第8話〜四階への上り階段
…………。
正面の通路の途中にある部屋に行こう。
リュックを背負い、部屋を出る。
念のため左右の通路を見るが、何もいない。
ここ数日で随分と警戒心が身に付いた。
正面の通路の2つある扉の片方を開ける。
中には備え付けの棚がある。
そこにはナイフや警棒のようなものなどが並べられている。
いくつか空白になっているのは記憶を失う前に持って行ったからだろう。
右の通路の部屋にあるゴミのように、二階には折れた警棒のようなものや刃の欠けたナイフなどが落ちていた。
…………。
ナイフや警棒の置かれた棚とは別の棚を見る。
そこには空の棚と保存食の置かれた棚がある。
メモによると空の棚にはライトと救急品が置かれていたらしい。
なぜか保存食だけは減った様子はない。
……不思議だ。
…………。
補充を終える。
今回は保存食を何食分か多く持った。
ついに未知のエリアへと進入するからだ。
階段のギリギリまで上がってみたが、結構広そうだった。
最初の階を最下層だと仮定すると、逆三角形のように広がっているのかもしれない。
次で地上に出られるといいのだけれど…。
「…………。」
さて、行くか。
クールになろう。
情報収集に全力を尽くす。
…………。
…………。
…………。
後ろから迫る二体の徘徊者にライトの光を当てる。
ーーーァアァアアア⁉︎⁉︎
ギリギリ残っていたバッテリーによって生み出された最後の光はか細く、一体の徘徊者を消し去る事しか出来なかった。
巻き直している暇などない。
反撃に出た事で詰められた距離は絶望的だ。
こいつらは¨光¨という致命的な弱点がある分、物理攻撃などはほとんど効果がない。
ザシュッ!
徘徊者の影のような爪先が深々とライトを持っていた腕を抉る。
「……っ‼︎」
一瞬で熱が腕から全身を巡る。
同時に何かが身体から抜け出していく感覚。
熱と冷気が同時に体の中で混ざり合うような不快感。
苦し紛れに無事な方の手でナイフを抜いて徘徊者に投げつける。
ーーーァア!
ナイフは回転しながら徘徊者に飛んでいき、タイミングよく刃の部分が顔の辺りに当たる。
しかしそれも煩わしそうにするだけで効いた様子もない。
それでも隙はできた。
倒すための。
ではなく。
逃げるための。
すぐそこにある角を曲がる。
間をおかずに徘徊者も追いついて来た。
しかし。
ーーーァァ
こちらを窺っていた徘徊者はしばらくすると立ち去ってしまった。
「…………。」
まるでこちらを見失ってしまったような徘徊者。
¨四階へと続く上り階段で¨倒れ込むようにして徘徊者を見ていた俺はホッと息を吐いた。
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