第一章 現世

一話 平常

西暦2071年6月24日(水)


 「なぜですか。なぜ僕は落ちたんですか!」

 僕は声を荒げる。

 「まあまあ。まずは一旦落ち着こうか。ところで君は自分の”ステータス”を見たことはあるのかい。」

 「馬鹿にしているんですか!勿論あるに決まっているでしょう。」

 「なら落とされた訳も分かるよね。私の確認した資料では君の知力(生物)と知力(化学)のステータスが平均値を150以上も下回って・・・」


               ああ。また始まった


 ステータスで仕事が決まるようになったのはいつの頃からなのだろうか。少なくとも、鎌倉時代の前あたりからは確実にそうだろう。いや、聖徳太子のいたあたりからか・・・というかそもそも聖徳太子がいるのかも怪しいし・・・まあ、とにかくわからない。分かっているのは、こんな世の中は間違っているということだ。

 2047年に、政府が少子高齢化に対する策として男性の結婚できる最低の年齢を16歳に下げたのと同時に、13歳からでも働けるようになった。そのおかげで生きるチャンスが与えられたので一応感謝はしている。だが現実は厳しいものだと思い知らされた。訂正。今もまさに思い知らされている。

  

 「・・・ですから、我が社はあなたのような人を求めてはいないのです。お分かりいただけましたかね。」

 

 これ以上ここにいる必要はない。

 僕は席を立った。そしてドアのほうに向き、ドアまで歩いた。そしてドアノブに手をかける。


 「フフフッ。」


 後ろのほう、面接官の座っている席のほうからなぜか笑い声のような音が聞こえる。

 多分気のせいだろう。


 「フフフッ。フフフフフっ。」


 だんだんと音が大きくなる。

 僕は気にせず、ドアノブを回す。

 

 ガチャ。

 

 この部屋から一秒でも早く出ようと僕は右足をいつもより早くあげt!


 「わっ!」


 ばたん。


 ああ、痛い。体が痛い。


 「ハハハッ!ハハハハハッ!」


 一瞬、世界がゆがんだようにに思えた。

 そうか。僕は馬鹿にされていたのか。

 僕は今、やっとそれに気づいたのだ。


 僕は自分に嘘をついた。

 

 人の心は暗い。そんなことは分かっていたはずだ。なのに、なんでこんなにも胸が苦しくなるのか。


 振り向いた僕の眼には、顔のない面接官とドアの下の変なでっぱりが映った。面接官は僕を笑い、でっぱりも、僕を見下しているように感じられた。


 僕は急に小さくなってしまった。


 薄暗い廊下を僕は歩く。すれ違う人の顔は、見えない。ただ僕は、長い時間をその廊下で過ごし、その建物を後にした。


          この世には、希望は、存在すらしない

 

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