親友を疑う

「そろそろご夕食にしましょう」


良い感じに葉子も周りに溶け込んでいた。

そんな時間になる頃には少し時間が遅くなりがちであったが夕食にしようとなり、恋とめぐりでまた夕飯の支度を始めるのであった。


「っていうかさ、タツ兄達早く着替えたら?」

「…………」


メイド服の長いスカートや長ったらしいウィッグに違和感も感じなくなっていた辺り既に危険信号であった。

それは全員だったのか、認めたくない表情であった。

男子は着替え部屋で、女子は音の部屋で元の姿に着替えるのであった。

当然着替え部屋の女子の服を返却したのは言うまでもない。


現在、男子3人狭い部屋で着替えの途中。

自分の履いていた千と同じ柄だという下着に自分でドン退きしていた。

こんな大人な女性用の、触った事のない肌触りのする黒い下着をよく今まで履いていたものである。


「なぁ遠野」

「どうした影太?」


影太のいつもと違う、瑠璃や恋に向ける視線に近い恐怖を感じていたが、俺がだんだんと戻っていく姿と比例していつもの視線へと様変わりしていった影太。

この視線なら問題はないだろうと返事を返したのであった。


「星丸の顔見るの久し振りのような気がするな」

「おおー、つーか誰だお前?」

「あれ?数時間着ぐるみ着てただけで顔忘れられた!?」


というかアホっぽい声を聴くのも久し振りである。

そんなアホっぽい顔がジロジロと俺の顔を見ていた。


「なんだよ気持ち悪いな。お前の近すぎる距離感が腐った女子生徒の噂になるんだからな」


この噂、当然俺は直接聞いた事はない。

女子の噂を教えてくれる親友の光さん情報である。

信憑性は、役立たず8割といったところである。


「ホモと友情って紙一重だよな」

「お前キモイわ」


星丸から3歩ぶん下がると、星丸が2歩俺に近付き歩きだす。

3歩下がって2歩進むである。

間違った文章である。


「お前ってかっけー顔してるなって思ってたけど、女顔でもあったんだな」

「お前怖い……」


星丸に対して怖いと思うどころが口に出してしまった。

こんな顔と人望以外てんでダメな彼にビビッてしまう大失態。


「じゃーなー」


影太は青い顔していそいそと出て行ってしまった。

別にこれ以上は何も無かったのだが、少し星丸と距離を置こうと決心した出来事であった。


距離を置こうと決めた直後ではあるが星丸に用事があったのを思い出す。


「お前から借りたゲーム返すわ、ちょっと部屋に来てくんない」


流亜の家で1人モヤモヤした気分でプレイした意味不明なギャルゲーである。

最近はただの萌えゲーをプレイする気がおきないくらいには飽きている。

萌えより燃えを期待してしまうズレたユーザーである。


星丸を着替え部屋から階段、部屋へと着いて来させ中に招き入れる。

流亜の家に行ったバッグからゲームをパッケージごと返すのであった。

それを受け取った星丸は部屋のベッドに腰をかけた。

この動作は2人で話をしようという星丸のサインであるので時間はまだあるので俺は勉強机の椅子へ座りこみ星丸と向き合った。


「その反応はイマイチってところだな。そろそろマジの恋愛してみればいいのにさー」

「上から目線が腹立つわ。雨とギクシャクしてるくせによ」

「ちょ、ちょっと変な事言うなや」


星丸はとにかく俺に恋愛関係、彼女関係の話を振る事が多い。

そういう時は軽く流すのが吉である。


「『ご、ごめん。今日は……、今日もだけどあの日って事にしておいてくれないかな……』」

「おい!ちょっと待って、なんで昨日の会話知ってんだよ!?」

「『次……、とは言えないけど次の次の次の次の次の次の次ぐらいまでには覚悟決めるから。……ごめんね子供で』」

「やめろぉぉぉ」


星丸が図星だったのか昨日、つまりクリスマスイブでも失敗したのは明白であった。

雨はまだ気持ちのふんぎりがつかない子供のままに成長した、いまだに子供である。

それは星丸と雨の今の関係を急ぎ過ぎてしまった事での障害に近い。

原因が遠くも近くにもならない感じで俺にもあるので気には掛けているつもりである。


「ぐぅ、まさか親友のアドバイスをこんな仕打ちで返すとは……」


言葉の矢で十分ダメージを負った彼だが今日はまだ退かなかった。


「なぁ、お前自称俺の親友名乗ってるけど、本当に親友なん?」

「否定されそうになる俺と達裄の絆!?」


連続の攻撃が俺が繰り出すのであったがそれでも今日の星丸は立ち上がるのであった(実際はベッドに倒れ込むが、体に鞭入れて復活して体を起こすであるが)。

なかなかに今日のこいつは手強い。


「別にね俺はね気にはしてないんだよ。女友達もわんさかな親友の星丸が彼女見繕ってやるって言ってる割に全く見繕う気がない事について。うん、本当に気にしてないんだ」

「相手が達裄だけに本当か嘘か読めねぇ……」


本当に気にしてないのであるがちょっとからかいで気にしてますアピールで語っている状態。

パニック状態の星丸。


「恋、葉子、音、瑠璃、めぐり、光、千。他にも流亜に本命の雨だと?星丸ハーレムじゃん。んだよこの野郎!ギャルゲ主人公めっ!どうせ俺はボッチだよ!」

「……いやそれは雨以外全員違うと思う。むしろお前の……」

「俺以外には見繕ってやってるのにさー、親友にはないんだなーって思ってさー」

「あー、もう白状するよ!」


少しキレがかっている星丸。

実はそんなに親友と思ってなかった事の白状であろうか?

それはそれで3日くらい部屋から出れなくなりそうである。


「この間、ガチで見繕う気はあったんだよ」

「んん?」


こっちもこっちでなかなかの衝撃であった。

てっきり星丸の口から出まかせだと思っていたからであり、少し申し訳なくなってしまう。

それよりも親友否定でない方で安堵である。


「お前紹介してって人今年3人ぐらい居たかなぁ」

「マジでか!?」

「全員お前のタイプじゃないと思うけど顔はなかなかだった」


名前を聞いていないので、どこのどいつなのか全くの不明。

どうせ名前聞いても不明であろうが。


「話は逸れたけど、達裄に女を紹介しようとする計画を知った光に止められてしまった」

「俺の不在なとこで何面白そうな事やってんだよ……」


というかなんで光が今更この話に出てくるのか?という疑問点が1つ残ったのであった。


「光が泣きながらお願い辞めてって懇願されてしまってね」

「マジか。あいつも可愛いとこあるな」

「そこまでじゃないか?涙目?……ぶっちゃけかなり誇張入ってるかも」

「がっかりだよ。あと、なんで光が出てくんだよ……」

「そりゃあ、君の事諦めてないからなんでない?いつまで今の関係に縋ってんだよ君達は」

「…………」


俺と光の関係を物語で喩えるなら、完結にしようとまとめるならすぐに出来る状態のものが何ヶ月、何年とテンプレでごまかしてお茶を濁してズルズル引き伸ばしている状態であろう。

こんな関係がもうすぐ3年目を迎えようとしていた。

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