第9話 朝の衝撃
結界を張っているから特に見張りもいらなく、安心して寝ていいという事で魔法のベッドに3人並んで横になる。
ランスに先程咎められたのが今更になってわかる。今日初めて会った男性と一緒に寝るなんて…と実際横に並んでドキドキしてきた。
ちなみに制服のまま寝ると皺になるので紬は自分が作ったラフなワンピースに着替えて寝る準備はできている。
隣を見ると一人分空いた場所にランスが寝ている。その奥にはロッドがもう目を閉じて眠っている。
ロッドの寝付きの良さが羨ましいと思っているとランスと目が合った。
「眠れないのか?」
「ん…なんか、目が冴えちゃって…」
「突然知らない世界に連れてこられたら不安にもなるよな」
ランスが手を伸ばして頭を撫でてくれる。
ランスの手は大きくて温かくて安心する。
「誕生日…」
「え…?」
「誕生日…おめでとう。もっと豪華な夕飯にしてやれば良かったな」
「手作りで充分豪華だったよ。すごくおいしかったし!」
「ツムギは安上がりだな。…ほら、疲れただろ。もう寝よう」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
ランスの温かい手のおかげで一気に眠気がきていつの間にか眠りについていた。
目が覚めるとまだ薄暗い夜明け前だった。
背中が温かい。それに体の上に何か乗っていて動けない。何かなと見てみると紬の腕の3倍くらい太いガッシリした腕だった。
ランスが紬を後ろから抱き締めるように寝ていたのだった。
「ラッ、ランス!?」
離れて寝ていたのに、いつの間にか近くにきていたようだ。まさかこんな事になるとは思ってなかったので驚く。
「ん……起きたのか?まだ暗いからもう少し寝てていいぞ」
まだ寝ぼけてるのか紬の体を自分に引き寄せポンポンと撫でてくれるが、眠れるわけがない。
「ちょっ…ランス!起きて!」
「ん……ん?…え?え?ええぇぇぇ!?わっ悪い!あったかいのが気持ち良くて…いつの間にか…」
顔を真っ赤にして体を離してくれたランス。
「だっ、大丈夫!って…ぎゃあああぁぁ!」
女の子らしくない心底怯えた声がお腹の底から響いて辺りにこだまする。
離れたランスに自分から飛び付く。
紬が驚くのも無理ない。ロッドがかけた結界の周りに魔物がたくさん集まってきていて魔物に囲まれている状態だったのだ。
まだ夜明け前で暗かったから気付くのに遅れたが、よく見ると昨日見た魔物なども含めて30匹はいるだろうか。獲物の取り合いなのか魔物同士で戦っているのも近くで見える。結界のおかげか戦ってる音や唸り声などは聞こえない。
寝起きの紬には衝撃が強すぎて大声で叫んでしまった。
「何?何?何?」
紬の声に驚いてロッドも飛び起きる。
「まっ…まもっ…、魔物がっ」
恐すぎてランスにしがみつきながら結界の外を指差す。
「あぁ…いつもの事すぎて紬に説明するの忘れてた。ごめん。女の子には刺激が強すぎたな」
心底申し訳なさそうにランスが謝る。
「この魔物が集まってるのは僕のせい。魔物寄せの魔法を夜にかけておいたからね。朝起きてすぐに魔物退治ができるだろう?」
にこやかにそう言って魔法を唱えると結界の周りに雷撃が落ちたと同時に光が膨らみ、目を瞑る。次に目を開けた時には、昨日魔物を倒した時に出てきた宝石や魔物の素材が結界の周りに散らばっていた。
「驚かせたな。ロッドの悪い癖で外で野宿の時はいつもこうなんだ。まぁ、一瞬で終わるけどな」
「それでも心臓に悪いよ!」
「あ〜朝から最高!」
涙目になってる紬とは正反対ににこやかなロッド。それを見て苦笑いするランスは紬を落ち着かせようと頭を撫でてくれた。
落ち着く頃には日が登り明るくなってきて、ランスが朝食にベーコンと、目玉焼きを挟んだパンを準備してくれた。
「おいしい…ありがとう」
心が弱ってるとおいしい食事が身に染みる。小声ながらもお礼を伝える。
目覚めてもいつもの自分の部屋ではないし森のど真ん中の野外である。
昨日の出来事は夢じゃなかったと改めて理解した。
低反発座布団のおかげで、背中が痛いこともなかったが寝起きの衝撃が大きすぎて呆然とする。
そんな紬を見て焦るランスは、ロッドに責任取れと目で睨んで殺気を滲ませる。
「つ、ツムギ、今日は特別な森の中を案内するよ」
「どうせ魔物がたくさん出る所でしょ。早く街に着いた方がいい」
ロッドの言う所など魔物がいる場所に決まっていると昨日の今日で理解する。
誘いに全くのらない紬に殺気の増した友人からの視線が痛くて食いつく。
「そりゃあ、森の中だから魔物は出るけど、僕とランスがいるし、目的地の聖なる泉には魔物は近づかないから大丈夫だよ」
「…聖なる泉?」
「そう!森の動物達が集まって水を飲みに来たり、運が良ければ聖獣や妖精が見られるよ」
紬が興味をしめしてくれたのに食いついて目的地のアピールを必死にするロッド。
「聖獣や妖精って?」
「ユニコーンやピクシーとか…」
「本当にいるの!?」
昨日の魔法の説明の時にも精霊が出てきていたが改めて確認してみる。
「運が良くないと見れないかもしれないけど、ピクシーくらいはいつもいると思う」
空想上の生き物だったと思っていたものがこの世界では実在しているらしい。
ユニコーンはぬいぐるみとして作ったり、妖精の羽など、アクセサリーのモチーフにして作ったりしていたので、実物を見てもっと参考にしてみたいという意欲が湧いてきた。
「行ってみようかな」
「やった!じゃあ、さっそく出発しよう」
これでランスの殺気を回避できたとにニコニコと野営の後片付けに入るロッド。
やはりロッドのいうことなど信じられないと後悔するのは15分後の事であった。
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