第51話〜???

…………。


◇???◇


「かしらぁ、馬車の中にいた奴らも全員始末しましたぜ。女はなしでさぁ」


「ちっ、女がいりゃ奴隷商に高く売れたってのに」


積み荷を漁る者。


護衛の死体から持ち物をくすねる者。


意味もなく死体を嬲る者。


人とはどこまでも下へ下へと堕ちていくものだ。


死体の中には首輪をつけた子供の姿もあった。


奴隷に付けられた首輪は正規の奴隷商で手順を踏まねば外せない。


無理やり外そうとすれば、どのみち死んでしまう。


だからと言って躊躇いなく殺す彼らは、奴隷を物としてしか見れらない人のクズであることは間違いない。


「お頭、あの御者とガキはどうしますか?」


「ふん、積荷はいただいたんだ。わざわざ追い掛けるのも面倒だな」


「ですが頭、あの逃げた御者はともかく、ガキは売れるんじゃねぇですかい?許可なく逃げ出せたってことは奴隷じゃないだろうし。それにもしかしたら金目の物を持ってったかもしれやせん」


「ふん、確かにな。……よし、何人か追いかけさせろ!」


「へい!」


「お頭ぁ、こっちに女物の服が脱ぎ捨ててありやした。ガキでも女なら高く売れますぜ!」


「へへ、そいつはいいな。ガキでもたっぷり仕込んでやりゃ「聞いてられんな」…なっ」


盗賊の頭の台詞を遮って前に出る。


これ以上聞いていても愉快にはなれそうもない。


こっちまで心が腐る。


「やれやれ、この世界は命が軽すぎて困るな」


「なん、いつの間に!」


「いつの間に?普通にまっすぐここまで来ただけだがね。逃げて来た男に助けを求められたんで、話を聞いてすぐ飛んできてみたわけだが、こりゃ手遅れみたいだな」


護衛を含めて全員事切れている。


無駄に傷をつけるもんだから出血も激しい。


蘇生は無理だ。


助けは間に合わなかったようだな。


まぁあの逃げてきた奴は雇い主を助けてくれってよりは、自分だけを助けて欲しかったみたいだがな。


「まったく、あいつみたいにはいかねぇな。俺はいつだって少し遅れちまう」


「何意味わからねぇこと言ってやがるジジイ!おい!誰でもいいからこいつをぶっこ『黙っとけ』っ…⁉︎」


少しばかし殺意を込めて言葉を吐く。


この場の誰もがそれで動かなくなった。


「俺は別に平和主義じゃねえし、世の理不尽全てを恨んでるわけでもねぇ。けどな、ガキの将来めちゃくちゃにするような奴が一番嫌いなんだよ…」


ようやく目の前にいるのがただのジジイじゃないと分かったのか、顔を青くして全身に冷や汗を流し始めた男ども。


だが、理不尽に対しては理不尽であることを抑えない、それが俺の信条なんでな。


少しばかし憂さ晴らしも兼ねて掃除をしよう。


どうやら、目当ての人物はいないみたいだしな。


逃げて言ったのも女の子らしいし、どうやら勘は外れたらしい。


まったく、本当に嫌になる。


…………。


盗賊の一人が、力無く崩れ落ちた。


目の前の出来事があまりにも衝撃的で、あまりにも理不尽で。


数十人はいる盗賊団。


それがたったの一人の小柄な老人に圧倒されていた。


綺麗に剃り込まれたスキンヘッド。


片目を覆う眼帯。


明らかに人工物と思しき義足。


小柄とはいえ、はち切れんばかりに鍛え上げられた老人の身体が、まるで野生の獣のように跳ね回る。


その度に盗賊が死んでいく。


老人の拳が身体に届く前に気絶できた男は幸せだった。


理不尽はほんの数分でその場を男たちの血で染め上げたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る