第57話〜厄介払い?

…………。


門番の詰所の奥の扉をくぐり、入ってすぐの部屋が待合室だった。


部屋の壁は通路と同じ石造りで、頑丈そうだ。


床には薄い絨毯が敷かれ、最低限の家具に大きめの机、椅子が四つある。


窓は鉄格子が嵌められているせいで、待合室ではなく取調室みたいだと感じた。


部屋には門番をしていた人の良さそうなおじさんと、あとから入って来た若い兵士風の男と俺の3人。


兵士風の男は羊皮紙の束に羽ペンを持ち、調書のようなものを書き込んでいる。


ここ、本当に取調室じゃないよね?


「君、名前は?」


「えっと……ナナシ、です」


「ナナシ?本名かね?」


自分で決めて名乗っておいてあれだが、ナナシって明らかな偽名だよな。


ちなみに人の良さそうなおじさんはラクサスって名前だった。


無駄にカッコ良いな。


「いえ、思い出せなかったので仮の名です」


「とりあえずナナシだね。実は君が来る少し前に冒険者からとある報せがこの街に届けられたんだ。『パンテラとシャマルを結ぶ街道にアンデッドが大量発生している』と。君が来たと言う道がちょうどその街道なんだ」


「え、それって……」


なんてことだ。


そんな状況で子供が1人やって来た。


それはもう完全に関係者ですと言っているようなものだろう。


1、……。


2、……。


3、……。


4、諦めて話を聞こう。


選択肢もまったく浮かんでこない。


…………。


「それで君はどの程度の記憶があるのかね?なにかアンデッドの手掛かりになるような情報があると助かるのだが」


大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない。


ここは素直に答えておけば見逃されるはず。


この人たちが知りたいのはアンデッドに関する情報だけだ。


つまりそんなの知らないんだから、そう答えるだけだ。


「えっと、申し訳ないのですが、森の中で目がさめた時より前の記憶はなくて…」


「うーむ、そうかね」


嘘は言ってないよ?嘘はね。


名前とか、記憶喪失なのも、嘘じゃない。


あの男の人の死体とか、たくさんの死体の記憶とか?


なんのことか身に覚えがございませんね。


「ラクサスさん、どうせならこれから派遣する調査団と一緒に連れて行ってみてはどうでしょう?」


「なんだって?」


ちょっと、いきなり何を言い出すかね。


「危険ではないか?アンデッドの規模はまだ不明だし、調査団も子供を連れて行く余裕など無かろう」


そうだよおじさん、その通り!


「しかしその少年の記憶喪失も現場に戻れば治るやもしれませんし、報告に戻った《宵薔薇の乙女》も調査団に同行するそうです。この街に孤児院はありませんし、身元の分からない子供を雇う店も……」


「うーむ、確かに彼女達ならば……」


え、何この流れ?


「ちょうどこの後彼女達を含めた先遣隊が門に集まる。ちょっと顔を合わせてみるといい。なんであれこの街で生活するなら損はないよ」


ああ、これ厄介払い的な話か。


最初から詰んでた疑惑だ。


…………。

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