だ、そこにいるのは!?」


 勢い良く開けた扉から態勢を崩して入ってきたのはリゼルだった。


「わぁぁ…っ!すまない!…今後どうするのか気になって……」


 改めて家の中に入り、3人に向き合うリゼル。


「村を救ってくれたというのに迷惑をかけてすまない。もし逃げるのなら手を貸すよ!こんな事は君達を巻き込んでする事じゃない」


 リゼルの申し出に心強い味方が出来たと喜ぶ3人。


「リゼルがいてくれるなら抜け出すのは難しくなさそう……だけど…」


 そこで紬の歯切れが悪くなり考え込む。


「ツムギ?何か気になる事でもあるのか?」


「うん。私ね、ハッピーエンドが好きなの。最後はみんな幸せになるのがいいよね!」


 突然、突拍子もない事を言い出した紬。


「だから…何が言いたいのかって言うと…。フライヤさんとダスティさん、幸せになってほしいなぁって思って…」


「あぁ、婚約の花がないと言ってたな。俺もそんな花は見た事ないな」


「僕は本で見た事あるよ。エルフが大事にしている世にも珍しい花で、エルフが想いを伝えたい時にその花を添えるのが昔からの習わしらしい」


 ロッドが説明すると肯定してリゼルが頷く。


「そうなんだ。エルフは想いを告げる時はその花を添えながらでないと2人の仲は長くは続かないとしょうもない話を信じてる者達がいて…。婚約の花は去年、魔物に群生地を荒らされて、それから株は残ってるものの花が咲くまでまだ何年かかるか…」


「花を添えて想いを伝えるのはロマンチックだけど、その花がないと想いも伝えちゃダメっておかしいよね」


 ステキな話なのに一気に残念に思える。


「どんな花なんだろう?本当にどこにもないのかな?」


「俺も2人の為に花を探したけど、どこにも見当たらないんだ…。2人は俺の幼馴染だから幸せになってほしいんだけど…」


 悔しそうに顔を歪めるリゼル。


「魔法の映像で良ければどんな花か見せてあげようか?本で見た記憶でしかないけど」


 そう言うとさっそくロッドが手の平を広げて宙に花の映像を映し出してくれる。


 花弁は金色で輝きピンクと紫色の繊細なレースを纏めたような見たこともないない花だった。


「すごい!綺麗!さすが異世界!こんな花、見たことない!」


「その貴重さからエルフが守護してきたらしく人間にはほとんど知られてないみたいだ。僕はたまたま本で見つけて知ったけどね」


 ロッドは魔物退治だけではなく博識である事も認めてあげないとと思う紬だった。


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