第7話 夕飯の一時
「たっだいま〜」
ロッドがニッコリ、スッキリした顔で魔物退治から帰ってきた。
赤や濃い緑の得体のしれない液体を上から下まで体中にまとわりつけている。イケメンもここまでくると台無しである。
「ひゃあぁ〜」
不気味すぎて近くにいたランスの後ろに思わずしがみつく。
「あのなぁ、ツムギがいるんだから、そんな格好で帰ってくんな」
「あぁ、魔物対峙がつい楽しくてこのまま帰ってきてしまったよ」
そう言って持っていた魔法の杖を一振りするとロッドの足元から頭にかけて風と水が渦巻いて次の瞬間には元の綺麗な姿に戻っていた。
「すごい…やっぱり魔法ってすごいね」
一瞬で汚れた全身が綺麗になった事に感動する。
「そうだろう。そうだろう。僕はすごい魔法使いなのだよ」
「はいはい。飯が出来たから座れ」
ロッドの長くなりそうな自慢話をバッサリ切ってランスは出来た夕飯を皿についでいってくれる。
ミルクスープに野菜を煮込んだものと、チーズを挟んだパンをこんがりと焼いたものだった。
夜になって少し冷えてきたので温かいのが身に染みる。そして味も今まで食べた事ないくらいに美味しかった。お腹が空いていたせいか、外で食べているからか特別に美味しく感じた。
「すごく美味しい!本当にランスが作ったの?とっても美味しい!ランス、いつでもお嫁さんに行けるよ!」
美味しさに興奮して変な事を口走ってしまいながらも食べ進める紬。
「なんで俺が嫁に行く方なんだよ!」
紬の言葉に噴き出しそうになりながらもすかさずツッコミを入れるランス。
「それなら僕がもらってやろうか?」
「俺が女だったとしても絶っっ対におまえなんかお断りだ!」
すかさずロッドも乗ってくるが直ぐ様断固として拒否するランス。
「僕みたいにカッコいい男はいないよ!」
「そういうところが嫌なんだ!」
「どうしてだよ。ランスは見る目がないなぁ」
「あはははっ」
2人のやり取りに紬は声を出して笑った。
そして食事を楽しんでる自分に驚く。今日初めて会った人達なのになんだか温かい。
異世界に来て不安な夜のはずなのに、周りには見たこともない魔物もいたのに、この時間はすごく安心出来た。
先行きが何もわからないのに、少しワクワクしている自分がいて食事の時間を堪能する事ができた。
食事の後、野宿なのでお風呂は期待してなかったが、ロッドが先程使った魔法で着てる服も含めて綺麗にしてくれた。
改めて魔法は便利だと思った。
そして紬が作ったフェルトのリスをロッドに見せると目を輝かせて喰い付いてきた。
「何これ!?ぬいぐるみなのに動くの?幻術士やテイマーじゃないよね?わぁ!もっと近くで見せて!」
興奮気味に紬にお願いするが肝心のリスは怯えたように遠ざかりロッドを避けながらバッグの中に戻ってしまった。
バッグを覗いても出てくる気配はない。
「そんな〜僕、怖い事しないよ~?」
「やっぱり腹黒いのを見透かされたんだろ」
しょぼくれたロッドにランスは容赦無く言い放つ。
「また機会があったら見せるね」
「絶対だよ!約束だからね!」
紬に食い気味に約束を取り付けリスの観察を断念したロッド。
「ちゃんと見てないけど、これはやっぱりツムギの特殊魔法だと思う。迷い人だから僕達の考えの及ばない魔法が使えるんじゃないかな」
「へー!私にも魔法が使えるなんて嬉しい」
リスが取ってきてくれたリンゴをランスが剥いてくれてみんなでデザートとして食べる。
「困った時に助けてくれるのが魔法だよ。特別な魔法は精霊に授からないと使えないけど日常生活で使える魔法は皆何かしら持ってるよ」
全く魔法について知識のない紬にロッドがいろいろと説明してくれるが残念な事にあまり理解できなかった。
「魔法は未知数で僕も探究心がおさまらなくて、こうして魔物退治しながら研究してるんだよ。ツムギの魔法も少しずつ理解していって使いこなせていけると思うよ」
「そっか。そうだといいな」
「もちろん!僕もわからない時は一緒に研究して…」
パコン!
紬に向かって前のめりになるロッドをランスが小突く。
「いったぁぁ!どうして打つんだよ!」
「おまえの目の色が変わってきてたから正気に戻してやったんだろうが!」
「失礼な。僕はいつだって正気なんだけど」
「魔法や魔物と聞けば見境なくなる奴が何言ってやがる!」
わぁわぁと楽しく賑やかに団欒の時間が過ぎていく。
「そういや、ツムギはどうやってここに来たんだ?」
「えっと…部室を出たら森の中で…」
「ブシツ?」
「あ、部屋を出て気付いたらもう森の中だったの」
新入部員を確保する為にあの時は意気込んでいた。まさかその先が異世界に繋がってるとは思わなかった。
「何も前触れや変わった事はなかったの?」
「ううん。特に何も…あぁ、今日が私の誕生日ってくらい?」
「誕生日!?今日が?」
「そう。それが何か関係あるかな?」
「う〜ん、わからないけど誕生日に異世界の扉が開かれるよう誰かが魔法を組み込んで…ってのは、予想でしかないけど…。
ツムギの世界には魔法はないんだよね。ここに繋がる扉が何かの拍子に開いてしまって巻き込まれたってのが可能性高いかな」
この世界に来てしまった経緯をいろいろと考えてくれるロッド。
「そっか……帰れる…のかな…?」
一番気になってる事を恐いけど思い切って聞いてみる。
「……ごめん。それはまだわからない」
下手に期待を持たせないよう正直に答えてくれるロッド。
「だよね。…うん。せっかくこの世界に来たからとりあえず楽しんでみようかな」
空気が暗くなりそうで慌てて取り繕う。先のわからない事で悩んでも仕方ない。深く悩まずポジティブに考えられるのも自分のいいところだと思っている。
「それがいいよ!ここはフェアリア王国。そして僕とランスは何にも縛られない冒険者。人生短いから何事も楽しまなきゃ損だよ!」
「そうだね。そうする!2人には迷惑かけるかもしれないけど、改めてよろしくお願いします!」
せっかく来た異世界。楽しもうと腹を括る。そんな紬が頼もしくランスとロッドは快く返事を返す。
「俺達の世界にようこそ。歓迎するよ」
ロッドが歓迎と誕生日祝いにと魔法で花火を上げてくれて楽しい一時を過ごした。
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