第6話〜『メモ帳を見ろ』

…………。


床には何か小石のような物が転がっている。


[何かの欠片を手に入れた]


あの影のような何かは、ライトの光に目が眩んだ次の瞬間には消えてしまった。


まるで白昼夢でも見ていたみたいだ。


訳がわからない。


…………。


そもそも何も覚えていないのも、鍵のかかった見知らぬ部屋で目を覚ますのも異常だ。


これは、夢なんだろうか?


グゥ……。


「……!」


緊張が解けたのか腹の虫が鳴いた。


空腹感はある。


息も少し上がっていて、心臓も今更ながらバクバクと音を立てている。


こんなリアルな夢なんて、ありえない。


明晰夢だとしてもこんな……。


グゥ…。


緊張感を壊す音が再び。


「…………。」


保存食、食べるか。


そういえばここは確か誰かがいた痕跡があった部屋だ。


…………。

…………。


腹も膨れたことだし、どうしようか。


ちなみに保存食ついてだが、味は二の次、栄養価だけをとことん詰め込んでみました、を具現化したような感じだった。


さて、とりあえずすべきことは…


1、メモ帳を確認しよう。


2、二階に向かおう。


3、とりあえず寝るか。


「…………。」


よし、メモ帳を確認しよう。


先ほどは変な内容のメモ書きに、途中でメモ帳を閉じてしまった。


しかし……。


どうやら読むのが正解だったらしいことはあの影のようなものの存在からも明らかだ。


二階に向かうのはメモ帳を確認してからでいい。


…………。


『徘徊者には気をつけろ』

『襲われると記憶の一部を失うらしい』

『黒い影』

『光に弱い』

『倒すと何かの欠片が手に入る』


…………。


今ならわかる。


このメモ帳に書かれた内容はイタズラなんかじゃない。


それどころかとても重要な情報が書かれている。


徘徊者というのは先ほど襲ってきた影のようなあれのことだろう。


見た目の特徴と光に弱いというところが一致している。


他に書かれた記憶を失うという記述などから、落書きと判断してしまったが…。


「…………。」


本当に、夢を見ているわけではない、のだろうか。


ありえない体験をしている。


…………。


とにかく今は休みたいが、しかし先の見えない不安が情報を求めてもいる。


とりあえず、


1、もとの部屋に戻ろう。


2、二階に進もう。


3、残った食糧も食べようかな。


もとの部屋に戻ろう。


…………。


最初の部屋に戻ってきた。


二階に進むより先にやっておくべきことがある。


床に書かれた『メモ帳を見ろ』の文字。


その下にボールペンを使って新たに書き込んで行く。


『新たな情報を書き込め』。


これは自分自身へのメッセージ。


目覚めたばかりの、何もかもを覚えていない自分へ。


…………。


さて、そろそろ落ち着いてきた。


いつまでじっとしていても、恐らく助けは来ない。


情報を集め、自力でこの建物を脱出するしかない。


徘徊者。


よく分からない、影のようなもの。


光を当てただけで消えてしまった。


あれは何だったのだろう。


この先にも同じようなものがいるのだろうか?


念のため、手巻き式のライトの充電はしておこう。


部屋を出て、二階へと続く通路を進み始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る