第66話〜道中

…………。


森に入って十数分。


進んだ距離は数百メートル程度。


たったそれだけで、空気が変わったのを感じた。


どこかまとわりつくというか、引かれるというか。


そう、¨呼ばれている¨。


その感覚はどうやら僕だけが感じているらしい。


【危機察知】スキルが反応しているのか、それとも【迷宮適正】のせいか。


どっちにせよ、¨ここはもうダンジョンだ。


つまりいつモンスターが出てきてもおかしくないわけだけど…。


…………。


1、一応忠告する。


2、やめておく。


3、そっと抜け出す。


…………。


うーん、この感覚をうまく説明するのは難しいね。


それに、妙な胸騒ぎがする。


これは気のせいかな?


【危機察知】でも【迷宮適性】でもない、ただの勘が、少しだけど僕に危機感を感じさせている?


気のせい、だよね?


けどこの胸騒ぎ、結構当たるんだよなぁ。


¨俺¨にはまだ死んで欲しくないんだけど…。


…………。


というかふと思ったんだけど。


モンスターが溢れてるっていうより、ダンジョンの範囲に森が含まれてるってことなら、街まで魔物が押し寄せる危険はないんじゃないかな。


ましてやアンデッドだ。


ダンジョンの範囲に瘴気が集中しているならその範囲から出ないんじゃないかな?


近くの、というかほぼぴったり付いてくるラナンさんを見上げて聞いてみると、


「確かに今のところ危険度は低いだろうけど、実の所アンデッドの場合スタンピードよりもその存在そのものが厄介なのよ」


「そうなんですか?」


「アンデッドの瘴気は辺りを汚染するわ。この森は恵が多いし、街からも比較的近いから大規模に汚染されてしまえばスタンピード並みの大惨事になる。長期的に見れば浄化と再生に時間がかかる分、タチが悪いわ」


ラナンさんはフード越しにも分かるくらい、憤慨しているようだった。


森人族は自然と共に生きる種族だって話だったな。


あ、フードの中で耳が動いてる。


エルフ……森人って興奮すると耳が動くんだ


「それに瘴気が濃い場所で死んだらアンデッドになって、そこを起点に範囲は拡大するんだから。だからアンデッドは見つけたら即燃やすか浄化するの」


…………。


「まだ入り口まで距離はあるけど気を付けて。ダンジョンとは関係のないモンスターも出るかもしれないし」


「ヒナの索敵があれば問題ない。それにここにいる冒険者はみんな理解してる」


「分かってるわ、ヒナ。でもこの子がいるし…」


「リーダーは子供に甘すぎる。厄介払いで見捨てられた子をみんな気にかけていたら、身がもたない」


ダンジョンの気配がいよいよ強くなってきた。


同時に森の動植物の臭いに混じって、腐臭のようなものも漂い始めた気がする。


それにしてもヒナは俺のことを警戒してるみたいだな。


鑑定したのもそうだけど、そもそも正体不明、見た目は幼いのにモンスターを倒せる技術を持ってるのは不審だろうな。


振り返ってみると迂闊な選択肢を選びすぎた、というかとっさに動きすぎたな。


このままで大丈夫だろうか?

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