第13話 抱き枕

 夜が更け、いくら待ってもロッドは帰ってこなかったので寝ることにした。


「ここは結界を張らなくても安心して寝れるから良かったな」


「うん。朝起きても魔物がいないのがいいね!」


 紬は今朝の衝撃がトラウマになっている。


「じゃあ、俺はこっちで寝るから、紬はゆっくり休め」


 ランスが今朝、紬を抱き締めながら寝ていたのを気にしているのは明らかで地面で寝ようとするところを引き止める。


「私ばっかり寝心地のいいところで寝るなんて心苦しい。それに今日はいい事思いついたの!」


 紬はバッグに手を突っ込みある物を探す。


「あぁ、あった!これこれ!」


 紬がバッグから取り出したのは紬の身長くらいの大きさがある抱き枕だった。


「これは抱き枕っていって、その名の通り抱いて寝れば態勢もキツくなく寝心地抜群なの!寝心地を追求して自分で試行錯誤して作ってみたやつなの。これを間に置いて寝たらいいと思うの」


「…そうだな。それなら今朝みたいにはならないな」


 納得して抱き枕を間に置いて寝る事にした。今日は朝から魔物退治で森の中を動き回ったし昼からもピクシーの相手で疲れも限界ですぐ眠りについた。


 ランスは火の始末をしてから寝ている紬から離れて横になる。


 紬との間に置いてある抱き枕は触り心地も最高でランスもすぐに眠りにつけた。




(……あったかい。…あったかい?)


 不思議に思って目を開けると夜明け前なのか薄暗い。


 また身体の上にランスの腕があり紬を抱き締めるように寝ている。


(あれ?抱き枕は?どこいった?)


 気持ち良さそうに寝ているランスを起こさないようにそっと腕から抜け出す。


「…っ…いっ……たぁ…」


 大きな声が出そうになるのを寸前で抑え込む。少し動いただけで体が悲鳴を上げた。


 昨日、森の中を動き回ったせいで普段インドアな紬の全身は筋肉痛になっていた。


 痛みを堪えてランスを振り返るとベッドの真ん中辺りに2人で寝ていたようだ。端と端に寝ていたはずなのでお互い寄って行ったようだ。


 ちなみに抱き枕はランスの反対側にきていた。


「結局、私が抱き枕になってどうするんだよ~」


 まだ寝ているランスの向こう側にある抱き枕を自分の代わりに入れててあげようと筋肉痛で痛い手を伸ばす。


 すると手首を捕まれ引き寄せられた。

 ポスン と紬はランスの広い胸に倒れ込んだ。


「わぁ!ラッ、ランス?起きてるの?」


 見上げて顔を覗き込むがまだ夢の中のようで目が閉じられている。しかし身体はガッシリと抱き締められ動きが取れない。


「ランス、起きて!抱き枕、間違えてる!」


 ランスの上でバタバタと動くとランスがやっと目を開ける。


「…おはよう」


「…おはよう。目が覚めた?」


 ランスの胸の上で抱き締められたまま挨拶する。


「抱き枕…だっけ?あれよりこっちがいい。あったかいし、納まりがちょうどいい」


「なっ…ちょっ…待っ…」


 さらにギュッと抱き締められ鼓動が早くなりバタバタと暴れると堪えきれないというようにランスが笑い出した。


「も〜!からかわないで!…うっ!」


 動けば筋肉痛で体が悲鳴を上げて動きが止まる。


「なんだ?どうした?」


「…普段の運動不足が祟って全身筋肉痛なの。放っておけば大丈夫だから」


「…あははは。そうか、筋肉痛か!無理はするなよ」


 ランスは紬を抱えたまま起き上がり紬の頭を撫でた。身支度を簡単に済ませると朝食の準備に取り掛かる。


 紬はベッドを片付け出発の準備をする。


 またピクシー達が寄ってきて朝食の奪い合いをしながら賑やかに朝を過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る