第75話〜転生後最大の混乱

…………。

…………。

…………。


ーーーッ


頬に何かが触れた。


段々と意識が覚醒していく。


しかし体が動かない。


拘束、されている……?


まずは情報を…


ズキンッ


意識がはっきりしてくるにつれ、鈍痛のような痛みも感じる。


頭部にダメージがあるらしい。


拘束され、頭部に痛み?


一体何が…


「…………へ?」


目を開けるとすぐ目の前に幼げな少女の顔があった。


思考が停止する。


が、無意識に観察してしまう。


長いまつげと目鼻立ちの整った顔立ち。


くちびるは桜を思わせる薄くも健康的な色で、少し開いたそこからもれる吐息が自身の口にも当たるほど近く、あと少しで触れそうだ。


そういえば寝起きに何かが頬に当たっていたような…。


すぐそこには触れなくても分かるほど柔らかそうな唇。


それが段々と近づいているよ、う、な…


「ッ!」


危ない!


理性を総動員して目を、そして顔を逸らす。


なんだ?


どうしたんだ一体。


動悸が激しい。


落ち着け。


クールになるんだ。


状況把握に努めろ!


どうやら俺はヒナに抱き枕のように抱き締められて横になっているらしい。


ヒナの体温は高めなのかぽかぽかと湯たんぽのようだ。


まるで猫を抱いてるよう……この場合は抱かれてるのは俺か。


冒険者として鍛えてるんだろうが、女の子らしい柔らかさとミルクみたいないい匂いが……!


今は子供の姿だが、中身は大人……ではないにせよ、こんな子供に……いや、ヒナは実年齢は……考えるな!


…………。


混乱する俺に、更なる混乱が訪れた。


「ぅうん」


「⁉︎」


ヒナがもぞもぞと姿勢を変えたのだ。


正確には俺の頭を抱え込むようにさらに強く抱きしめられた。


「〜〜〜っ⁉︎」


今の俺はヒナとほぼ同じ体の大きさ。


すっぽりとヒナの胸に頭が収まり、つるぺたと見えて実はささやかに存在していたらしい膨らみに顔が押しつけられる。


待て!


これ以上はいけない!


最小限の防具しか付けていない、全身タイツ姿の猫耳少女に抱きしめられて、8歳児の体が一足飛びに何かに目覚め始めている気がする!


ドクン!ドクン!…


体温と匂いに包まれて何かが!ナニカが……!


なぜこんなことに?


クールになれ。


思い出すんだ。


記憶を呼び醒ませ!


確か重厚な扉を開けて、その先にゾンビたちがいて…。


…………。


……ダメだ、思い出せない。


…………。


くそ、何があったのか思い出せない!


いや、落ち着け。


クールになれ。


どうすればいい?


…………。


1、速やかに脱出して距離を取る。


2、こちらからも抱きしめる。


3、今がチャンス!情熱的なキッスを!


4、それはもう■■■て、◇◇◇◇を◯◯…


…………。


ってそんなことできるか!


思わず選択肢につっこんだ。


「……ん」


身動ぎしたことでヒナも目を覚ましたらしい。


ゆっくりと目が開いていき、満月を想起させる金色の瞳が段々とあらわになる。


「……るな?」


ヒナがこれまでの冷たいほど研ぎ澄まされた雰囲気からは考えられないほど柔らかな表情で、寝ぼけ眼も相まって天使のような笑顔で、俺の頭を撫でた。


思わず声が出た。


「え?」


「……?……ッ!」


…………。


その後、数分にわたって繰り広げられた理不尽さを、俺は生涯忘れないことをここに誓う。

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