遠野葉子
彼女は俺が女装癖でもあるのかと当然な疑問を投げかけたが、これがコスプレ大会という事を説明すると簡単に納得してくれた。
既に2人の不審者という実物を見ていたからであり、無駄だった時間も実はそんなんでも無かったという話である。
「立ち話もなんなんでどうぞタツ兄」
「ふむ、居間まで案内したまえ」
何故か葉子を先頭に我が家へ入り込み、葉子案内の元居間へと向かう。
連れて行かれた先はコスプレを着せられたり、千に色々した着替え部屋であった。
「狭い部屋ですがおくつろぎください」
「おい、茶も出さないのか?」
「これは大変失礼致しやす」
葉子が頭を下げ、着替え部屋の出入りドアを開けると光が立っていた。
「何してんの?」みたいな表情で、俺も「何かしてた」みたいな表情を返した。
「って通じるかー」
「あれ、普通に通じてね?」
このまま居間に兄妹揃って連れて行かれ、みんなの前に連れて行かれた。
今日は説明係にしかなっていない気がするのだがもう一争乱を交えなければならないらしい。
「やばいよタツ兄、あの2人キモイよ。それにここに連れた女の人も痴女みたいな恰好だし」
「あいつらああいう趣味の変態なんだぜ」
コソコソ話で葉子と話していたが「お前が言うな」と光と影太に突っ込まれ返す言葉もない。とりあえずマイクを完全オフにした。
これでようやく葉子に対して普通の声で話せるようだ。
また面倒な説明を時間を掛けて繰り広げる。
ここ最近妹が増えたという謎話も当然葉子の耳に入るのであった。
「……タツ兄、『本物』の妹は私だけだよね?」
「ん?まあそうだな」
「私が生まれた瞬間から死ぬ瞬間まで妹なのは私だけって事だね」
やたら妹に反応するのでとにかく頷くだけ頷いておいた。
それに牙を向く者らもまた居るのであった。
「でも結婚出来ないのも1人だよな」
「妹ですからね~」
「むっ、そんな法律タツ兄と私の間には存在しないよ。私ルールに縛られないくちだし」
「……いや無理でしょ」
一触即発だと思ったが三つ子と仲良くなれたみたいでめでたしめでたし。
こういう時に話題を出してくれる三つ子の長女は扱いやす……良い奴だな。
「みんなお兄ちゃん大好きですね」
恋の発言がよくわからなく突っ込む言葉が出てこなかった。
「本当にみぃーんなお兄ちゃん、タツ兄、兄貴、お兄さん、ユキの事大好きなんだね」
猫耳スク水の言葉は聞こえない、そういう事にした。
「本当に妹なんか居たんだ……。厨二の達裄の妄想だと思ってた……」
「お前バカにしてんだろ」
光と星丸にのみこの事実を1度口走った事がある(らしい)。
光と出会った年ということで中学2年であるが、当時「妹が居る」とだけ言ったが全く見かけず姉の間違いだと思っていたという光。
まあ、あまり触れない話題の1つだったのは否定しない。
葉子の実妹という事以外の紹介も済ませ、まだ何故俺も10年近く会っていなかった妹と再会したのかという大事な部分があやふやなままである。
そもそも何をしに来たのか、根本的な話である。
「私、この遠野家に引き取られました。また苗字が遠野になっちゃいました」
「ちょっと待って、一言なのに理解が追い付かない。リピートアフタミー」
「私、この遠野家に引き取られました。また苗字が遠野になっちゃいました」
「ちょっと待って、一言なのに全然理解が追い付かない。リピートアフタミー」
「私、遠野葉子」
ループを脱出させたがそれでもわからない事はわからない。
あり得ないと否定する理由も当然ながらある。
父は世界企業グループの息子と、一般家庭生まれの母。
周りはともかく当時のトップである父の父、俺から見た祖父は堅い考え、悪く言えば古過ぎる考えの持ち主であった。
両親の結婚に大反対、それを押し切っての結婚であった。
そして、両親の死の事件後、問題になったのは俺と葉子の引き取りであった。
その話場で父と母の親族は大喧嘩、結果遠野家の跡取りという名目――実際は世の中の体裁で俺が遠野家に、母の緒方家には葉子が引き取られ完全に縁を切られてしまい生き別れになってしまったのであった。
それが真相。
くだらない大人の陰謀の巻き込まれて、完全にとばっちりを受けていたのであった。
そんな経緯からかとりあえず祖父は俺に対して無視をする。
俺に恐怖心を抱き、恐れている。
だから反応を示さない。
小学生相手に1人暮らしをさせ、それをたまに義理の姉が様子を見に来る。
そんな生活も祖父の方針が大分入っていたであろう。
大人の汚い生き方を見ていないのに、見させられた俺であるのでこんな大人にはなりたくないし、なるつもりもない。
当然祖父は俺を嫌って、俺はあいつを憎んでいる。
大体はこんな理由がありもう2度と葉子と会えるものと思っていなかったのだ。
「その事についてさっき巫女さんからタツ兄宛にって手紙を渡されたよ」
「さっき会ったんだ……」
というか姉さんも昨日訪問したのであるなら、葉子が来るとか言っても良いものではないだろうか?
それに引き取った、……三つ子と経緯は違えど時期が重なり過ぎではないだろうか?
葉子からシンプルの白い無地の横長の封筒を突き出される。
姉さんは派手なもの好きであり、それなのにこんな一昔前の封筒を渡すとはそれほどまでに大事な文章がこの中に刻まれているのだろう。
手汗なんか全く出ていないのに握っている手紙が湿っていくような感覚がある。
じわりじわりと、スローテンポながらも着実に手紙を覆っていく。
もう一度手を眼に映すが手汗など錯覚である。
感覚が鈍っている程緊張している。
「なぁ影太……。俺を思いっきりぶん殴って緊張を溶かしてくれないか?」
「え、マジで?」
普段ならそんな事言うわけがない。
今、俺の気分は既に普段ではないのであろう。
影太が躊躇いながらも拳を構える。
こいつバリバリの運動マンだからちょっと怖気づくが、このくらい強くないと感覚を戻せない気がした。
「歯を食いしばれよっ!」
そう言って腹目掛けてストレートパンチが飛んできた。
いつもなら避けられるだろうが、そのまま拳を腹に当てられ痛みの感覚が攻撃場所を震源地にして痛さがじわっと広がってきた。
「な……、何しやがるこのロリコン野郎!てめぇ、一発殴らせろ!」
殴られた瞬間、今までの流れの大体が飛ばされてしまい脳に支配された感情はいきなり殴ってきた男への怒りだけであった。
「え?俺が悪いの?遠野が殴れって言ったんじゃん……」
「は?何言ってんだお前?俺がそんな事言うかよ!」
光と千の仲裁が刺し込まれ、ここは俺が抑えるという結果になった。
なんで殴られたか知らんがそれについては言及しないという大人の対応をする。
ふと目の前に白い封筒が目に入った。
「あれ?つい最近この封筒見たな」
「お兄さん……、最近じゃなくてさっきですよ」
瑠璃からのフォローをもらい思い出してみると、一連の流れと影太に殴られた理由も脳内に入ってきた。
……俺が原因じゃん……。
影太に謝ると鳥頭なのはいつもの事だからと許してくれた。
緊張もなくなり、封筒を開く決意も整うのであった。
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