第12話 プレゼント

「ツムギ、お疲れ様。たくさんのピクシーに作ってさすがに疲れただろ?ここは魔物もこないし今日はここで野宿しようか」


 ランスが早くも泉の近くで夕飯の準備をしてくれていた。


「ランス、昼から暇だったよね?ごめんね」


「いや、ピクシーと戯れてるツムギを見てるのも楽しかったし、泉の精霊とお茶したり夕飯作ったりのんびりできて良かったぞ。それより…ロッドはまだ帰ってこないよな?」


 キョロキョロと回りを見回しロッドがいないのを確認したランスは徐ろに紬に小さな花束を差し出した。


「ん?え?…私にくれるの?」


「1日遅れたけど誕生日祝いに…。ロッドは魔法でお祝いしたけど俺はまだ何もしてなかったから…。そこらに生えてる花だけど…」


 男の人に花束をもらうなんて初めてだ。

 思ってもなかったプレゼントで嬉しくなる。


「ありがとう!すっごく嬉しい!」


 紬が笑顔でお礼を伝えるとランスも笑顔になって喜んでくれた事にホッとしていた。


「そこらに生えてる花じゃないかって怒るかと思った」


「どうして?すごく綺麗だよ。それにランスのその気持ちが嬉しいの。ありがとう」


 ランスはニコニコ喜ぶ紬を見てると気持ちが満たされていった。


 花束の花を一つとって紬の耳の横に掛けてあげた。


「こうしたらもっとかわいい」


 いつもは見上げる顔が近くにあり、生まれて初めて男の人にかわいいと言ってもらい一気に顔が赤くなる。


「あっ…ありがとう」


 なんて返せばいいのかわからなくて俯いてお礼を伝えた。


(ランスを怖がってる人がいるなんて信じられない。カッコいい人はキザな事してもカッコいい…)


 紬は照れながらもらった花束を見つめるとランスがまた優しく頭を撫でてくれた。


「飯にするか。ロッドもそのうち帰ってくるだろ」


「うん!」


 今日の夕飯の献立はステーキ肉のような豪華な分厚い肉を香草焼きにした物だった。


「もしかしてこれもお祝い?」


「いや?魔物の肉だぞ。臭みを消す為にハーブを使ったんだ」


「ランス、料理人目指していいと思うよ」


「ツムギは大袈裟だな~」


 大袈裟でも何でもなくとても美味しくペロリと食べ終わった。




「ロッド帰ってこないね」


 辺りも暗くなって夜も更けてきたがロッドはまだ帰ってこない。


 紬は昨日寝た低反発座布団をまた大きくしてその上でバッグから刺繍糸を取り出し編み込んでいたのだが、ふとロッドの事を思い出し心配になってくる。


 ランスはその端に座り火の番をしながら剣の手入れをしている。


「魔物退治に夢中になりすぎて遠くに行ったんだろ」


「心配じゃないの?魔物にやられてるんじゃないかとか思わないの?」


「あいつにとってそれはないな。あいつは、あぁ見えてこの国の最高位の魔導士だからな。魔物の方が可哀想だ」


「まぁ、昨日と今日見てただけでわかる気もするけど…」


「子供じゃないんだ。大丈夫だろ。それより、また何か作ってるのか?昼間にあんなに作ったのに作るのが本当に好きなんだな」


 ランスが作ってる手元を覗き込んでくる。


「うん。作るの好きなんだ。つい、時間を忘れてしまう。…よし、できた!」


 紬が作ったのは赤と黒の刺繍糸で作ったミサンガだった。


「お~器用だな。模様が複雑なのに作るの早かったな」


「この世界に来てから手芸レベルが上がってるのか作るの早くなった気がする。…はい!これはランスに」


 出来上がったミサンガをランスに差し出した。


「え?俺に?」


 ランスは、まさか自分がもらえるなんて思ってなくて驚く。


「左の手首につけてもいい?切らないと外せなくなるけどいい?」


「それは構わないけど、つけっぱなしだと、せっかくもらったのが汚れるぞ?」


「いいの!ランスが怪我しませんようにって願掛けしてるから。わぁ、やっぱりランスは手首も太いね!長く作って良かった」


 ランスの手首にミサンガを解けないようにギュッと結んた。


「どうして俺にも作ってくれたんだ?」


「ピクシー達に作ってるのをニコニコ見てたから欲しいのかな~って」


「なっ…」


 ニコニコ見てたのは楽しそうに作ってる紬につられてだったのだが正直に言うのも憚れて言葉に詰まる。


「というのは半分冗談で…」


「半分は本気なのか?」


「…昨日突然現れた私の言う事信じてくれて、心配してくれて、ご飯も作ってくれて、お礼がしたくなったの」


 森の中で会った不審な人なんて普通は相手にしたくだろうに話を聞いてくれて親身になって気遣ってくれて感謝しかない。


 自分にできる感謝の仕方はこれくらいしか思い付かなかったのですぐ実行してみた。


「森の中で女の子が困ってたら誰だって助けるだろ?」


「そうかな?世の中にはそんなにいい人ばかりじゃないし…上手いこと言って迷い人の私を売り捌こうって人もいると思う。だから私はランスに会えて良かったの!」


 ランスに会えた幸運を力説する。


「そう…か。ありがとう。これも…ありがたく着けさせてもらうな」


「うん!」


 お礼が出来て上機嫌な紬。


 ランスはお礼を言われ、何より会えて良かったなんて生まれて初めて言われて、ただ戸惑っていた。そんな事を言ってくれる人なんて今までいなかった。


 もらったミサンガを右手で撫でながら遅れて嬉しい気持ちと照れくさい気持ちが湧き出て顔が熱くなった。


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