第5話 これからの方向

 ランスは仲間のロッドを自分目線で紬に紹介してくれた。


「こいつは顔が良くて、自覚もあるから自分の使い方もわかってて要領いいし、さっきも言った通り魔物狩りが趣味だからよく稼いでくれるし、悪い奴じゃねぇよ」


「ちょっと!全然褒められてる気がしない紹介なんだけど!」


「褒めてねぇよ。どうにか繕って説明してやってんだろうが」


「僕について説明って何!?紹介でしょ?それにもっといいところあるでしょ?」


「あぁ~………」


「黙らないでよ!」


 頭を掻いて黙るランスに憤るロッド。

 二人のやり取りに身構えていた紬もやっと力が抜けて笑ってしまう。


「ふふっ」


「!…やっと笑った。なんだ。笑えばかわいいじゃん。ところで見たことない服着てるけど、どこから来たの?」


「あぁ、どうやらツムギは迷い人らしい」


「迷い人!?噂には聞いた事があったけど本当に存在していたんだね」


 改めてマジマジと見られ、どう答えていいかわからず萎縮する。


「おまえが見てると怖がる。あまり見るな」


「ちょっとー!それいつもは僕のセリフ!」


「たまには俺が言ったっていいだろ」


「もういいよ!それより、今日はここらで野宿にしようよ!」


「野宿!?」


 良いこと思いついたとばかりに飛び出したロッドの言葉に驚いたのはもちろん紬だ。


「ここからは最寄りの町でも1日は歩かないと着かない。町に換金にって言ったが今日中には無理だな。歩いてるうちに暗くなるし、紬は疲れてるだろ?ここには慣れてないだろうし、魔物とも初めて遭遇したみたいだし、早めに野宿の支度はしてた方がいいのは確実だ。野宿はしたことないか?」


 気遣わしげにランスが尋ねてくる。

 紬はもちろん野宿なんて生まれてこの方したことがない。屋根があって暖かい布団で寝るのが常識である。

 小学校の時に宿泊学習でキャンプをしたこともあったが、今の状況とは全く異なる。友達とワイワイ楽しく寝て命の危険なんてなかった。こんな魔物の出る森で野宿なんてできるはずないと思った。


「こんなところで野宿なんて無理だよ!魔物が来てやられちゃうよ!」


「まぁ、ここらは少し多いよな。もう少し東に歩くか…」


「嫌だ!俺はここがいい!魔物が集まっていつでも魔物狩りできるここがいい!」


 ここで否を訴えたのはロッドである。


「寝ている時でも俺が結界張るから大丈夫!中からはいつでも出れるけど外からは俺達以外一切入れないからね」


 と、そんなに力説されても全く安心できない。ロッドの実力も知らないし、野宿には変わりないし、周りにはいつ出てくるかわからない魔物がいるし、困った挙げ句、紬はランスを見上げる。


「初めての事ばっかりで恐いと思うが、こいつの腕は確かだぞ。どこで寝ようが魔物はいる。でも無理をして危険に晒されるより、魔術師の結界の中の方が安全だ」


「……わかった。でも私、何も野宿できる道具なんてないし、食べ物も持ってないよ」


 しぶしぶ野宿を了承したものの、現実を振り返ると手芸道具しか持ってない紬は一晩越すのも苦労が見える。


「道具は、僕らがアイテムボックスに持ち歩いてるし、日持ちする携帯食もまだ余分に持ってるから分けてあげるよ。はい、問題解決!」


 にっこり笑ってロッドが紬を見下ろす。ロッドはランスより低くても紬よりは20センチ程大きい。


 外に寝る覚悟や今日初めて会った男の人と野宿する心情はもろもろ考えない事にして紬は腹を括って溜め息を吐き出し


「お世話になります」


 と呟いた。ここで一人どうにかするなんてそれこそ命知らずだ。強そうな二人についていって、町に着いてからその先の事は考えることにした。

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