第7話 女の子ひとり救えたなら
バルバラの日記を読み進めていく。
十一歳からの数年間は苦悩に満ち、文字はところどころ尖った筆致を震わせていた。
【281年 6月 11日】(バルバラ十四歳)
友人に酷いことを言ってしまい、自己嫌悪が止まらない。
例のあれだ。また心にもないことを言ってしまったのだ。
『口の利き方に気をつけたほうがよろしくてよ、貴女のお家はたかだか三百年、我がアビアーティ家は八百年。家の格を考えて物をおっしゃい』
そんな事考えたこともなかった。ジェラルディンは大切な友人だ。少し気が強いので、たまにきついことを言ってしまうことがあるが、それも彼女の芯の強さの裏返しだ。お母様は確かに『あの子は身の程知らずね』というけれど――『家格を考えれば貴女に聞いた口を叩ける立場ではない』そうだ――わたくしは口だけ『ええ、本当に』と同意して、心ではいつだって舌を出していた。
ジェラルディンは青ざめて帰ってしまった。あとで手紙を届けてもらうけれど、あの様子ではもう屋敷に来てくれないかもしれない。
決して本心ではないのになぜ……
いや、だが、もしかして。
あれがわたくしの本心、なのではないか?
自覚がなかっただけで、いつの間にかお母様と同じ思想におちいり、心の底ではジェラルディンを見下していたのでは? それが今回たまたま口をついて出てしまったのではないだろうか?
わからない。
つらい。
【281年 7月 3日】(バルバラ十四歳)
風邪をひいたので主治医のアンデルセン先生に診てもらった。
ついでに、という言い方は先生に失礼ではあるが、意に沿わぬ(と思われる)言動が出てしまうことについて、ひっそりと相談してみた。わたくしのことではなく、本で読んだ話だとお伝えして。
アンデルセン先生は『その方は気がおかしくなってしまったのでしょう』とおっしゃった。『気がおかしくなってしまった方はどのように治しますか?』と尋ねると、困ったように微笑んで『治りません』とお答えになった。
『他の方の迷惑にならないよう、世間から隔離するほかないでしょう。たとえば、人里はなれた山奥の病棟などに』
先生がお帰りになってから、ずっと考えている。わたくしは気がおかしくなって――狂ってしまったのだろうか。
おぞましい価値観にいつの間にか染まり、それを口にし人を傷つけてしまうのと、狂気に陥り一生を隔離施設で過ごすのと。どちらがどれだけましだろうか。
わたくしには、そのどちらにも、芥子粒ほどの救いも感じられないけれど。
【283年 4月 20日】(バルバラ十六歳)
両親は喜んでくれたが、わたくしの心は浮き立たない。
ああ、それに、
不安しかない。
お父様がわざわざ頼んでくださった特注のケーキは、何の味もしなかった。ごめんなさいお父様。
【284年 9月 5日】(バルバラ十七歳)
同級生に、ジーナ・オータムという子がいる。好成績で入学し学費免除になった特待生だ。
可愛らしい子だ。取り立てて美しいわけでも飾り立てているわけでもないが、その場にいるだけで場が安らぐ、独特の空気をまとっている。一目で分かる。この娘は誰にでも愛され、大事にされて、幸せな人生を送れる娘だ。
なのに、見つめていると悲しくなる。
頭の中で誰かが告げてくるからだ。この娘はわたしと同じものを背負っていると。
話してみたい。そうすれば、何か見えてくるものがあるのではないか。そんな気がする。
オレは固唾を呑んだ。いよいよ、オレのこの世界での生存に関わる事柄が出てきそうだ。
【284年 9月 8日】(バルバラ十七歳)
魔術実習でジーナと同じ班になった。次期『護界卿』であるというアレクシオス・サマラスも一緒だ。
『護界卿』――己の肉体を犠牲にし、精神体としてその類稀なる魔力で世界の『現実域』の安定を維持する男性。女神アスタリアのみでは維持しきれぬ世界を共に支える気高いお方。どの本にもそう書かれていたため、わたくしはかの存在に崇高なイメージを持っていた。しかし次期『護界卿』の看板を背負い
一目見るなりジーナに目をつけ、彼女の背を壁に押しつけ、逃げられない体勢にして『俺の物になれ』とのたまったのだ。聞けば、気に入った女性とみれば口説きにかかり、入学数日にして彼の
心底、あきれかえった。『護界卿』の精神の限界は三百年弱。『
しかし、それ以上にあきれかえったのは、そんな彼、そしてジーナに対するわたくし自身の物言いだった。
『入学そうそう次期「護界卿」を誘惑だなんて。それも魔術実習の最中に。やはり平民の方は節度も品もあったものではありませんわね』
この光景のどこが『ジーナがアレクシオスを誘惑』に見えるのか。あまりに見方が歪んでいて笑えてくる、いや笑えない。他ならぬわたくしの言葉なのだ。
せっかくのジーナと言葉を交わす機会が、最悪の形になってしまった。実習自体も気まずく終わり、結果も芳しいとはいえなかった。
苦い気持ちが晴れないが、明日もあるので床につこうと思う。ジーナとはいつかまた話せることを願って。
【284年 9月 23日】(バルバラ十七歳)
教室に一人残っていたジーナと話すことが叶った。
わたくしの姿を見たとき、ジーナは戸惑った顔を見せた。アレクシオスに迫られたとき、庇うどころか責めたのだから当然だろう。その反応に傷つく権利はわたくしにはない。
『ジーナ・オータムさん。少し、お話させていただいてもよくて?』
ええ、とジーナは答えた。わたくしはジーナの前の席に移動し、後ろに向けた椅子に腰掛け向かい合う形になった。
『入学してからの貴女の評判、とても芳しいようね。お友達からも、教師陣からも』
『え、ええ。おかげさまで』
『来月始めに最初の小試験があるけれど、貴女なら何の不安もなく合格するでしょうね。誰からも愛され、学業も優秀。何ひとつ道行きに曇りはなく順風満帆、実に喜ばしい事』
『あ、ありがとう、バルバラさん』
そう、順風満帆。一見、そう見える。
けれど、それは外観だけのことではないか? 外には出せない、闇の中で激しく苦悶している自分がいないか?
本心には沿わぬ行動を常に強いられる、わたくし、バルバラ・アビアーティがそうであるように。
本当は、すぐにでも言葉にして伝えたかった。しかし、今のわたくしが発する言葉はきわめて高い確率で刺々しく居丈高なものに変換される。初回の対話をこの呪いにより逃している以上、二度目の失敗は許されないと思った。
ジーナの瞳をじっと見た。どこか切なくなるような底の深い茶色の眼を見ながらお願い伝わってと祈った。
わたくしの直感が正しければ、彼女もわたくしと同類だ。わたくしが感じたのと同様の感覚を彼女も抱いているなら、受け取ってくれるに違いない。
そんな切なる願いに応えるように、彼女は言った。
『順風満帆、ではないと思うわ。不安だもの』
声を出せば全て台無しにしてしまう気がした。無言で頷いてわたくしは先を促した。
『わたし、自分では何も決められないのよ。誰かが、ああするといいよ、こうするのが一番だよ、そうしなさい、って言ってくれないと、何も選べないの。子供のころから、ずっとそう。この学園に来たのも確か、誰かに勧められたからだったと、思う。……誰に勧められたのか、なぜだかまったく覚えていないのだけど』
あの瞬間のわたくしの心持ちを、どう書き表したらいいだろうか。
泣きたいような、微笑みたいような。ただただ大空に向かって両腕を投げ出したいような。
伝わった。これはきっと彼女が、形は違えどわたくしと同じ存在に苦しめられている証拠。わたくしが決して独りではない証。
『今はいいわ、ただ授業を受けて、試験を受けて、良い成績を残していければいいわ。でも、それだけで済まないときが来る。第二学年中期になったら進路を選ばないといけない。政治家、官僚、軍人、神官……神官は早いうちに見込まれて推薦を受けないといけないから抜かすとしても、三択。あと一年半で決めなくちゃいけない。それを思うと、足がすくむの。あてのない、果てしなく長い道を前にしたような心地になるの。自分では決められない、でも、誰も代わりに決めてはくれない……』
わたくしがこのとき、どんな顔をしていたのか分からない。辿りつけそうもない、遥か遠くを見るような目をしていたジーナと、同じ表情をしていたかもしれない。
そうやってしばらく無人の教室で、二人で向かい合っていたと思う。少しずつ陽が傾いてきて、茜色に染まった教室は美しかった。いつまでもそうしてはいられないと、わたくしは立ち上がった。
『ありがとう』と言おうとしたのに、唇はまるで別の言葉を紡いだ。
『卑しい平民にはお似合いの、卑小な悩みね』
涙がこぼれた。
こんなにも苦しくて、同じように苦しんでいる子も見つかって、独りではないとようやく安堵して、ああ、それでもわたくしはこの
『さようなら』の代わりにまた聞き苦しいことを言ったはずだが、記憶から消えている。
眉間に手を当ててオレは息をついた。
気づけば辺りは暗く、窓からは陽光でなく月光が差し入っていた。スマホの充電はもう終わっているはずだが、手に取って美佐緒からの着信を確認する気にはなれなかった。
日付は去年の九月。バルバラのバルコニー転落事故は今年の五月。
あと八ヶ月分読み進める必要がある。
【285年 2月 19日】(バルバラ十七歳)
今日から
また酷いことを言ってしまっては困るので、極力発言は避けた。幸いルーカお義兄様の授業は手を上げた方を指すスタイルで、一言も発する必要はなく授業は終わった。
これから夏休みに入る六月まで、毎週一時間ずつお義兄様と同じ教室で過ごすことになる。
それまで耐え抜けるだろうか。
【285年 4月 5日】(バルバラ十七歳)
こんな筈ではなかった。
風魔術の――ルーカお義兄様の授業の課題として提出した論文が、他の教師たちにまで高評価を受けた。その結果、五月の研究成果発表会で論文内容を詳しく発表することになってしまった。第一学年の身でこれは快挙だという。
同級生たちには『すごいね!』『さすがですわ!』と誉めてくれる子もいた。しかし一方で『身内びいきだ』との声も漏れ聞こえてきた。
くだらないの一言だった。ルーカお義兄様が公正な方なのは無論のこと、選考にはルーカお義兄様以外の教師も関わる。五億歩譲ってルーカお義兄様が義妹だからとわたくしを推挙しても、内容が認められなければそこで終わりだ。
それに、ルーカお義兄様にとって今のわたくしは、贔屓すべき対象でも何でもない。たまたま半分血が繋がっているだけの娘だ。騒ぐ外野は何一つ分かってはいない。
それにしても、面倒なことになった。授業での発言さえ避けていれば、論文くらいは普通に書いて問題ないと思っていた。それが仇になった。わたくしは何を言われようと構わないが、ルーカお義兄様にご迷惑がかかる。
【285年 5月 2日】(バルバラ十七歳)
研究成果発表会を明日に控えていたのだから、早く床について眠ればよかったのだ。
なのに何故、そうしなかったのだろう。
いや原因は分かっている、ハーブティーだ。
ハーブティーを淹れて香りを味わいながら飲んでいたら、ドアがノックされた。ルーカお義兄様だった。
本来、男性が女子
『夜分すまない。しかも規則を破るような真似をしてまで。ただどうしても今夜話をしたかった。明日は参加者が多くて余裕がないだろうから』
『お帰りください』
お義兄様と話をしたくなかった。本当はこのたった一言を発するのさえ恐ろしかった。高飛車で居丈高で、身分にこだわって他人をおとしめる浅ましい姿をこの方に見られたくなかった。ドアを閉めて鍵をかけさっさと寝てしまおうと思った。
でも外開きのドアを体で押さえられ、それが叶わなくなった。
『バルバラ、今回の成果発表会の件ではおまえに迷惑をかけた。最初に推挙したのが私ということで、口さがないことを色々言われているようだが、それについて話をしたい』
『お帰りください。お願いします』
それが貴方のためなのだと、低く出した声に込めたつもりだった。
お義兄様は首を横に振って続けた。
『まず、私がおまえに身内贔屓をしたというあの噂だが……あれは半分は誤り、残り半分は確かに本当だ』
いきなり何を言うのかと思った。
『バルバラ、おまえがもはや昔のおまえとは違うのは承知している。伯爵家の長女として、体面で認知された庶子と親しくはできんだろう。義母上の私への嫌悪を考えれば尚の事だ。だが、私はどうしてもおまえと過ごした幼い日々が忘れられん。今でもおまえのことは可愛い義妹と思っている』
また『お帰りください』と言おうとして、できなかった。
可愛い義妹。お義兄様がまたそう呼んでくださった。
『ただ勘違いしないでほしい、おまえの論文は本当に良い出来だった。教師としてこれを正当に評価すべきと思った、これは事実だ。だが一方で、小さく
脚が震えてその場にへたり込まずに済んだのは奇跡だったと思う。
『私の眼が情に曇っていたなら、他の教師が却下して審査に通らんだろうと思った。だが、結果としておまえの論文は選ばれた。まだ第一学年の身でありながら』
お義兄様の手が伸びてきた。わたしの手を包み込んで強く握った。
『祝福させてくれ、バルバラ。教師として、そして義兄として。おまえの成長を、そしてこれからの輝かしい未来を』
これは夢だろうか、と自問した。夢だと答える自分と現実だと答える自分が、頭の中に同時に存在していた。
かつて酷い言葉を投げつけ、以来関わりを避けつづけていたわたくしを、お義兄様はまだ義妹として愛してくださっている。
――ありがとうございます、ルーカお義兄様。
――わたくしも今なお、お義兄様を愛しいお義兄様と想い日々過ごしております。
感極まって出た『ああ……』という声はため息に似ていた。
それが、いけなかった。
糸で
ぞっとするほど滑らかに手が動き、握られた暖かい手を振りほどいた。
『触らないで、庶子。けがらわしい。身分が違うのだとわきまえなさい』
ルーカお義兄様の目が見開かれた。ドアを押さえていた体が動き、バタン、とそのままドアが閉まった。閉まり際に何か言われた気がするがよく聞こえなかった。
世界の温度が下がっていくのを感じながら、わたくしは玄関にへたりこんだ。
ああ、本当に。何故、早く床につかなかったのだろう。
【285年 5月 3日】(バルバラ十七歳)
朝から気分が悪かった。控え室の張り詰めた雰囲気に耐えられる気がせず、抜け出して時計塔内をぼんやりと歩いた。やがて華やかな
美しかった。きちんと内側から見たのは初めてだったが、女神アスタリアが人の身であった頃の物語、唯一の血縁であった兄との対峙の情景が描かれていた。己が身を捨てて女神となり、世界を守護すると決断した妹を、のちに初代『護界卿』となる兄が引き止めている。そんな光景だ。
ふふっと、喉奥から笑いがこぼれてきた。こんなにも美しく、そしておそらく手間のかかった
ひとしきり笑って、笑って、笑って、そうしたら今度は涙があふれてきた。成果発表会を前にして、こんな場所に来る人間はどうせ居はしないと思った。だから涙は拭かなかった。顔を覆って、声を殺して泣いた。
もう二度とルーカお義兄様はわたくしに近づくまい。ゆうべのあれが本当に最後の最後だ。
わたくしを縛る何者かは、ほんの一つ二つの暖かい言葉をお義兄様に届けるのさえ許してくれない。
ひとしきり泣いて、泣いて、ふと顔を上げた。そして、心臓が止まるかと思った。
ジーナがいた。少し離れた廊下のはたに、丸い瞳をなお大きく開いて立ちすくんでいた。
――ああ。
羞恥は湧かなかった。同級生に涙を見られた屈辱も不思議となかった。驚くほどすんなりと受け止められた。
それどころか、嬉しいとさえ思えた。
――そう。貴女が見つけてくれたのね。
ジーナ・オータムは同志。わたくしと同じく残酷な何者かの支配を受けた娘。彼女自身の自覚の有無はともかくとしても。そんな彼女に見られるなら、そして覚えていてもらえるなら、この状況を恥辱とは思わない。
ジーナは呆けたように固まっていたが、やがて廊下の向こうへと駆けていった。彼女の背が角を曲がるまで見送ってから、わたくしは溢れる涙を拭かないまま、また少し笑った。
三十分後の成果発表には、出たはずだが、まるで覚えていない。
【285年 5月 24日】(バルバラ十八歳)
ここ数日、ずっと死について考えていた。
おぞましいもの、忌まわしいもの、避けたいもの。長らく死にはそんな印象しかなかった。
けれど今は甘美なイメージしか浮かばない。支配からの解放。穏やかな眠り。二度と人を傷つけずに済む彼方の世界。
想いを向けた人に何を伝えようとしても、いばらのような言の葉に変えられてしまう。差し伸ばされた手を喜びいっぱいに受け止めても、何者かの力がわたくしに替わり払いのけてしまう。
そんな生に意味などあるだろうか。
ある、かもしれない。視点を変えて見れば。ただ、わたくしには見出せない。わたくしの世界はわたくしの主観で出来ている。わたくしに観測できないなら、わたくしにとっては無いのと同じ。
理由をつけて
この日記を書き終えて、本棚の奥に隠して、そうしたらわたくしは部屋のバルコニーから飛び降りる。それで何もかも終わりにしたい。もしかしたら支配を受けたこの体は、手すりを掴んで落ちることを拒むかもしれない。でも全力の抵抗をしようと思う。あらゆる支配と拘束を振り払って、わたくしは大地に落ちていく。そして、他の何者でもない自分の意思で、この世界とさよならをする。
ああ、でも。
ジーナに。ルーカお義兄様に。そして、わたくしの愛した他の全ての人たちに。
わたくしの気持ちを伝えきれなかったのが、少し心残りだ。
――LINEメッセージの送信音――
『なあ美佐緒』
『見てねーのか。ああ、明日小テストっつってたもんな』
『えーっと、とりあえず』
『やっぱオレ、そっち帰るわ』
『今すぐは無理だけどな。帰り方わかんねーし。まあ、そのうちな』
『ちょっとやりてー事見つけたんだわ』
『で、そのやりてー事考えると、オレがずっとこっちいる訳にいかねーんだよな』
『バルバラ・アビアーティの心をこの体に取り戻す』
『取り戻して、自由にして、ちゃんと幸せにする』
『そう考えると、オレがこの体に居座り続けるのやっぱNGなんだわ』
――×マークにぶら下がったアザラシスタンプ――
『やっぱ嫌だろ、他人にいつまでも自分の体に居座られるの』
『しかも男』
『何で気が替わったかってーと、あれだな……まぁあの子の日記読んだからなんだけど』
『バルバラが実は良い子だったから』
『……では、多分ないと思うんだよな』
『いやまぁ、良い子ではあったんだけど』
『けどさ、心ってさ、誰にでもあるもんじゃんか』
『天使みたいな良い子にも、逆にめっちゃ迷惑な奴にも、喜んで人に嫌がらせするような奴にも』
『あるじゃんか』
『それを何かの都合で縛られて、行動や言葉を操られて、好きな人たちに好きとも言えないって、あんまりだと思わねぇか?』
『怒っていいと思うんだよな』
『操った奴ぶん殴って、好きな人たちにちゃんと好きって言って、今まで操られてたぶん幸せになっていいと思うんだよな』
――コミカルなロケットパンチのイラストスタンプ――
『まー詳しいことは明日。おめーの小テストが終わったら話すわ』
『オレもいろいろ考えたんだわ』
『ジーナちゃんと別れるのはつらいけど』
――涙目のラッコスタンプ――
『バルバラ・アビアーティにはバルバラ・アビアーティの人生』
『家永孝也には家永孝也の人生』
『それが筋ってもんだよな』
『それにさ、兄ちゃんちょっと考えたんだ』
――ロダンの『考える人』スタンプ――
『こっちで女の子一人救えたなら』
『こんな俺でも、そっちに戻っても、またやっていけるかも、ってさ』
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