49キロの悲劇

重要な場面。

めぐりの死も無事(?)に終え、残り3人である。


「こ、れは……」

「光さん出してしまいましたね」


光が止まったマスには無差別マスと赤い大きなマスである。

『女狩りをする殺し屋が出現。女プレイヤーは全員強制終了』との表示。

この一生ゲームで空気化したまま俺は勝利を掴み取ったのである。


『プレイヤーはついにマフィアの争いを7割鎮圧。もう少しで平和が待っている。また戦地に降り立つのだが……。「パ、パピーの仇ぃぃぃ!」錯乱した幼い少女がプレイヤーの背中にナイフを突き刺す。自分の子供と同じくらいの歳の子に手は上げられない――無駄なプライドで反撃が出来ない。プレイヤーの意識はそのまま闇に堕ちて行く。「これは幸せの為の争いだぁぁぁ!」。少女の人生もまた真っ赤な血の一生が待っているのであった……。BAD END』

「なにこれ!?これ誰も報われてないじゃん」

「あー、これ分岐エンディングなんですよー」

「ところどころ手が込んでるところに腹立つゲームだなこれ」


勝利者すら不快にさせる一生ゲームはこうして幕が下りた。

全然楽しくなかった、感想以上。


「幼い少女に殺されるとかうらやまっ!」

「お前は食いつきどころがおかしい」


ロリが相手なら殺されても良いのかお前は、人の趣味には口を出すつもりもなく素直に受け止めた。


「平手先輩、これのHAPPY ENDも聞きたいです」

「食いつき良いね瑠璃ちゃん」


しかも千の奴、かなりナレーションが上手である。

メイドだからか?その辺の認識が麻痺しているのだが。


『こうしてマフィアの抗争は終わるのであった。HAPPY END』

「面倒になってんじゃねーよ」


製作者の飽きが伝わる文章であった。

それは置いておき、結局数十分しか時間が潰せなかった。

もう少し時間を潰したいと考えていると部屋に大きな音が鳴るのであった。


ピンポーン。


本日5回目のインターホンであった。

今朝流亜に説教された時と同じ『時間割いて来てるんやからはよ出ろや』と言われた気分になる。


『すいませーん、遠野達裄さんはご在宅ですかー』と女の人の声がセンサーカメラのマイク越しに聴こえてきた。

知らない女の声で不信感を持って出て行こうとしたのだが、立ち上がった時の歩きにくさで肝心な事がフラッシュバックされた。


「わたくしまだ桜祭ユキの恰好でしたニャン」


思い出したかのようにマイク操作の千。

この姿で外に出れば変態確定である。



「……直してください、マイク、今すぐ」

「んん?」


わざとらしく笑う千に少しキレてしまい首輪に手を掛ける。

ちょっと手を加えれば簡単に壊れそうな小型マイクで、千は「それはやめて」と慌てだした。

この場の指揮を目を合わせた恋に任せておいた。


「じゃあ少しおしおきの時間だ千。心と懐が広くて、顔の狭い俺を怒らせてしまったな」

「あ、はは。お手柔らかにお願いしますねー……」

「気にするな。いつも手加減してるから」


にかっと千を安心させる様に笑顔を向けるが更に千が怯え始めた。

久し振りに血が騒ぐ。

メイド服の襟を掴み軽く拘束する。


「た、助けて光さーん」

「…………」

「目を逸らさないでくださいよー」


しかし油断は出来ない。

こいつの演技なのかはわからないが目にはわずかばかりの余裕がまだ残されていた。

この余裕を退ければ絶望に変えられるであろう。

そして、最後の一手を繰り出してきた。


「残念ですね達裄さん、変わり身の術!」


自称くノ一がそう叫ぶと俺が掴んでいたメイド服の中身が千から、重量のある人の形に形成された藁人形にすり替えられた。

やはり奥の手が残されていた、舌打ちをしながら辺りを見渡した。


「我が風は捉える事出来…………えっ!?」


決め台詞にでも入ろうとしたのであろうが、俺があらかじめ警戒していた対策に驚いてまぬけにも簡単に引っかかってしまった。

千登場の予測地点にすり替えられた藁人形を投擲、そのまま千にクリティカルヒット。

忍のプライドをズタズタに引き裂いてやった。

右手にもう一度メイド服の襟部分を掴み、ぎゃあぎゃあ騒ぐ千にお構いなく着替え部屋へ引っ張っていく。

ものすごい抵抗だが千の体重が軽いのかそのままズルズルと床に擦れていた。

補足するが、女の体重は軽いのだ。

手にかかる重さ的に50キロ前後かなと思っても一輪車ぐらいの軽さだと思えば一輪車の様な気がしないでもないが、多分49キロ誤差プラスマイナス1キロ位であろう。


「抵抗するな49キロ。ジダバタすると重く感じる。体重バレたんだから気にするな49キロ。案外重いな49キロ。引っ張り辛いんだよ49キロ。4949泣いてんじゃねーぞ49キロ」

「やめて……」


本当に涙目になった千に良心が痛まないわけでもないが、それでも心を鬼にする

覚悟を身に纏い居間から出ていくのであった。






―――――






大丈夫かな、と引きずられる千ちゃんに少し同情する。

お兄ちゃんの事を知っている光さんと星丸さんは目を背け、とばっちりを受けない様にしていた。

お兄ちゃん、怖いな……。

あまりに酷い事をするならやり過ぎだと一言忠告も必要かなって思いました。


『すいません』とまた聞こえ、とりあえずお兄ちゃんの声を出そうとするが人前ではどん退きされる可能性があるから蝶ネクタイ越しに声マネをしろとお兄ちゃんに言われていたので千ちゃんが用意していたBの衣装の箱を開けると漫才師の恰好というのが出てきてその蝶ネクタイを手に取り口元にあてがった。


「『はい、今行きます』」

「恋姉さん見た目が子供の探偵になってるよ!」

「落ち着きなさい瑠璃、平手先輩の特殊マイクでしょ」


慌てている瑠璃と冷静なめぐり。

めぐりの勘の良さがフォローになっていました。

多分マイクは千ちゃんじゃないと操作出来ないものだと思うのですが。


「お姉ちゃんの見た目は子供ってそのままだろ!」


…………後で叱っておきます。


「それで、恋ちゃん誰が出て行くの?達裄不在だし、多分居てもあの恰好じゃ出ないだろうし」


恥ずかしい姿の光さんも多分出て行かないでしょう。

何より向こうはお兄ちゃんを要求しています。

変わりが務まるのは星丸さんと影太さん、しかしお互い恥ずかしい恰好のままです。

悩んでいると立候補が、なんと影太さんです。


「じゃあ俺が行こう。星丸よりかは遠野と身長近いしな。恋ちゃん、瑠璃ちゃん見ていてくれ。サッカー部次期キャプテンの俺が行こう」


お兄ちゃんと次期キャプテン、何か関係あるのでしょうか?

という事はサッカーが得意なのでしょう、凄いですね。

居間からやる気満々で出て行きました。

しかし、何故チラチラこちらと瑠璃の方向を見るのでしょうか?

さっきから何回か見られている予感はありました。

見えない何かが見えるのかな?

お姉ちゃん、巫女だからそういうの詳しいかな?

うー、お兄ちゃん守ってくれるかな。


「影太さんが私と瑠璃を不自然に見てくるのですが幽霊でも居るのですかね?」

「あいつ病気だから気にしなくていいよ。幽霊なんか居ないから。女神なら見えるよ」


光さんに相談をして少し肩が軽くなりました。

とても頼りがいのある先輩なのです。

女神ってどんなかなー?


あ、センサーカメラに映る影太さんの活躍を見逃してしまいました……。

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