第78話〜迷宮の攻略

…………。


「この先の壁と地面、罠があるのは分かる?」


「ああ、模様と凹凸に偽装されてる」


あの目覚めた部屋から移動する事数時間。


俺たちはこの階の概ねの地図を完成させていた。


「罠は簡単なものばかりだけど、いくつか発動した形跡があった。たぶんダフネたち」


俺はヒナと共に複雑に入り組んだダンジョンを進んでいく。


先を急ごうとするヒナを説得して、慎重に慎重を重ねて万が一の為に地図を作った。


そこには罠の位置や種類、モンスターの出てくる部屋、次の階へと続く階段の位置が記されている。


上のゾンビしか出てこない階層と比べてこの階層は広く、複雑で、人工的だった。


等間隔に壁に埋め込まれた発光する石、調和のある模様の刻まれた壁、規則的に並べられたレンガ調の石畳の通路。


同じような道が延々と続き、地図があっても進んでいるのか不安になり、自己位置を見失ってしまいそうになる。


…………。


こうして地図を作る事で分かったことがある。


上層部のダンジョンはあくまで入口でしかなく、それも森にいくつもブロック毎に存在するのだろう。


だだっ広いこの階層を時間をかけて調べた結果、俺たちが落とされたボス部屋の仕掛けと同じ天井の部屋を複数見つけることができた。


森の中にいくつも存在する、それぞれに独立したゾンビ、又はそれに類するモンスターの出るダンジョン。


簡単に攻略することのできるそれらダンジョンのボスを倒して油断した所で、一気に本命のダンジョンに落とす初見殺し。


初心者でも倒すことの出来る簡単なダンジョンだと思って攻略してみれば、罠の仕掛けられた迷路のようなダンジョンに落とされる。


落とし穴から戻ろうにも天井は高く、壁には取っ掛かりもない上に生半端な攻撃では傷一つつけることも出来ない硬度。


入り口には戻れず、出口があると信じて先に進むしかない。


実際、地上に出るための道はないかと探してみたが、下に降りる階段以外、見つけることはできなかった。


…………。


「巧妙に隠された部屋や通路でもない限り、この階層には地上に戻るための道はないみたいだ」


「隠し部屋とかを探してる時間はない。当初の目的通り、先に進んだダフネたちに追い付く」


ヒナの索敵と暗殺者としての技能、それに俺の鑑定眼、危機察知スキルのおかげで驚くほど早くこの階層の攻略は終わった。


ダフネたちに追いつくだけならほんの数時間程度あれば問題ないだろう。


先を急ごうとしたヒナに、万が一のための脱出経路を確保しようと言って説得してこの階層を攻略したけれど、無駄に終わってしまった。


いや、いくつかの部屋でモンスターや罠を攻略することで武器や道具を手に入れることができたので、完全には無駄じゃないか。


魔力を込める事で水を生み出す魔道具や、小さな火を灯す魔道具、そしていくつかの保存食も手に入った。


この先でも手に入るかも知れないが、必要な時に見つかるかどうかは別だ。


そういう意味では収穫はあった。


「先を急ぐ。私の索敵から漏れた相手は任せる」


「ああ、見逃さないよ」


俺たちは即席とは言えパーティーを組んだ仲間として連携を取らなければならない。


それに、軽くとは言え、俺の正体やこれまでの事を教えて目的も伝えてあるのだ。


互いの目的のための協力。


俺たちは生きてこのダンジョンから出るため、ダフネたちが進んだであろう階段を降りていった。

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