第77話〜【宵薔薇の乙女】のベル
…………。
リズベルは一人、宿屋のベッドで一人、横になっていた。
ゴロゴロとベッドの上で寝返りをしてはため息をつく。
それの繰り返し。
暇は持て余しているが、決してサボっている訳ではない。
ローテーションで一人は宿に待機するのが【宵薔薇の乙女】のルールなのだ。
ちょうどゾンビ討伐で予想以上に力を使い倒れてしまったので、そのまま居残りになったのだ。
己の不甲斐なさと、宿屋で待機するだけのこの状況にヤキモキする。
リズベルは再びため息をつき、左手を天井に向かって伸ばす。
その細い手首には植物の蔦を編んだブレスレットがあり、三つの小さな結晶がはめ込まれている。
装飾品としてもお洒落だが、これは【宵薔薇の乙女】の全員が身に付けている魔道具の一種で、遠く離れた場所にいる同じブレスレットを付けた相手に連絡を送ることができるのだ。
といっても迷宮から発見されるような高度な魔導具ではないので、片方が結晶を砕いたら連動してもう片方の結晶も砕けるという使い捨てとしてしか使えないのだが。
…………。
リズベルは久しぶりに一人でいることで、いつも以上に思考に没頭し始めた。
【宵薔薇の乙女】は女性のみで構成されたパーティーだが、かといって常に一緒に暮らしているわけではない。
中には一緒の部屋に寝泊まりする者もいるが、基本的に街の中では自由行動をしている。
普通のパーティーならば団結や資金の問題、効率の面から一部屋にまとまって泊まるのが普通。
しかしながら【宵薔薇の乙女】は世界各地、様々な問題を抱えた少女たちが集まって作られたパーティー。
最低限二人で一部屋を取らなければならないが、一言頼めば一人部屋を取ることも可能だ。
もっとも、リズベルは別に一人で宿に泊まっている訳ではない。
リーダーのダフネがリズベルを心配してか、母親のようにずっと接してくるため、あまり自由な時間がなかったのだ。
別にそれは嫌ではなかったが、それでもリズベルの目的からしたら少しだけ窮屈だった。
リズベルはため息をつき、ずっと探している人物の名前を呟いた。
「はぁ、どこにいるんだろう。ナナシさん…」
…………。
リズベル、いや、ベルたちにはサポート役として、万が一自分たちが死んだ場合でも使える予備の肉体がこの世界に用意されていた。
サポートピクシーとしての身体は他の参加者に壊されてしまった。
そのため元々用意されていた予備の肉体を使うことになったのだが、あくまで予備であり、管理者の規約上により支援妖精としての肉体はこちらに置いておくことができなかったのだ。
そのため、この世界の住人と同じような肉体しかなかった。
さらに使える能力は宿っている肉体に依存する。
あくまで予備でしかなかった肉体のスペックは相応のものでしかない。
人として見れば多少能力値は高いが、それでもサポートピクシーの肉体ほど魔法を自在に操る事はできない。
代わりに参加者に対する干渉の制限が緩和されたので、一緒に旅をする上での自由は増えたのだが…
能力の制限は大き過ぎた。
ナナシとの契約は一度リセットされてしまっているため場所を探る事ができない。
また、この世界の肉体を使っているせいでサポートピクシーとしての権限が凍結され、この世界の情報を調べることの出来る管理者権限が使えない。
そうなればナナシを探すために、最期にいた迷宮を探して回るくらいしかできる事はなかった。
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