第6話 新たな能力

 街道近くの開けた所だと魔物以外に盗賊が出てくるようなので森に戻る事にした。


 森に入り、少し広くなっている場所を見つけ、大きな木を背に焚き火をし、お湯を沸かしたり夕飯の準備に取りかかった。


(お腹空いたなぁ~)


 燃えている火を見つめ、火の番をしながらお湯が沸くのを待っていると紬は急激に空腹を感じた。


 ランスは薪を集めに、ロッドは近くにいる魔物退治ついでに食料になる物を探しに行っている。携帯食があるがそれでは物足りないといそいそと出ていった。


 すでに紬がいる5メートル範囲に結界が張られている。透明だが薄い膜で覆われてるのがわかる。紬が触ってもただ擦り抜けるだけだが、小さな虫さえ入ってこられないという優れものに感動する。


 一人になり静かになって、少し落ち着いたのか空腹を感じた。その時…


ポンッ!


 紬の肩掛けのバッグから音がした。


 振り返ってバッグを見るとバッグの上にリスがいた。いや、よく見ると本物のリスではない。フェルトが流行った頃に自分で作ったリスだった。


「あれ?こんなに大きかったっけ?」


 紬が作ったのは5センチ程の手のひらにちょこんと収まるサイズだったが今目の前にいるのは15センチくらいに大きい。


 不思議に思って手を伸ばすと「キュ」と、一言鳴いて動き出し、どこかに行ってしまった。


「逃げちゃった。今の私が作ったリスだったよね?ん?でもこのバッグにはリスは入れてなかったはずなのにどうして…」


 リスの去って行った方を呆然と見つめてると焚き木を集めたランスが帰ってきた。


「どうした?何かあったか?」


「リスが逃げちゃった」


「リス?何かペットでも連れてたのか?」


 ランスは集めてきた薪を下ろしながら、紬の見てる方角を見つめる。


「リス…ってこの世界にはいないの?手のひらにのるくらいのサイズで尻尾が大きくて縞模様があるかわいい動物」


「……こいつの事か?」


 紬がランスにリスの説明をしてる間に、先程のリスが戻ってきたようで、気付いたら足元にいた。


 やはり作ったサイズより大きいが、自分が作ったリスに違いなかった。


「キュ」


 一声鳴いてどこからか持ってきたリンゴのような果物を紬に押し付けてきた。


「わっ何?リンゴ?もしかして食べていいの?」


 そう言って受け取ると満足そうに、もう一度鳴いた。


「私がお腹好いたって思ってたから採ってきてくれたの?…ありがとう」


「キュ」


 嬉しくなって果物を大事に抱えてリスに手を差し出すと腕を伝って肩にのった。


「私が作ったリス君だよね?」


「キュ」


 同意するように頬に擦り寄ってくる。


「やっぱり!バッグに入れてたっけ?」


 そう言ってバッグを覗くと裁縫セットが入ってる底の方が黒い空間に繋がっているようでバッグの底が見えない。


「何これ!?」


「あ?あぁ、これもアイテムボックスだったのか」


 一緒にバッグを覗いたランスが特に驚く事なく教えてくれる。


「アイテムボックスはある程度、何でも大量に運べる便利な物で、物はもちろん食べ物や魔物も運べる」


「そうなんだ。どこと繋がってるんだろう?あと、何が入ってるのかな?」

 

 初めは恐々と、しかし興味津々でバッグに手を差し込んでみる。すると、今まで作った手芸の作品ばかりが出てくる。いくら出しても自分の作った手芸作品しか出てこないので途中で出すのを止めて、またバッグにしまっていく。


「今出した、いろんなのは紬が作ったのか?」


「うん。そうだよ」


 今の自分に必要そうな物がないことに少しがっかりしながら答える。どうせなら野宿に役立ちそうな物が入っていたらと期待していたのだ。


「すごいな!紬はクラフターなんだな!」


「クラフター?物を作る人のこと?そう言われるとそうなのかな?本当、これくらいしか才能ないし」


「これくらいって技術じゃないぞ!すごいじゃないか!そのリス?ってのも紬が作ったんだろう?作ったのが動き出すなんて聞いた事がないぞ!」


「え!ここでも当たり前じゃないの?もちろん、私がいた世界でも作ったのが動き出すなんてことなかったよ」


「そうなのか?なら、それは紬の特殊魔法なのかもしれないな。ロッドが戻ってきたら聞いてみるか」


「魔法…これが私の魔法なら最高だね!」


 自分の手のひらを見つめながらキラキラと目を輝かせる。自分が作ったぬいぐるみなど、動いたらいいのにと子供の頃はよく思っていた。まさか現実に起こるとは思わず肩に乗っていたリスを抱きしめる。


「嬉しい!よろしくね」


「キュ」


 さっきまで不安そうにしていた紬が嬉しそうに笑っていて、ランスまで嬉しくなって紬の頭を撫でる。


「良かったな」


 紬は頭を撫でられる事に慣れなくて少しドキドキしながら視線を彷徨わせる。

 すると、視線の先にランスのマントが解れた処を見つけた。


「ランス!ここ解れてる!私で良ければ直そうか?」


「あ?本当だ。いいのか?助かる」


 そう言ってマントを脱いで紬に渡す。

 ランスが食事の準備をする間、紬がマントの解れを直した。


(裁縫セット、持ってきて良かったぁ)


 紬は、やっと自分にも役に立てる事があって嬉しくなる。集中してできたせいか、いつもより早く繕い終わる。


「できた!」


「もうできたのか!?早いな!やっぱりクラフターだからか?ありがとうな」


 そう言ってランスはマントを笑顔で受け取る。紬は役立てた事に重ねてお礼を言われた事も嬉しくなった。


 そこにロッドがやっと帰ってきた。

 

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