再会
「はいはい、俺達裄ですよ~」
玄関の扉を開けた影太の前には同学年に近い感じの見覚えのない少女が立っていた。
自分の好みじゃないと影太はそう思ったが、普通の人から見たら美人な感じで少しミステリアスな感じで人気者のような風格はある。
ただ、この男が異常なだけである。
「…………」
少し彼を観察していた少女であったが何かがダメであったのか無言、無表情で影太を見ていた。
『お前誰だよ、そんな変態の姿して』と言われてもないのに言われた気がするのであった。
「すいません、人違いでした……」
本来であるなら来客の少女が言うべき言葉なのであるが、この場に耐えられなかった影太がそう言って玄関から離れるのであった。
作戦失敗を果たした影太がノコノコと居間に帰って来た。
「あいつとってもかっこ悪いな」
「そうだね~」
センサーカメラを見ていた音、瑠璃、。
特に何もしていない2人だが文句だけは人一倍多かった。
影太と入れ替わりに星丸が玄関に駆けていき、来客と鉢合わせする。
「…………」
「…………」
無言の睨めっこがスタートした。
睨めっこの間、星丸は誰かとの雰囲気が似ている感覚があった。
なかなかに背は高め、目がとにかく先程見た桜祭ユキの目に似ている。
品はあるが何を考えているのかわからない、第一印象はそんな感じ。
憧れる程に格好良いが何を考えているのか全くわからない、そんな第一印象を受けた事のある親友と重なって見えた。
「すいません、人違いなっしー」
睨めっこに耐えられずに星丸は下を向いて家に戻った。
なんとなく、着ぐるみに入っているからか、こんな喋り方にした方が良いと思っただけである。
色んな意味で人違いだと星丸は自分に言い聞かせるのであった。
―――――
こうして1分も持たずに敗退した兵が2人居間に戻って来ていた。
「こうなったらもう兄貴を呼ぶしかねーぞ」
「当事者のお兄さんと何か手を打ってくれそうな平手先輩は不在ですからね~」
「使えない人間って何しても使えないよね」
「……」
「……」
三つ子の末っ子のめぐりの言葉に2人は何も言い返せなかった。
このまま達裄が不在という事にしようかという判決になりそうな時であった。
「今ここに達裄様がお戻られになりましたよ~。私、達裄様の活躍見たいな~」
人の変わったニコニコの甘えん坊メイドと、後悔した顔の少年が出てきた。
「…………やり過ぎた」
さて、千の事は触れないとして状況を軽く見渡す。
影太と星丸の失敗は着替え部屋からでもわずかながらにも伝わっていた。
正直、俺がこの場に居たとしても同じ策を6割ぐらいの確率で実行に移していただろう。
「使えない人間って何しても使えないよな」
「全く同じ事さっきも言われたんだけど……。なんだよこのドS兄妹」
おそらく同じ事を言うとしたらめぐりだろうか。
なんとなく三つ子の事がわかってしまっているな。
「ここは提案あるんだけどいいかな~達裄様~?」
正直今日1番会話をしていると思われるメイドが僭越ながらと言った気配を醸し出していた。
信頼するべきかしないべきか、半々な態度でメイドの言葉を耳に入れる。
「こうなったら萌えボイスに変えて、ユキちゃんである今の姿で出て行ったらよろしいかと」
なんとアブノーマルな趣味をお持ちの人物の振りをして出て行けとの事。
俺の悪い反応が来るのを見越していたのか話をそこからだと頷いていた。
「そして向こうの彼女は当然『女だし別人だ』とあなたを否定するでしょう。そこで達裄さんが『じゃあ知らん』と追い返しましょう。本当に達裄さんが出ているので後で文句言われても向こうが悪いですよ」
なんという屁理屈。
しかし俺が彼女の前に現すのも事実。
やるしかないのか?
ぶっちゃけ俺が千と着替え部屋で云々しているよりもまず着替えろよという話であるのだが……。
目先に囚われる初歩的なミスである。
「これしかないですよ達裄さん!」
猛プッシュする千。
周りはまず根本的におかしい事に突っ込んでくれたら俺も否定するのだが、案が無い以上皆黙るのみ。
と思ったが恋だけはメイド服の袖を引っ張り俺を呼んでいた。
傍から見たらおねだりされている構図に見えるのではないだろうか。
「お兄ちゃん、がんばろ」
「よし、やる」
「あー!達裄さんのシスコーン!」
恋の一言に背中を押された。
お手柄を全て奪われたとのた打ち回る千に労いの言葉を掛けぬままマイクの操作だけしてもらった。
「あー、マイクのテスト中。千に感謝なんかしないんだからねっ!」
やたらツンデレみたいな口調になっているのでそこだけ直してもらいそのまま玄関へスカートをなびかせて進軍した。
しかしセンサーカメラの向こうの彼女は誰かに似ているんだよな……、そんな思惑が胸の中で渦巻いていた。
ドアの開ける音と同時に対面する彼女。
背はすらりと高く背筋の良いモデルみたいな体格で胸の大きさも目が向いてしまう程である。
雰囲気は謎っぽい感じで、可愛いし美人という両立した整った顔。
この辺ではまったく見慣れないセーラー服に身を包んでいて、田舎っぽさや古い感じという印象に残る。
髪も長く伸ばしサラサラでストレート、若干髪質が自分と似ているかもしれない。
さて、そんな正体不明な彼女は俺をなぞる様に見ていき、見終わった反応として大きく変わった反応は目であった。
大きく嬉しそう、幸せそうそんな目に変わって俺の胸目掛けてダイビングしてきた。
「ん……?」
女の子が目の前に、しかも見た目に似合わない形容するなら子供っぽい甘いシャンプーの香りが思考を一瞬停止させる。
知らない女の子に突然の抱き着き。
この反応は光の先程のものと酷く酷似していて、そんなに可愛いからって抱き着くものかと思ってしまう。
が、どうやら抱き着いた理由はそんな事ではなかったらしい。
「久し振りだよー、タツ兄~」
「え……?」
とてもとても懐かしい響き。
自分を兄と慕い、どこにでも着いて来た正真正銘の俺の妹。
彼女だけの俺への呼び方であった。
彼女の成長した声であった。
彼女の甘えた声であった。
「葉子……?」
「えへへ」
そうやって俺の胸から顔と腕を離した。
そのまま右手を俺の方向へ伸びたかと思ったらそのまま逸れていき、あるところへ止まるのであった。
ピンポーン。
エコーされる呼び出し音。
「正解だよタツ兄!」
「くだらねぇ……」
馬鹿な再会を果たすのであった。
お父さんの親族に引き取られた俺、お母さんの親族に引き取られた葉子。
生き別れになった実妹である。
「というかなんで女の子の声なの?女装してるし感動の再会シーン台無しじゃん」
「ごもっとも……」
というか何故にそんな事わかるのか?
実は案外男ってわかるものなのだろうか?
「いや、タツ兄じゃなかったら多分男だってわからなかったと思うよ。ただね、……説明は付かないけど、見えない繋がりみたいなかな」
「見えない繋がり、か」
「血の繋がりだけじゃないんだよ!ただ繋がってたんじゃないかな」
「……そうだな。ただ繋がってたか」
俺にも思惑があった。
これが俺にも繋がっていたという感触だったのかなと思う。
本当にコスプレと声が残念である。
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