桜祭ユキは撮られる

唯一残念なのがこの身長である。

星丸ぐらいの165センチもいくかいかないかくらいの身長であったなら花丸であったかもしれない。

星丸が花丸と口に出してみると少し変に感じる。


『ここでネタばらしでーす』


ついにドッキリ宣言を下されようとしていた。

ようやくこの茶番が終わるのかと光に揺らされながら安心していた。

……って光?


『桜祭ユキちゃん、実は名前でわかっただろうけど遠野達裄さんでしたー』


光に抱き着かれたままドッキリ宣言。

このタイミングを千は狙っていたのであった。


「え……?た、達裄……?」

「テ、テヘペロ」


固まっている光に俺は渇いた愛想笑いしか出来なかった。

ユキと呼ぶ義妹もこの時ばかりはとんでもない物を見たかのように目を丸くしていた。

特に反応を示さないのは星丸、ってこいつ着ぐるみだから喋ってダメだったんだな。


「というわけで俺はこの声でわかる通り達裄」

「わたくし自身こんな事になるなんて思ってもみませんでした」

「だって、ユキポン鏡見てちょーびっくり!」

「………………貴方、誰?」

「べ、別に驚いてなんかないんだからぁ」

「人、すごく、変わる」

「って千はん、ふざけんのやめーや」


コロコロマイクがいじられ1人漫才しているみたいで周りから退かれ気味であった。

本当は最初だけはそのままに「俺自身こんなになるなんて思ってなかったわ。俺の姿を鏡で見たらびびったわ。『お前誰?』ってなったし。メッチャビックリした。人ってこんなに変わるんだな。っておい千ふざけんな!」と言ったのである。


「ぅー達裄に抱き着いてしまった……、けど可愛い……」


怒るべきかどうか葛藤がすごく伝わるのであった。

そして光は俺に向けカシャっとスマホで撮影をするのであった。


「さぁ、みんな一斉撮影!」


光の声でスマホを向ける影太と本格的な一眼レフカメラを向ける千。

恋はスマホを出しているが撮るかどうか迷っている様子。

スマホ、ケータイのない三つ子は少し寂しい表情。

唯一の仲間は俺に向かって歩いて来て、親指をグッと上げている星丸しか居なかった。


「星丸……」

「…………」


やばい、ちょっとこいつが本当の親友みたいでうるっと目が滲んだかもしれない……。








カシャ。


「はー、はー、はー、マジぶっコロ」


結局こいつは至近距離で俺を写メに残したかっただけらしい。

こいつ金で買収した親友だわ。



『と、いうわけで対決の事なんかみんなが忘れていても私は忘れない。達裄さんの着替え姿も忘れない』

「いや、忘れて」


では判定、ドンと満場一致で俺の勝ちであり、よって男チームすべてネタ枠を制覇しての奇跡の勝利である。

光は、まあ当然かなと素直に負けを認めていた。


『では達裄さんにお祝いのメッセージをお願いします』

「ユキって変態に目覚めたんですね」

『めぐりちゃんあざーっす。どう、嬉しい?』

「MじゃなくてSだから」


微妙に質問の返事になっていないのはわざとである。

というわけで俺も忘れているであろう千の事について聞く事にした。


「着替え終わった時部屋にお前置いてきたよな?なんで俺より先にこっちに居たんだよ?」

「あぁ、あれ変わり身と分身の併用。え?達裄さん出来ないの?」

「さも出来るのが当たり前と思うなよ」


千曰くメイドの他、くノ一も極めたらしく忍術も嗜む程度との事。

現在、魔術の習得中という嘘か本気か曖昧な発言も飛び出した。


「お兄さんも出来ない事あるんですね」

「変わり身と分身に至るまで5レベル足りないんだ」

「そんなRPGみたいな設定なんですね」

「瑠璃、俺のイメージはRPGじゃなくてアクションな」

「どっちでもいいです」


流石に出来る事、出来ない事が誰にもあるのである。


「まだ夕食は早いですね。これからどうしますか?」


現在16時であり、確かにまだ小腹がすく程度であり夕食を食したいという気分にはなれない。

トントンと右肩を叩かれ、振り向くと千が人指し指を上げて俺の頬にめり込ませた。

しょうもない罠に引っかかってしまった。


「私、他にもゲーム持ってきてました」


ボードゲームのような物を持っていた。

流石メイドである。

何が流石なのか、そもそもメイドとはなんなのか考えさせられる存在だ。

だが、ぶりっ子ぶったメイドではないのは評価に値する。

そんな現代メイドは嫌いではないがメイドとして認めたくない。


「一生ゲームですね~、千ちゃんいっぱい持ってんだね」

「ただいま発売されている一生ゲーム全101種類コンプ済みだよ恋ちゃん」

「すごいね~、流石メイドだよ~」


一生ゲームとメイドがどう繋がってイコールの因果になり流石メイドになるのか。

もう親友の恋もメイドってなんなのかわからなくなっているのだろう。


「全87種類じゃないのか!?」

「音ちゃん、secret14を知らないみたいですね」


知るか!


千が言うところのsecret14とは激レアの14種類の一生ゲームであり、オークションでは出展すらされていなくて全てを所持しているのは一生ゲームのメーカーと平手千だけとの事。

1つで億とかの値段らしい。


「なんでそんなの全部集められたんだよ……」

「ファンの愛情故にかな」

「何言ってんだお前?」


当然今日は家にsecret14を持ってきてるわけがなく、どれにするかとの相談になった。

正直どれでも一緒だと思うのだが。


「これが1番ベターな奴ですね~」

「そのNO.2の一生ゲーム飽きたっしょ。今回はNO.54のをプレイしましょう」

「ハードボイルド一生ゲームか、千さん渋いね」


瑠璃が指差した有名パッケージの一生ゲームはNO.2、じゃあNO.1ってなんなのか気になるところ。

というか音も一生ゲームオタクらしい、正直着いていけない。


『ハードボイルド一生ゲームのあらすじ。時は現代、裏社会のマフィアとの抗争が早30年。無駄な血が流れ過ぎた。それを憐れんだ1人の殺し屋は抗争を終わらせるべくソーコムを手に取る。――しかしその考え方を持つ人間は自分だけではなかった……。世界を変える者同士互いに銃を向け合う。さぁ、真っ赤な血の一生を真っ赤な薔薇の一生に変えろ!NO.54ハードボイルド一生ゲーム。――これは幸せの為の争いだ!』

「無駄に世界観が壮大なんだな」


痺れるキャッチコピーである。

というわけでゲームが開始されるのであった。


「ふふふ、俺からルーレット回すぜ!」


未だに犯人姿の影太が勢いよくぐるぐるとルーレットを回し、指されたのは6であった。


「えーっと何々?『組織に裏切りがばれ射殺される。DEAD END』……終わっちゃたよ!」

「山田君リタイア」


影太に引き続き瑠璃も1ターン目で射殺されるのであった。

なんとこのゲーム、お金の所持金がないわけではないが、勝敗は最後まで生き残った者が勝利というバトルロワイアルな一生ゲームである。


「罠に嵌めた。後ろ側でこのマスから1番近い者を射殺する。同じマスに留まる姉ちゃんと海谷先輩同時に死亡だな」

「残念ですね音、こちらにはイベントカード『道連れ』があります。音もバキューンです」


死にまくりである。

この時点で俺、光、めぐり、千以外死亡してしまった。


「変装がばれて逮捕。3ターン後に死刑。……死にゲーじゃん」


めぐりもほぼリタイア。

開始10分、既に終盤を向かえていた。

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