第43話〜出会い

…………。

…………。

…………。


喉が渇いた。


水筒の水はとっくに飲み干してしまった。


ここ数日、水を飲んでいない。


保存食はまだあるが、水がないせいで食べるのにも苦労する。


階段を見つけては上り、もう五層分は進んだ。


階段を上がる度にモンスターが増える。


もしかしたら進む方向、いや、上下を間違えたのかもしれない。


普通に考えて、ダンジョンは進むほどに難易度が上がり、敵の数も増えるはずだ。


けれど上がる度にモンスターを簡単に倒すことができるようになってもいる。


もう道を引き返す余裕はない。


このまま進む以外に道はない。


…………。


ナイフを振るう。


悲鳴もなく、目の前のゴブリン三体の首が飛ぶ。


もう片手でもこんな雑魚には苦戦しない。


それは例え身体が不調であってもだ。


スキル【体術】と左手を失う前と同じ程度には動けるようになったとは思う。


ズキンと、もうない左手が悲鳴をあげる。


目の前で緑色のドロリとした血を吐き出すゴブリンの死体が目に入る。


臭気も醜悪さも、気にならなかった。


気付けば嫌悪感すら感じていた緑色の血を啜っていた。


そして喉の入り口でえづいて吐いた。


苦労して食べた食糧すら吐いて、半分乾いてザラザラしている舌を何度も爪で掻いた。


ダンジョンの床にはもう僅かな灰の山と、クズ石のような破片しかなく、そして半ば固形の吐瀉物が広がっていた。


水が欲しい。


…………。

…………。


このまま死ぬのだろうか。


絶望がじわりじわりと侵食してくる。


モンスターたちへの恐怖とは別に身体が震え始めて、止まらない。


いやだ。


嫌だ、嫌だ、嫌だ!


死にたくない。


無くなった左手が痛む。


僕が何をしたっていうんだ。


なぜこんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ!


精神が追い詰められている。


おかしくなりそうだ。


子供のようにその場で蹲り、どんどん酷くなる左手の痛みに声を殺して悲鳴をあげる。


もう目が霞んできて周りがよく見えない。


喉がカラカラで、舌もヒビ割れて、声だって出ない。


耳には雑音が常に流れていて、精神をガリガリ削る。


身体が重い、もう歩くことはおろか立ち上がることすらままならない。


諦めが心をよぎる。


嫌だ。


ノイズの酷い耳に足音が、複数の足音が聞こえてきた。


イヤだ。


起き上がろうと手をつき、無くなった左手でナイフを探る。


いやだ。


足音は近づいてくる。


ガチャガチャと金属音もする。


絶望に心が呑まれそうになったその時、


「✳︎✳︎✳︎✳︎、✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎い?」


「✳︎✳︎✳︎う、こいつは……」


「おいおい、ゴブリンかと思ったら人族のガキじゃねえか。なんでこんな中層にガキがいるんだ?」

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