第7話〜無くなる記憶、重なる記録
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最初に目覚めた部屋に戻り、念のため鍵をかける。
徘徊者を始め、今の所遭遇した生き物(?)たちは基本的に階段までやって来ない。
つまり階を跨いでは追ってこないということだ。
しかしそれも確実かはまだ分からないのが現状。
手巻き式のライトは巻いてしまい直した。
リュックを下ろして裂けたりほつれたりしていないかの点検。
「…………よし」
体のあちこちにできた擦り傷や打撲痕が気になるが、残り少ない医療品を節約するために我慢する。
小さな傷や刃こぼれの残るナイフはすぐに出せるようにベルトに挟んでおく。
…………。
この部屋で目覚めてから、おそらく5日ほど経過している。
時計がないからだいたいの感覚で、これから数日経ったらもはや日にちの感覚はなくなってしまうだろう。
とりあえず床に分かったことを書き足しておこう。
『二階の中央の道』
『途中の部屋は全て空』
『奥は行き止まり』
ついでに床に書かれた簡単な地図に付け足す。
情報は形や言葉にして残さないと意味はない。
だいたい二階の地図は完成しつつある。
三階に続く階段も見つかっている。
…………。
ふと目線を上げると、扉にはボールペンではなくナイフで直接刻まれた『正』の字が8個並んでいる。
その横には『T』の文字。
これは床に書かれた自分宛の指示に従った結果だ。
『扉に『正』の字になるよう一本ずつ書き足していけ』
最初は意味が分からなかった。
それはこの状況もそうだが。
目覚めて、何も思い出せないことに驚き、そして文字や図が書き込まれた床や壁に混乱した。
しかし少しずつメモを読み、部屋の外で徘徊者に遭遇し、ようやく分かってきた。
あの『正』の字はここで目覚めた回数だ。
あの傷の数だけ、何度も繰り返していたということだ。
もちろん実際はもっと繰り返しているのだろうが…。
…………。
こうしてここで目覚めたということは……。
記憶がない以上、行動パターンは概ね同じはず……。
こうしてメモ帳を確認して、そこから注意深く行動したはず……。
思考パターンが同じで行動も同じならば、少しでも多く、書かれていない情報を集めよう……。
違和感程度でも、積み重ねていけば……。
そんな予測の下、この5日間を生き延びてきた。
…………。
さて、
1、二階に進もう。
2、正面の通路の途中にある部屋に行こう。
3、寝よう。
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