第10話 ピクシー

 今朝の魔物の襲撃はまだ序章にすぎなかったようで、森の奥に行くにつれ、魔物の量増え、強さも上がってきているようだ。


 ランスとロッドがほぼ倒してくれるが、任せっきりなのも悪いし自衛の為にソーイングセットから針を取り出し、剣にする。


 二人が取りこぼした魔物を昨日の要領で針の剣を突き出してやっつける。


  パァン パン


 やはり倒した時の効果音は風船が破裂したような音で奇妙である。


 ランスとロッドも何が起きたか最初はわからなかったようで、何度か魔物を倒してる様子を見てやっと紬の魔物の倒し方を理解できた。


「どうして破裂するの?」

「その剣どうなってるんだ?」


 最もな質問だが、紬にもわからない。


「というか、こんなに魔物が多いなんて聞いてない」


「あれ〜?そうだっけ?聖なる泉に着く手前の森はなぜか魔物が多いんだよね。でも魔物退治ができるし、ツムギも強いみたいだし、問題ないんじゃない?」


 そういう問題ではないと思うが、やはり街に向かってれば良かったと後悔するのは後の祭りである。


 魔物を倒してるうちに気付いた事は、紬の剣だと一発で倒せるが魔物の素材は残らないようだ。魔物の結晶である宝石は残るが角やキバ、毛皮などは残らない事がわかった。


 普段運動不足の紬に樹海を横断するには厳しく度々休憩を入れてもらった。


 魔物を倒しながら、だいぶ森を突き抜けたところでやっと魔物の数が減ってきた。


 その頃にはお日様も頂上に近くなっていた。


 お腹が空いたのでランスが持ってきていた携帯食を休憩がてら、もらって食べる。


 携帯食といえ日本のコンビニで売ってるようなシリアルの固まったようなのでとても美味しい。よくよく聞くとランスの手作りらしい。


 職人になれるよ!と太鼓判を押し、美味しく食べてると紬の目の前を小さな光が横切った。


「ん?え?…何?」


「ピクシーだ。人が珍しくて寄ってきたかな?」


 光をよく見ると手の平に収まるくらいの小さな男の子の妖精だった。背中に半透明な羽が生えている。

 初めて見るピクシーに紬は感激する。

 ピクシーは紬が手に持っている携帯食が気になってるようだ。


「食べたいの?おいしいよ」


 小さくちぎって手の平に乗せてあげると喜んで近付き食べ始めた。

 お気に召したのか勢い良く食べていく。


「美味しいでしょ?ランスが作ったんだよ」


 紬が自分のことのように自慢してランスが密かに照れている。


 そして1つだった光がいつの間にかたくさん集まって紬の携帯食を貪っていった。


「わっ!待って!私のなくなっちゃう!

というか、どうして私の所だけ!?」


 同じ携帯食を食べてるのにランスとロッドの所には全く寄ってこない。


「ピクシーに好かれるなんていいなぁ」


 ピクシーに囲まれる紬を羨むロッド。


「携帯食はまだあるから安心していいぞ」


 ランスのお言葉に甘えて残りの携帯食も砕いて集まったピクシーにあげると懐かれて頭の上や肩に乗ってきた。


「泉が近いからか水属性のピクシーが多いね。ツムギも水魔法の適正があるんじゃない?」


「え?私も何か魔法使えるかな!?」


「それだけ水属性のピクシーに好かれてれば可能性はあるね。魔法は妖精が力を貸してくれて発動するものだからね。手の平から水が出るイメージをしてみて」


 ロッドに言われて手を翳し水が出るイメージを頭に浮かべると水道から水が出るように手の平から水が出てきた。


「わぁ!出た!私も魔法使えた!これで干乾びて死ぬ事はないね」


「喜ぶとこ、そこ?」


「だって水がなきゃどこでも生きていけないでしょ!」


「そりゃそうだけど…」


「あはは…ツムギは逞しいなぁ」


 喜ぶポイントがズレてるとツッコむロッドと紬の逞しさにランスが笑う。

 紬は魔法が使えた事が嬉しくて満足そうに微笑んだ。


 そのままピクシーを頭と肩に乗せたまま泉へと向かった。


 聖なる泉に近付くとさらにピクシーが紬の回りに集まってきて大人気だった。


 それなのにロッドが近付くと離れていく。


「どうしてロッドはピクシーに嫌われてるの?」


「言い方!気をつけようね~。嫌われてるんじゃないよ。より高位の精霊と契約してるから近付きがたいだけなの」


「なるほど!嫌われてなくて良かったね」


「それにしても好かれすぎるのも考えものだと思うけどな」


 紬の回りにたくさん集まるピクシーを見てランスは苦笑いする。


「ピクシーはいたずら好きだから気をつけてね~」


「そうなの?」


 ロッドの言葉にそんな事ない!とピクシー達が怒っている。


 実際はどうかわからないが、とりあえず、いたずら好きという事を気に止めとこうと思う紬だった。

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