第44話〜地獄に仏
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僕は今馬車に揺られている。
ボールスたちに助けられたのは、ほんの2日ほど前だ。
死にかけていた僕をボールスたちのパーティーが拾い、丸一日かけて最短コースでダンジョンの外まで運んでくれた。
ボールスのパーティーは4人一組。
男三人に女一人だ。
剣士のジョルノ。
盾士のベン。
槍士兼弓士のボールス。
盗賊のジュリア。
ジョルノは犬の獣人族、ベンとボールスは人族、そしてジュリアはダークエルフという森人族の一種らしい。
4人は瀕死の僕を交代で担ぎ、探索を中断してまで外に運び出してくれた。
そして7歳の子供を一人放置するわけにはいかない、と近くの街まで運んでくれることになったのだった。
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「それにしても災難だったなぁ」
「左手もモンスターに食われて、記憶まで無いなんてな」
【言語理解】のおかげで会話に支障がないのは助かった。
ボールス達には僕のことを説明する際に、記憶喪失で気付いたら迷宮ダンジョンで死にかけていたと言っておいた。
命の恩人相手に申し訳ない気持ちがあったが、異世界から来たなんて言っても信じてはもらえないだろう。
それに今の僕は子供だ。
変なことを言って追い出されたりしたら、露頭に迷うことになる。
まだこの世界のことが分からないうちは大人が必要だ。
その点こんなに優しい人達に拾われたのは幸運だった。
地獄に仏とはまさにこのことを言うのだろう。
パーティーリーダーのボールスはスキンヘッドで強面だが、瀕死の僕を見て即座に助ける判断をしてくれた。
剣士のジョルノは無口だが、嫌な顔一つせずに汚れた僕を一番に担いでくれた。
盾士のベンは軽薄そうな見た目と口調だったが、出身や家族のことを含めて一番話しかけてくれた。
ジュリアも記憶喪失だからと分からないことは事細かに教えてくれて、街に着いたらどうすべきかなど役立つことを教えてくれた。
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「それにしても魔具の水筒を持ってるのに水不足で死にかけるなんて、間抜けだったね」
「魔具の水筒?」
今は馬車の荷台には僕とジュリアの2人だけだった。
記憶喪失を理由に色々と聞いているところだ。
「そう。お前が拾ったって言うこの水筒、ここに丸い模様が描かれてるだろう?」
そう言ってジュリアは拾い物の水筒に描かれた模様を指差す。
「これは刻印と言って、魔力を通すことで魔法と同じ効果を得ることができるのさ」
目の前でジュリアは実際にやって見せてくれた。
側から見ると指先を模様に付けているだけだったが、渡された水筒には並々と水が入っている。
「すごい!」
「はは、こんなのちょっと大きな街ならどこでも売ってるよ。魔具は魔道具と違って比較的簡単に作れるらしいからね。その分使用回数があるんだけど」
ジュリアはファンタジーに興奮する僕の頭を撫でながらそう言った。
僕は今7歳まで若返っているとはいえ、実年齢は15歳。
かなり恥ずかしいが、助けてもらった相手だし、それに嫌というわけではない。
甘んじて受けよう。
迷宮から脱出できた安心感からか見た目に精神が引っ張られてしまっている気がする。
それにしても魔具や魔道具、他にも知らない単語がいくつも出てくる。
興味深いことばかりだ。
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