第60話〜黒猫人族のヒナ

…………。


一旦引き返し、魔法の使える人にアンデッドを燃やしてもらってから《宵薔薇の乙女》の1人のもとへと向かった。


「えっと、ヒナさんで合ってますか?」


何もないように見える空間に向かって話しかける。


そこには一見すると誰もいなかったが、目を凝らすと人影が浮かび上がってきた。


無表情で小柄な、黒い猫耳の生えた女の子だった。


着ているのはぴっちりとした黒いレオタードのような服に、関節や急所を護る最低限の防具。


女怪盗とかクノイチなんて単語が頭に浮かんできた。


警戒に付いてはいるけど、恐らく本業は暗殺者とかそういう裏設定がありそうだ。


瞳孔がやや楕円形だけど、本物の猫ほどではないのか。


金色の瞳が暗がりで爛々と光る様は少しゾッとするな。


……警戒心は強そうだけど、いけるか?


…………。


1、【鑑定】する。


2、【鑑定】しない。


3、油断するのを待つ。


4、スリーサイズを聞く。


…………。


うーん、【鑑定】はしない方が良さそうだ。


勘のいい人だとバレる事もあるという話だし。


特にメイさんは獣人だ。


それも警戒役を任せられるほどの。


前情報は少ないが、獣人は身体能力と五感に優れているらしいし、それにメイさんは容赦のない気がするし……。


「…………。」


いや……。


大丈夫、か?


僕なら子供だし、一度くらいなら許してくれそうだ。


ほんの出来心だったんだって素直に謝れば大丈夫かも。


それにこんな子供を容赦なく殺しちゃ、パーティーにも迷惑だもんね?


ーーーーーーーーーー。

種族:黒猫人族(♀14歳)

名前:ヒナ

階位:28

職業:暗殺者

状態:隠形


腕力:D 体力:B

魔力:E 知力:E

敏捷:B 器用:C

運勢:D

ーーーーーーーーーー。


「何をした?」


「っ!」


ヒナさんのステータスが視えた次の瞬間、首元にナイフを突きつけられていた。


俺は何をしたんだ?


一瞬で頭がはっきりした。


なんで迂闊に【鑑定眼】を発動してるんだ!


最悪殺されるリスクの他にも、情報が拡散することは不利にしかならないのに!


どうする?


速すぎるのもそうだが、身のこなしがしなやかで無駄が無さすぎる。


よく視えすぎる瞳のおかげで見ることはできたけれど、致命的に脳と身体が追いついてこなかった。


それに、フラグでもないだろうけど職業が暗殺者だった。


たぶん察知系統のスキルで【鑑定眼】がバレた。


この場合どうすれば……。


選択肢……。


「…………。」


いや、素直に謝ればいいんだよ。


「その瞳、魔眼ではなさそうだ。【鑑定】か?」


「はい。すいません、癖で発動しちゃいました…」


僕は素直に、申し訳ない気持ちを一杯に謝る。


ナイフがあるから頭は下がらないけど、下げれるだけ下げる。


「どこまで視えたか知らないが、他言はしないことだ」


首元のナイフがいつの間にか無くなっていた。


と、思ったら腰にあったナイフ用のベルトに収められていた。


突きつけられていたのは僕のナイフだったらしい。


「来い。担当範囲を決めるぞ」


多分大丈夫だとは思ってたけど、どうやら見逃してくれるらしい。


けど二度目はなさそうだ。


ダメだな、新しく便利なスキルが発現したせいでデメリットを把握していながら、自制心が効かなかった。


これは慢心だ。


クールにならないと。


…………。


それにしても、


(小さいなぁ……)


ヒナさんの大きさは下手をしたら今の俺と同じかそれより小さいかもしれない。


一応は成人しているし、年齢も14歳であることを確認したが、本当に小さい。


猫人族だから小さいのか、それともメイさんがとくに小さいのか。


気になるところだが、変なことを考えているとこちらに鋭い視線が向けられるので真面目に警戒しておくことにしよう。


…………。

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