家族の感覚
本当にいつまでこの関係のままなのか。
光が好きか嫌いかと言われれば即答で答えられる。
……吹っ切ってさえしまえば楽になれるのではあるが。
ただもう少し吹っ切れずに立ち往生してしまうのであった。
「こうさ、自分を恋愛小説やギャルゲの主人公に置いてみよう」
「ふむ。タイトルはどんな感じにしたらいいかな?文芸部らしく堅苦しいやつ?」
「なんだっていいよ。あえて付けるなら『ロリコン星丸』かな」
「なんで俺が影太の同類になってんだよ!」
本当にどうでも良い事であったが形にこだわる星丸は悩んだ末『星と雨の降る世界』というタイトルに納まった。
こんなん誰がヒロインだか1発でわかるタイトルである。
「その物語には当然ヒロインが居るわけだ。結婚まではいかないまでも付き合ってハッピーエンドな終わりか」
「良く言うなら王道、悪く言うならベタだな」
「それのヒロインが光なわけだ」
雨という単語を使っておいてなかなかにタイトル詐欺である。
1年で中古屋のワゴンセール内に必ず見つけられるような作品になるかもしれない。
「それがどうしたんだ?何かあるか?」
「問題大ありじゃねーかよ!お前さ自分のヒロイン光なんだぜ!?有り得ねーよ……。今までのバカな付き合いしてて考えられねーよ……。Sの天敵だよ」
「……さりげなく共感出来ないの混ざってるね」
隠れMである星丸も、もし主人公が自分でヒロインが光の物語を組み立てているのであろう。
最初こそ楽しそうに妄想していたが段々と顔色が悪くなってきていたのであった。
「……いつまでダメなんだよ……。そんな強い性格のクセに夜は逃げ腰か……?」
それは光じゃなくてお前の彼女の話ではないのだろうか?
ただ強い性格と言っているので光で間違いない、多分こいつの中での女性はこんなイメージが付いてしまっているのであろう。
「ぅぅぅ……。テニスなんか出来るわけねーよ……。俺のアニメの円盤をフリスビーにしないでくれ……。それ包丁じゃない、ギロチンじゃねーか……」
一体星丸の妄想で何があったのか?
それを確かめる勇気は起きなかった。
追及、言及の類は全く挟まなかった。
「俺らに光は無理だな」
「だろ」
結局、いつものアホなノリでこの話は流されるのであった。
俺も星丸も本当は優しい奴だっていう彼女の魅力を知っている。
それを素直に認められなかったのだ。
2人して階段を下りて直行で居間の部屋に入り込んだ。
俺達以外の全員は既に着席していたのであった。
「もう遅いよタツ兄と…………あんた誰!?」
「えっ!?俺?」
女装姿だったとはいえ元に戻った俺の姿には違和感なく声を掛けた葉子であったが、俺の斜め後ろを歩いていた星丸の姿を見るのは初めての葉子がビックリしていたのであった。
「星丸さんの顔、思っていたよりまとも」
「……うん。やっぱり君、達裄の妹ね」
このままわいわいと食事会が行われるのであった。
よくよく思い返すと大所帯な人の数であった。
普段は人住んでるのかと思われるくらい静かな遠野さん宅であるのだが、今日ばかりは10年ぶんの騒音が遠野さん宅からするんですけど、なんて噂が流れているかもしれない。
ただでさえ近所のおばさまは幅広いコミュニティを持っているのだが、最近のおばさまはスマホを片手に若者も青ざめるくらい使いこなし、独自のSNSのサークルを所持しており近所内で国が出来ている如くである。
すきやきの食べる描写が何故かおばさんの凄さで割愛されてしまうのであった。
―――――
「今日はお招きいただいてありがとうございました。またね恋ちゃん。あとこれ達裄さんに用事があればの連絡用の番号とアドレスでございます」
千が帰る玄関先、カードの様に薄いのだが丈夫である材質である名刺を差し出した。
『達裄様専属奴隷メイド』なる文字がでかでかと印刷されていれのだが、千を屈服させたのはさっき故これは一体いつコピーしたのであろうか?
「いらねぇ……」
「達裄さん連れねぇ……」
別れの連れねぇ挨拶を交わして千が出て行くのであった。
千はここまでやって来るのに乗ってきた超大型トラックで帰るらしい。
運転手はいままでずっとトラック待機であったらしくとても申し訳なく謝った。
それを知っていたならばコスプレ大会などさせる前に帰らせていたものを……。
「俺も帰るわー、恋ちゃんに瑠璃ちゃんもお暇があれば連絡待ちしてるぜ」
特に2人は影太に対し肯定や否定といった特別な感情も見せる事はなかった。
最後に家の方向が途中まで一緒の星丸と光が残った。
他の姉妹達を居間に帰らせて、特別な3人でのいつもの集まりであった。
「じゃあ星丸、光を送っといてやれよ」
「そうだな。不審者が現れたら撃退してもらえるもんな」
「ですよねー」
「……おい、あんたら」
なんて言いながら俺は2人と共に外に出て行く。
家が温かい温度だっただけに冬の寒さが肌に沁みる。
2人は防寒具を身に着けていたが、普段着のままの俺は見た目的にも異質であろう。
「じゃあな」
「またー」
「さいならー」
2人を見送った。
手を振られていたが、キャラ的にも振返した記憶は少なく、今日も別段手を振ったなんてこともない。
ただ見えなくなるまでそこに立って見守っていた。
「家族って……変な感覚だな……」
自分の家の外に出ても人の声が弱々しくも漏れてくるという事がないのでここ数日で変わったもんだと自覚する。
息がもう白い――そんな時期。
あっという間に時間は流れ緑色の葉と個性の持った色の花咲く季節に変わるのだろう。
その頃には恋も葉子も流亜も高校進学。
俺自身、立ち止まって歩みを止めていても時間は理不尽にも流れついに俺は立ち止まっていた理由すら忘却し、また歩いても立ち止まり――ループ。
「つまんない人生だなぁ……」
星丸の話ではないけれど彼女でも作るかな。
なんて柄でもなくセンチメンタルになったり。
「……」
時間なんか流れない方がいいのに。
無感動に過ぎて行く1秒に、憤りに近い感動が沸きあがるも一瞬。
「忘れるか……」
俺、今何考えてたんだっけ?
洗濯機の調子が悪いから買い替えるとかそんな話だったか?
そうだったな。
新聞も取っていないしチラシ類も取っていないし電気屋現地で選ぼう。
ちょっと高い買い物になりそうだ。
―――――
相変わらず1歩引くのがお好きなようで親友。
3人から2人へとなり夜道を光と歩いている。
女と2人っきりだな、なんて彼女の居る身分でドキドキなんかしないけど。
「なんか光と2人って久し振りじゃない?」
「いや、昼一緒に達裄の家に行ってんじゃん」
「あんなのばったり会っただけでねーの」
この輪の中心には大体あいつが居るものである。
俺と達裄、光と達裄、この組み合わせならよくあるものなのだが、こういう組み合わせになると学校の登校中ぐらいになるのか。
結局これもただ歩くという目的なだけだけれど。
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