第11話 お膳立ては済んでいる

 舞踏会に着ていくドレスは、ジーナちゃんに選んでもらった。

「ほんとうにわたしでよかったの、バルバラ? 実家に帰ればお母様とか、着付けが専門の使用人さんとかに、いくらでも選んでもらえるでしょう?」

「うん、ジーナちゃんがいい。ジーナちゃんに選んでほしいんだ」


 娘が次の新月の晩舞踏会に出ると知ったバルバラママンは、間髪入れずトランクを一つ送りつけてきた。身長一八〇センチ超えのイケメンの死体が三体は入りそうな巨大なトランクには、金糸銀糸で縁取られた豪華なドレスがパンパンに詰まっていた。なおネックレスだのティアラだのといったジュエリーも、後に厳重に梱包されてうやうやしく届けられた。

 あのババア、性格はアレだが、娘のことだけは目に入れても痛くないほど可愛いらしい。性格はアレだが。いやほんっと救いようもなくアレだが。


 さて、生まれてこのかたドレスなんぞに興味を持ったことはなく、この体に入って以降も持っていないオレは、いずれ劣らぬキンキラキンおべべの群れに戦慄し、真っ先にジーナちゃんに泣きついた。

 『もう、バルバラったら』とため息をつきつつ、彼女が吟味を重ねて選んでくれたライトブルーのドレスは、おっそろしいほど手触りがいい。これ着てりゃ床でも爆睡できんじゃないかと思うほど着心地がいいくせに、生地はバルバラの上半身にぴたりと沿い、下半身にかけてはさらりと流れ、彼女の成熟したボディを引き立てる。うん、ジーナちゃん中々のセンスだ。


「何これ魔術でも使われてんの?」

「たぶん、そうだと思う。バルバラのおうちって風魔術の名門だもの。そういう技術を持った職人さんにもツテがあるのよ、きっと」

「へぇ……」

「ちょっと前に本で読んだのだけど、王立劇場の舞台に立つ舞踊家には愛用してる方多いんですって。こういう、風魔術を織り込んだ布地のドレス。どれだけ長い裾で速く動いても布地が脚にからまないし、体の動きを絶対に邪魔しないからって」

「ははぁん」

 なるほど。さてはバルバラママン、大事な娘が舞踏会で裾を踏んづけひっくり返っては大変と、血相を変えて選んで仕立てさせたなこのドレス。分からんでもないが。この半年娘の体バルバラに入ってんのオレだし。


「ものすごく、高い技術が使われてるんだと思うわよ。このまえ風魔術の授業でルーカ先生も言ってたでしょ? 風魔術は空気の動きの方向や速さを変えたりは簡単だけど、止まってて動いてない空気に干渉したり、逆に動こうとする空気を一ヶ所にとどめたりは相当腕がよくないと難しいって」

「ああ、そういや言ってたな……」

 普通は止まってる物に働きかけるほうが楽だと思うのだが、まあ『風』ってのは確かに普通空気の動きを指す。そういう概念的な話なんだろう。知らんけど。


「いい品なんだなー。粋なはからいするじゃねーか、ママン」

「ええ、素敵なお母様ね。今度おうちに帰ったらちゃんとお礼をするのよバルバラ」

 言っておくけど肩たたき券とかじゃだめよ、花束とか紅茶のカップとか手鏡とか、ちゃんとお母様が使ってくれそうなものをあげるのよ……こんこんと諭してくれるジーナちゃんをよそに、オレは唇の端を吊り上げていた。

 丁度いい、こりゃあお誂え向きだ。満月の夜の舞踏会の、裏に隠れた本当の目的に。




 舞踏会の会場である時計塔のホールに、オレは足を踏み入れたことがなかった。そもそも時計塔自体、生徒会役員以外普段は立ち入り禁止だ。人前で何かするような部活に入っていると制限つきで使用許可が出るらしいが、バルバラは特に部活はしていなかったし、元の世界でバリバリの文化系陰キャ帰宅部、家に帰ってちまちまファンタジー小説書いてたオレが自分からそんな活動する訳もない。

 そんなわけで『ホール』って単語や漏れ聞こえてくる使用例から、母校の講堂に近いイメージを抱いていた。奥にステージがあって、座席が並んでいるあれ。しかしそれだと『舞踏会』には使えないので、小中の頃の体育館みたいに座席がなくステージだけがあるやつかなと思っていた。

 まるで違った。


 ステージはない。座席もない。精巧な装飾の施されたアーチ窓が二段、外の光をさんさんと取り入れている。窓からの光が一番集まる場所の壁が大きく凹ませてあって、薄布をまとった等身大の美女の彫像が飾られている。

 何より目を惹くのが、窓のある最奥を除いた全ての部分――天井と壁を覆いつくす巨大な絵画の群れだ。どれもこれも横幅数メートル超。鎧をまとった騎士たちだったり、法衣をまとった神官たちだったり、巨大な竜に対峙する少年だったり。これだけでも頭がくらくらしそうなのに、壁沿いには一定間隔で見事な彫像が置かれているし、床はたぶん大理石か何かで繊細なモザイク装飾が施されている。

 そんな中、楽団の奏でるワルツをBGMに、舞い踊ったり談笑したりするきらびやかな衣装の参加者たち。


 うん、ホールだ。確かにホールだこれは。ただし講堂ホールじゃなく広間ホールだ。受験生活に入る前に書いてた異世界ファンタジーで、主人公の祖国の議会場として参考にした、ヴェッキオ宮殿の五百人広間に似ている。


「一教育機関の設備じゃねーだろコレ……」

『ゲームの一枚絵スチルだとあんまり違和感なかったんだけど、二次元と三次元の圧の違いやばいね……』

 オレが思わず撮って送った写メを見た美佐緒が、LINE通話ごしに感嘆の息をこぼす。

 バルバラの実家アビアーティ家に出入りしてた関係で、多少慣れてきてるはずのオレさえ圧倒される。何だこれ、昔は宮殿として使われてたって裏設定でもあんのか? それとも制作者が細かいこと考えず華のある場所モデルに持ってきただけか?


『ってか兄貴なんでホール入ってんの。まっすぐ地下に向かうって行ってたじゃん』

「案内係がオレの顔見るなり『バルバラ・アビアーティ様ですね?』つって、問答無用で引きずって来たんだよ……」

『あー、どう考えてもアレクシオスの仕込みだねー。裏があるって読まれてるねー。さっさと抜けた方がいいよ兄貴、本人が出てきて身動きとれなくなる前に。それに』

 トントン、と音がした。美佐緒がテーブルなり机なりを指で叩いた音だろう。

『協力してくれるって言ったウィリディスと……それから、来るかどうかまだ微妙なとこはあるけど、ルーカ。合流しなくちゃでしょ?』

 言われなくてもさっさと抜ける。


 オレは深い青の扇子の要を指先できつく握った。『社交の場で口にするのが野暮な表現』を仕草で表すための小道具だそうで、バルバラなら使い方は心得ているんだろうがオレにはさっぱりだ。さっぱりなのに持ってきたのには風魔術のためだった。

 まったくの無風状態から風魔術を使うのは技術的ハードルが高い。オレ程度の術者なら、予備動作としてまずは周辺の空気を動かしてやる必要がある。扇子が手元にあれば自然にそれが可能だ。


 さて。それはそれとして、ホールから抜け出さなきゃならないわけだが。

「ごめんあそばせ、果物をつまんだら指先が汚れてしまいまして、外で洗わせて頂きたいのです。少しの間だけ失礼してもよろしくて?」

 ホールの入口に立つ侍従に声をかける。扇子を口元に当てて微笑み、ド庶民の脳味噌で精一杯の『貴族のお嬢様像』を演出しながら。


 猫かぶり三百パーセントのオレのシナに、侍従は顔色ひとつ変えなかった。

「アビアーティ家のバルバラ様ですね。お手が汚れたのでしたらフィンガーボウルをご用意しておりますが」

「お恥ずかしながらわたくし少々潔癖症の気がございまして、あれでは今ひとつ落としきれる気がいたしませんのよ、ねえ、どうかお願いいたしますわ」

 いや実際、全っ然汚れ落ちねえよなあのハイソな指洗い鉢。オレあれすげー嫌いだわ。あれしかねぇのに席立って手洗いにいくのが不作法とか言われるのガチで納得いかない。そもそも本当にハイソな人間は手が汚れないように食えるとか知らない聞かないどうでもいい。


 それはまぁ置いといて、侍従は困ったような笑みを浮かべた。

「その、実はアレクシオス様から命を受けておりまして。バルバラ様だけは何があっても舞踏会中はホールからお出しするなと」

「まあ、どうした事かしら。次期『護界卿』ともあろう方が、わたくしごとき一般生徒にそのような――」

 そらっとぼけながら扇子の要を握りしめた、そのとき。


「来たか、バルバラ」

 生演奏のワルツに堅い靴音が重なった。

 黒い髪に紫の瞳、闇夜から出てきたような静謐な空気をたたえたイケメンが、最盛期のナポレオンの肖像画みたいな服(これも昔小説の描写の参考にした)に身を包んでこっちを見据えていた。


「げっ、アレクシオス……」

「『げっ』とはまたご挨拶だなバルバラ」

 侍従がさっと表情を引き締めた。『わたくしの職務は済みました後は二人でごゆっくり』という顔だ。

 冗談じゃない、ごめんこうむる。


「華やかな舞踏会に関心はなしか。ある程度の予想はしていたがな。だが招待を受けたからには、最後まで会場にとどまるのが礼儀というものではないか? 貴族や令嬢の作法以前に、人としての」

「いやいやいやいやとんでもない。オレはほんっとーに、指が汚れたから洗いたいなーってだけで! 決してこんな圧の強い空間いたくないとかお前と同じ空気吸うの一秒たりとも嫌だとか思ったわけではなく」

『兄貴漏れてる漏れてる、いろいろ本音溢れてる』

 LINE通話で美佐緒からのツッコミ(アレクシオスには聴こえてない、多分)。


 イケメン野郎はイケメンにしか許されないニヒルな笑みをフッと漏らし、『まあ、いい』と言った。

「お前が招待に応じてここに来た時点で、お膳立ては済んでいる。お前の意図がどうあれな」

「お膳立てってなんだよ」

 答えながらオレは歯噛みしていた。

 隙をついて逃げようにも、こいつそもそも隙がない。良いのが顔だけならまだしも可愛げはあるってのに。


 アレクシオスは大仰に手を広げ、ホールに集う参加者たちを指した。

「バルバラ・アビアーティ、これを見ろ。何か気づくところはないか?」

「気づくって」

 全員、頭のてっぺんから足の先までキラッキラに着飾っている。老若男女の区別なく……うん? 老若男女?

 スパークリングワインのグラスを傾ける髭の男、紺青のドレスを気品たっぷりに着こなした中年の貴婦人、魔術で駆動する車椅子に乗った禿げ頭の老人――


「おいイケメン野郎てめぇ、学外からも呼んでやがるのか?」

「王宮の魔術技官長、王都アスタリア神殿の第三神祇官長、最上級造営官長。いずれ劣らぬ高官揃い、まだまだいるが何なら全員挙げてやろうか?」

「いらねえよ。って……」

 道理で学内の催しにしては参加者の年齢層が高い上に、見覚えのある奴らがほぼいない訳だ。と思ったところでオレは息を呑んだ。

「バルバラパパン?」

 アンブロージオ・アビアーティ、バルバラの父親にして伯爵家当主。確か、第二財務官長だか第三財務官長だかそこらの偉いさんだったはずだ。獅子を絞め殺す青年像の脇に立ち、ワイングラスを片手にこちらを見ている。オレが見返すとグラスを持ち上げて目配せしてきた。


「てめぇアレクシオス、何考えてやがる」

「お前のことだけだ、バルバラ」

「さぶいぼ立つセリフ抜かしてんじゃねえ。オレが聞きたいのは、」

 オレが声を低めて睨んだとき『兄貴、兄貴』と美佐緒が言った。

『挑発に乗っちゃだめ。アレクシオスは兄貴を逃がしたくないんだから。話に乗ってホールに留まるのは悪手』

「……そうだったな」


 イケメン野郎が何を企んでいようが、何もかも単なるブラフで本当は何もなかろうがオレには関係ない。今のオレが目指す場所はただ一つ。

 オレに疑念を抱かせて気分が上がったのか、アレクシオスが軽く肩をすくめた。

 この隙を突ければ――


 扇子の要を握りしめ小さく息を吸ったとき、手首に固い衝撃が襲った。

「っ!」

 ばさり、と扇子が床に落ちる。


「おやおや、バルバラよ」

 アレクシオスが口端に笑みを浮かべる。

「このような場で断りもなく魔術を使うとは、教育を受けた淑女の振る舞いではないな?」

「っ痛ぇ……」

 確かに固いものが当たったのに、見回しても何が落ちているようにも見えない。

 風魔術か。空気を凝縮させて圧力を上げ手首にぶつけた。高圧にすれば肉も裂けるというから、かなり手加減はしてるんだろうが。

 畜生何が淑女だ。乙女の柔肌に空気弾当ててるほうがよっぽど紳士じゃねえよクソ野郎。


 奥歯を噛みしめたところに、ゆっくりとオレの傍に近づいてきた男がいた。

 膝を折り曲げ、オレが落とした扇子を拾い上げ差し出してくる。

「大丈夫かいお嬢さん。怪我はないかな?」

「え、ええ……」

 扇子を受け取り、相手を見返す。

 上背こそあるが近くで見ると相当年を食っている。顔は皺くちゃだし、腹にもベルトじゃ誤魔化せないくらい脂肪がついていた。アレクシオスが『お久しぶりです、〇〇殿』とうやうやしく頭を下げたので(そして『お前敬語使えたんかよ』とオレを戦慄させたので)この国の偉いさんの一人なんだろう。

 だが、何だろう。違和感が。


「年が明ければ、貴方が新たな『護界卿』となられる日も間近ですな。アレクシオス様。いえ、『紫苑卿しおんきょう』」

「ええ、まあ。あまり喜ばしいことばかりでもありませんがね。『常磐卿ときわきょう』のことを考えれば……」

「いえいえ、新たな時代の到来はどのようなきっかけであれ言祝ことほぎに値しますとも」

 好々爺然とした男は、にこり、と微笑み、半分白髪で埋め尽くされた自分の頭に手を当てた。痒みでもあるのか、握り込むように力を入れる。


 べりっ、と、嫌な音がした。

 切れ目入りの熟れたアボカドのように、好々爺の

「はっ……?」

 剥けた皮の下から出てきたのは、緑灰色の髪と深緑の瞳。むかっ腹が立つほど整った顔立ち。

 剥がれた皮は見る見るうちに、白茶けた粘土の塊に変わっていく。

 土魔術による変装。


「ウィリディス!?」

 オレとアレクシオス、叫んだのはどっちが先だったのか。

 侍従が身をこわばらせる。周りの連中が息を呑むのが伝わってくる。

「お祝いに本日は贈り物を持って参りました、アレクシオスどの」

 周囲に花が舞い散って見えそうなほど、優雅な一礼。そしてウィリディスは自分の腹に手を伸ばす。ぽっこりと、中年太りのように膨らんだ腹に。

 シャツのボタンがはじけ飛び、中から出てきたのは。


「さあ、お受け取りください、僕の真心を!」

 声が響いた。

 にゃあ~ん、という、気の抜けるような声が。

 猫だ。白地に黒いぶちの毛皮の仔猫が、一匹、二匹、三匹。


「ウィリディスお前」

 頭がくらくらした。

 逃げる隙を作ってくれたかと、一瞬でも思ったオレが馬鹿だった。いくら何でも猫って。

 ドM野郎の頭をひっぱたくため、扇子を握りしめたときだった。

 ひっ、と、上ずった声が聞こえた。アレクシオスの顔面が青ざめていた。過呼吸のように小刻みに息を吐き、脂汗をかきながら後ずさった。

 まさか。


『兄貴、兄貴。ちょっと状況どうなってんのさっぱりなんだけど』

「なぁ美佐緒」

 妹の問いは無視して、オレは低めた声で問い返した。

「アレクシオスの弱点、こないだ聞いたよな? 二週間ちょい前あたりに。よく覚えてねぇんだけどあのとき何て答えた?」

『え? 病的な猫嫌い、かな? 確か、子供の頃お尻を引っかかれて全治三週間とか……』


 悲痛な声が上がった。アレクシオスの声と気づくのに二秒かかった。

「その生き物、いや悪魔、いや魔王どもを早くしまえ! 俺は、俺は猫は! 猫だけは!」

「何を驚いておられるのですアレクシオスどの。貴方への祝いですよお受け取りください」

「いやだああぁああぁぁ!」


 ウィリディスが仔猫の一匹を抱え上げ、腕を伸ばしてアレクシオスに差し出した。ホール一帯がざわめきに満ち、阿鼻叫喚と捧腹絶倒を足して二で割った様相と化した。

 アレクシオスに笑みを向けていたウィリディスの顔が、こちらを向く。

 苔むした岩窟の一番奥みたいな目がオレを見て、口を動かした。

 ――さあ、今ですご主人様。


 オレは今度こそ扇子の要を握り締め、小さく息を吸った。

 振り上げ、ばさり、と開いた扇面で空を打つ。

 扇いだ、というより叩きつけた空気に乗せ、オレは風魔術を放った。無から生じた激しいつむじ風が、オレを除いた周囲全てを巻き込んだ。喧騒に猫の鳴き声が混じって聞こえた。


「バルバッ……!」

「ありがとよウィリディス! 一つ借りとくぜ!」

「そのお言葉はどうか、何もかも終わった後に。できれば踏んでいただきながら」

 いや悪い。やっぱその返し方は勘弁してくれ頼むから。


「僕のご主人様」

 ウィリディスが笑った。

「輝ける方、力に満ちた方、望めば世界さえお救いになれる方。お駆けくださいどこまでも。あなたが目指される地平まで――」

 言葉が終わる前に、侍従が何名かウィリディスに殺到した。猫を抱えたままの奴はなすすべもなく、ラグビーのスクラムに巻き込まれたように姿が見えなくなる。


「バルバラ!」

 アレクシオスが叫んだ、無視した。時間がなかった。

 この世界に来て三ヶ月程度のオレでは、つむじ風の持続時間は十数秒がせいぜいだ。その間にホールから出、適当な階段を駆け上がって追ってくる連中を一度撒かなければならない。

 オレは駆けた。風の魔術で動きに沿うライトブルーのドレスでひたすら走った。閉じたホールのドアを体当たりで開け、だだっ広い廊下に転がり出た。背後で『バルバラ!』と聞こえた声に、アレクシオスだけでなくバルバラパパンのものも混じって聞こえたが無視した。


 音を立てて、ドアが閉まる。

『兄貴、大丈夫!?』

「おう」

 目当てが地下とバレたら袋のネズミだ。追ってくるだろう連中を撒くため、まずは階段を駆け上がりながらオレは気炎を吐いた。

「槍でも鉄砲でも持ってきやがれ、イケメンども!」

『いや、イケメンはアレクシオスだけだよね。他は特に関係ないよね』

 階段の下からざわめきが響いてきた。

 何でもいい。今はとにかく追っ手を振り切り、地下のアスタリア祭壇へと向かうだけだ。

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