シスコンとロリコンの2択問題

詰め寄られ糾弾される影太。

こういう図を見ていると何もしていない影太が悪人に見えるから不思議だ。


「影太、千ちゃんに謝ったら?」

「大丈夫、千ちゃん?」

「山田先輩、謝れよ」

「先輩?」

「クズね」

「……なんで俺が悪くなってんの遠野?」

「犯人だからじゃね?」


女性全員を敵に回し、俺が締めくくった。

ところで今はまだ対決中なので千の衣装着替えに移る。


「あれ?Qの箱が無いわ。トラックにでも忘れてきちゃったか会社に忘れたか。Qはどうせ地味だしね」


自虐を見せる千だったが困っている。

そうして数秒悩むと思いついたかのように笑顔になった。


「そうだ、裸になりましょう」

『ジャッジをくだしましょう。審判である恋姉さん、めぐりちゃん、私の順番で決断を出していきましょう』


司会の瑠璃は珍しく真面目な事を言った。

千の爆弾発言を完全に無視して割り入っていた。


「ア」

「ウ」

『ト、――千さん失格です』


爆弾発言がなかったら引き直しという処置も取れたであろうに。

これで不戦勝になってしまい大将戦が決まってしまった。

星丸の勝利なのだが嬉しいかそうでないのか着ぐるみなので表情がわからない。

ところでユニフォームの音、犯人の影太、ピカマウスの星丸はいつまでその恰好をしているのだろうか?


『レディースアーンドジェ……観客は女しか居なかったわ』


瑠璃から千へ司会がバトンタッチされさっきまでの地味話はなんだったのかというぐらいにキラキラに輝いていた。


「お兄ちゃん、頑張ってね~」

「おう、任せろ」


恋の声援も頂き俺はなんでも出来るような力を手に入れた(気がする)。


『決勝戦、テニス部エース星虹光対孤高のボッチ遠野達裄』


音、影太、星丸の気持ちがなんとなくわかった。

すげーむかついた。

光は必死に笑いを堪えていた。


「勝利の女神は微笑んだわ」


先行である為に先に引いたボールを見てわけわからん事を呟く光。

こんなお遊びでも負けるものかという闘志が見える。

こちらも負けてられない。


「勝利の女神はこちらにも居るぜ!」


観客席から恋を連れ出し光の前に恋を置く。

こちらも闘志を出し、光に向き合う。


「こいつが俺の勝利の女神さ」

「松明と銘板持ってればいいですかね?」

「それは自由の女神だから」

「なら私は自由です」


そんな事を言って抱き着いてくる恋。

態度から見て、さっきから全然かまってくれなくて寂しいらしい。


「達裄君に質問があります」


急によそよそしい態度になる光。

挙手をしながら俺と恋の姿を軽蔑した目であった。


「シスコンですか?ロリコンですか?」

「…………」


究極の選択であった。

小学生なんかなんとも思わない、間違いなくロリコンではないはずだ。

ではシスコンなのか?

いや、大分判断に迷ってしまう。

考えているとポンと肩を叩く救世主。

犯人の姿の影太であった。

その目は俺が星虹を論破してやると語られているみたいであった。


「待ってくれ星虹!お前は遠野の事をよく知っているはずだからわかるはずだろ!」


いつもは気持ち悪くてロリコンにしか見ていない、ぶっちゃけ星丸のおまけとしてしか見ていなかった影太がそんな評価を覆してしてしまうものかと期待してしまう。


「遠野も男だ。男はみんな女が好き!責めちゃいけない!――そして、女の子は小さい方が可愛い!ロリコンでありシスコン!両立して良いだろう!」


俺に振り向き親指を上げて救ってやったぜというドヤ顔。

途中までは良かった気がするが締めが明らかに間違っている。

この犯人、警察に連絡して捕まえてもらっていいかな?


「お兄ちゃん、任せて」


影太の失敗を見てどうしようか考えていると次に恋が胸に手を置いて体を張りながら任せてくださいと出て行った。


「ロリコンとかシスコンとかよくわからないのですけど私はお兄ちゃんの事好きですよ」


うん、嬉しいよ?

恋しか居なかったら頭でも撫でていたかもしれないがこの選択は明らかに間違った。

やはり他力本願ではダメだ。

影太、恋のミスから俺は学び、進まなければならないと、大きく1歩前へと歩み寄る。


「俺は……、メイド萌えなんだ」

「やーん大胆な告白~」

「あ……」


地味メイドを忘れてしまっていた。

この出来事で俺のメイド萌えは公式になってしまった。

まあ今まで何回も公言した内容であるのだが。


「あっそ、まあどうでもいいけどね」


冷静に取り繕っているが付き合いの長い光の事だから俺にはわかる。

少しおこの気分だ。


「私の引いたアルファベットはAよ。ついにエースを引いた」


再開されたゲーム。

うやむやになったが光の発言した勝利の女神とはエースの事であった。


『で、出ました!Rじゃない!エース!』


地味メイドも司会に戻り早速音いじりが始まってしまった。

羨ましそうに光に目を向けた音、着替えに出る光であった。





数分後、光は着替え終わったのか足音が聞こえるのだが居間の入口前で急に足音が止み居間へ入ってくる気配が無かった。

多分立ち尽くしているのだろう。

何故こんな事になったのか居間から光を呼んでみる事にした。


「どうした光ー?」


すると驚いたのかビクっとしたのか居間の入口のドアに掠った音と弱い足音が鳴った。

お前は一体どんな姿でいるんだ。

星丸に目を合わせるが無表情、こいつ千に文句言われてから全く喋らないから忘れてたけど着ぐるみだったな。


「な、なんでもないニャン」

「『ニャン』?」


クスクス笑う千。

謎の語尾に戸惑う一同。

それを察したのかはわからないが居間の外からまた声が届く。


「う、嘘ニャン。どうなってんのニャ……」


どうなってんのかはこちらのセリフである。

星丸よりよっぽど男らしい女性の憧れ光さんがついに壊れてしまった。

俺達の光を返してくれと叫びそうになった。


俺は勇気を出しながらおそるおそる出入口のドアを開けるのであった。


「……」

「ニャ……」

「……」

「な、なにか言いなさいニャ……」

「くく……」

「笑うニャアー」


ゲラゲラ笑いたいのを我慢していたのだが無理であり、声を抑えて笑うのが限界である。

クールビューティーの光さんあろうお方がこんな事、普段ならありえないのだ。


しかも衣装も大分ぶっ飛んでおり、これは確かにみんなの前に出て来れる恰好ではない。


猫耳に猫の長い尻尾に猫の手型手袋、そして首輪。

これだけでも十分なのだがこれにプラスし、スクミズに胸にでかでかと『ひかり』と書かれた刺繍が施されていた。


「というかこの『ひかり』って文字お前の手書きじゃね?」

「胸にまで視線下げて言うニャ!しょうがないじゃニャイ、書けって指示されていたんだニャ。というかなんで私の字ってわかるのニャ!?」

「お前の事ならなんだって知っていると豪語出来るからかな」


恥ずかしそうに顔をあからさまに隠す。

光の字ってあまり上手くなく、止めや撥ねがされていない文字が特徴だからである。

これは確かに恥ずかしい。

というか指示されていたってバカ正直にするのが光らしいよな。


「その猫語も指示されているのか?」

「違うニャ、勝手にそうなるのニャ」

「意味不明なんだが?」

『それについて私から説明ニャン』


『ニャンニャン』と猫の仕草をしながら現れるメイド。

ニコニコ笑っていて楽しんでいる表情なのが誰の目でも明らかだった。


千が指を指す。

目の前を辿りぶつかった先は光に付けられた首輪であった。


『この首輪には超小型最先端の特殊マイク搭載してます。このマイクは人の言葉を吸収し勝手に語尾に『ニャン』と付けて変換され再生する事が出来ます。まぁ最先端と言っても私の自作ですが』

「お前何者だよ……」

『正体不メイドです』

「上手い事言ったつもりか!」


そんな夢みたいなマイクを作るとは……。

この正体不メイド侮れない。

というかこいつには俺でも勝てない気がする。


『この特殊マイクは他にも色々な設定のものもあります。語尾に『ワン』のは当然ながら口調が江戸っ子になるものなど様々あります。声そのものを変換する事も出来ます。本物の声優、アマチュア、声が良い一般人の男女含め1000人に協力を依頼しすべて再現出来、声同士を混ぜてトーンをいじりより良い声を出す事も出来ます。一般には10年後には出したいかなぁ。100万でも安いよね~』


通販番組のように説明を始める千。

10年経ったら絶対にこれを購入しようと決める俺なのであった。


「あたしエース引かなくて良かったわ」


居間で待機している音のセリフはとても同感出来る、理に適った言葉である。

影太、星丸もコクコクと頷いているがお前ら2人の恰好も余程変な衣装だからな。


「星虹先輩可愛いです~」

「むぅ……ユキってああいう美人好きか」


女性陣の評価はとても好感触。

俺これに勝てるのか?


そしてようやく俺の出番である。

しかしみんな奇跡の様なくじ運であるのだが俺は重要な事に気付く。


女性枠を引いた音、光。

ネタ枠を引いた影太、星丸。

男性か女性だかはわからないがあえて男性枠を引いたと仮定する千。

27個のカラーボールがあり5つ引かれ22個。

くじの中は男性枠11、女性枠10、ネタ枠1。

純粋に男性枠を引く可能性が高い。


「行けるか……」


くじ箱の前で深呼吸をして落ち着かせる。

目を閉じ俺なら男性枠のごく普通なものが引けると念を唱える。

居間には緊張の空気がぴりぴりと流れる。

いざ参ろうと俺はくじ箱に手を突っ込んでいく。


『達裄さんはラストのネタ枠を引くと予言します』


司会の千の不吉な言葉と同時に中から顔を出したのは一線を画した輝く金色コンジキのカラーボール。

印刷されていたのはアルファベットではなく漢字3文字。



















『平手千』。


ごめんなさい、意味わかんないです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る