第3話〜リスタート

…………。


…………。


思い出せない。


光源はないのに不思議と物を見るのに不自由はない、そんな部屋で目が覚めて、最初に思ったことがそれだった。


自分は誰なのか。


ここは何処なのか。


なぜ何も覚えていないのか。


その全てを思い出すことができなかった。


…………。


よし、クールにいこう。


そんな言葉が頭に浮かんだ。


まずは情報収集、それからだ。


そんな言葉も浮かんだ。


…………。


とりあえず硬い床から起き上がろう。


床には汚れや埃などは落ちていなかった。


いや、一点だけ。


目の前の床に文字が書かれていた。


『メモ帳を見ろ』


メモ帳?


…………。


ポケットを探ると細々としたものが入っていたが、すぐにメモ帳は見つかった。


中を見てみる。


『徘徊者には気をつけろ』

『襲われると記憶の一部を失うらしい』

『黒い影』

『光に弱い』

『倒すと何かの欠片が手に入る』


「…………。」


クールにいこう。


メモ帳には他にも色々と書き込まれているようだが、いったん閉じよう。


とりあえず情報収集だ。


…………。


床、壁、天井は全て灰色でおそらく同じ材質。


継ぎ目はなく、凹凸もない。


触った感じ冷たくはない。


光源がないのに視界は良好。


不思議と馴染んでいるような感覚がある。


明らかに人工物でありながら人間臭さがない。


けれど通い慣れたような見慣れた感じがする。


今自分がいるこの空間はだいたい3メートル四方の部屋で、天井までの高さは約2メートルほどか。


天井には跳べば簡単に触ることができそうだ。


空気穴、ダクトのようなものはないが、今の所呼吸が苦しくなったりすることもないし、特に匂いも無い。


正面には扉が一つ。


他には特にこれと言ったものは見当たらない。


…………。


後は自分自身のことか。


性別は男。


鏡はないのでどんな顔をしてるのかは不明。


手や腕、身体を見てみた感じ中肉中背で、太っているわけでも筋肉質なわけでもない。


腕や膝などにいくつかできて間もない擦り傷や瘡蓋がある。


血色は普通で、爪は少し伸びている。


着ている服は黒のデニムに白いシャツ、上着に紺色のパーカー、靴はランニングシューズで時計やアクセサリーなどはなし。


パーカーは厚手のものではない。


服や靴は体によく馴染んでいる。


ポケットにはメモ帳の他に小さな鍵と四色ボールペン。


頑丈そうな黒いリュックには、水筒と栄養価の高価そうな保存食が入っていた。


あとは使用した形跡のある簡易救急品。


他にも手巻き式のライトと刃渡り15センチほどの頑丈そうなナイフ。


水と食料と救急品、まるで災害セットだ。


いや、ライトやナイフがあるのでサバイバル装備か。


…………。


さて、この部屋で分かることはもう無さそうだ。


扉に鍵穴があるのは確認済み。


ちょうどポケットに入っていた鍵が入りそうだ。


ここで待って居ても何も無い。


鍵穴に鍵を入れると抵抗なくすんなり入って、捻ると簡単に鍵が開いた。


ゆっくりと扉を開ける。

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