第76話〜分岐点

…………。

…………。

…………。


「何があったか、教えてもらえまふか?」


とりあえず腫れた頬のせいで喋るのも痛い。


暴力女は嫌いだ。


いや、そもそも暴力とか痛いのは誰でも嫌か。


「何を言ってるの?」


ヒナは冷たい目でこちらを見ている。


あれだけボコボコにしておいて、しれっとしている。


どころかまだ睨んできてる。


こっちはまだ子供だぞ。


外見だけだが。


見た目だけなら同じくらいでも、一応年齢は上だろう。


いや、本当の年齢は俺の方が上だが。


……ややこしいな。


…………。


「…………。」


状況の整理が追い付かない。


妙に頭が重い、というか思考が鈍い。


これは別にヒナに容赦なく殴られたから、だけではない。


まるで頭を使い過ぎたか、徹夜明けのようだ。


さっきまで寝てたのに?


「…………。」


「ちょっと、話しかけてきて何無視してるの」


俺が思考してると、少し苛ついた様子のヒナが話しかけてきた。


ピクッピクッと頭の上の猫耳が揺れている。


猫耳に尻尾。


……可愛いな。


うん?


今更何を考えてるんだ?


…………。


さて、どうするか。


優先すべきは状況把握と情報収集。


目が覚めるまでに何があったのかは分からないが、こうして無事目覚める事ができた事から一応は危険はないと見ていいだろうか。


そうだ、目覚めですぐなんで周りの状況を観察しなかった?


確かに衝撃的な事があったが、そんなことで動揺でもしていたのか?


おかしい…


何か思考にノイズが…


俺は…


どうし…


「ちょっと、顔色が悪いわよ。大丈夫なの?」


一瞬意識がなかった。


気がつくと顔を覗き込むように、目の前にヒナの顔があった。


油断した。


敵ではないとはいえ、こんなに近くに。


やはり本調子ではないようだ。


どうするか。


いっその事、全てを話してヒナと協力関係を結ぶか?


…………。


1、ここは素直に話そう


2、素敵な猫耳だね


3、頭を撫でる


4、しっぽを握る


…………。


おい、なんだこの選択肢は。


死にたいのか?


2番は蔑んだ目で見られる程度だろうが3、4番目はよくて半殺しだろう。


今現在が半殺し状態なので、次やられたら死ぬ。


……ふぅ。


ふざけるのはここまでにしよう。


そろそろ真面目に。


これは分岐点と言ってもいいかもしれない。


正直にこれまでのことを話してしまえばどうなるか。


頭の変な奴だと思われるならよし。


しかし、俺自身が気付いた、これまでの現象。


客観的に俺の行動を見てそれを観測する人が必要だ。


そう、異世界で目覚めてから何度もあった記憶の欠落。


飛んだ時間、その間の行動。


感覚はないが意識すれば動く¨手¨を見る。


……よし。

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