第3話 ランスの実力

 最初いた場所からそう遠くない場所に街道が通っていた。日本ではどこに行っても必ずあった電線はなく、どこまで見渡しても森と街道が続いていた。やっぱりここは日本ではないのだと再確認する。


 紬は少し落ち着いてから降ろしてもらって自分の足で歩く。


「そういや、レッドウルフをどうやってやっつけたんだ?武器も持ってないようだが」


 ランスは紬に歩調を合わせてくれながら質問してくる。


「不思議な現象なんだけど、私の持ってるソーイングセットの中から針が飛び出してきて、それが剣になったの!この世界には魔法とかもあるの?」


「魔法はあるが、そんなの聞いた事ねぇな」


「魔法、あるんだ!ランスも使えるの?」


 現代世界にはなかった魔法に心踊らせ、目を輝かせる。


「俺のは剣魔法。属性は火で、炎を剣に纏わせて放つんだ。手加減しないと森に燃え移るし、レッドウルフとは同じ属性で森が火事にならないよう立ち回ってた隙に逃げられたのを追ってたら、あんたに会ったんだ」


「そうなんだ!レッドウルフに感謝だね。深い森の中でランスに会えたから」


 紬はにっこり笑ってそう言うとランスは少し目を見開き、そっぽを見る。強面の顔をしたランスは、女の子から気軽に笑い掛けられるなんて久しぶりすぎてどんな反応をしていいのか戸惑っていた。そんなランスの様子に気付かず話を続ける紬。


「今度、剣魔法見せてね」


 魔法に興味津々になって無邪気に笑って言う紬に気が抜けて苦笑しながらランスは紬の頭を撫でる。


「まぁた、レッドウルフに会いたいのか?」


 ランスの大きな手で頭を撫でられ、紬はドキッとしながらされるがままになる。頭を撫でられるなんて子供の時以来である。


「…レッドウルフには、会いたくないけどさぁ」


 紬は妙にソワソワした気分になってくる。


 どうにか心を落ち着かせていると、ランスがハッと元いた森の方を振り返る。


「ランス?」


「街道に近い場所に魔物が来るのは珍しいな。…レッドウルフもこの辺りじゃ珍しいんだが、それより強そうなのが一匹こっちに向かってきてる」


「えぇっ!ど、どーしよう!」


 先程のレッドウルフに遭遇した恐怖を思い出し慌てる。それに反してランスは落ち着いている。


「どーしようって、退治するのみだろ。恐いなら離れて見てな」


 そういうとランスは背中に背負っていた大剣を構えて魔物が現れるのを待つ。


「だっ、大丈夫なの?さっきのより強いんでしょ?私も手伝う?」


 さっきの事を思い出すと逃げたい気持ちも強いが、ランスを一人残して安全な所にいるのも嫌だった。恐いながらも心配してくれる紬にニッとランスが笑いかける。


「俺は冒険者だからな。魔物を倒すのが仕事だ。まぁ見てな」


 気負ったようでもなく笑うランスにまだ心配はあるものの言われた通り、紬は少し離れた岩陰に身を寄せる。自分がいても足手まといにしかならないだろうから、せめて邪魔をしないようにする。


 森の木々の間から、ガタイのいいランスをさらに一回り大きくした二足歩行の豚、オークが現れた。


「今度はオークか。やっぱりこの辺じゃ珍しいな」


 オークが現れてからも特に慌てる事のないランス。どんどんランスに向かってオークが近づいてきて紬の方が手に汗を握り息を詰めていた。


「ファイヤーソード!」


 ランスがそう叫ぶなり持っていた剣に炎を纏わせ、オークに向かって振りかぶる。剣から炎が解き放たれオークに炎が纏わりつく。炎に耐性のないオークは一溜まりもなく炎に包まれ苦しみ黒こげになり残ったのはレッドウルフを倒した時にも出たような宝石とオークのキバだった。


 あまりの呆気なさに言葉もなく呆けてしまう紬。ランスは報酬を回収し紬の所に来る。


「どうした?オークにビビったか?」


「ハッ!…ランス強すぎだよ!すごい!すごい!カッコいい!!魔法すごい!一瞬でやっつけちゃった!」


 紬は初めて見た魔法に大興奮し、手放しに褒め称える。ランスはそんな紬に気圧されながらも誉められる事に悪い気はせず照れながらそっぽを向く。


「こんな初歩の魔法ではしゃぐのはおまえくらいだよ」


「初歩!?今のが初歩の魔法なの?」


「あぁ、初歩の魔法だが…まぁ、レベルによって威力は違うがな」


「ならやっぱりランスは強いね!すごいね!」


 感動が収まらずはしゃぐ紬。


 そんな紬を見て苦笑した後にまたハッと森の方をランスが見た。また魔物!?と身構えてランスの先に見える森を紬も振り返った。

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