第4話 精神年齢が上で妹にはなれない後輩は好きじゃありませんか?

 そろそろ後輩が来る。

 いつだって俺が先に生徒会の仕事を始めて、波に乗ってきたころで『妹にしてくれ』とか訳のわからないことを言う。

 

 タタタタタタ


 この騒がしい足音は日向ひなただ。昨日は珍しく元気がなかったが1日休ませたかいあって復活したらしい。


「ダメだ」

「本当に何も言ってないじゃないですか!」


 もはや『ねえ先輩』とも言わせない。


「廊下を走るなよ」

「少しでも早くお兄ちゃんに会いたい妹を演出してるんですー」

「精神年齢25歳のやることかよ」

「25歳の私は子供心を忘れない、それでいてオトナの体を持った全男子高校生が憧れる理想のお姉さんなのです」


 ドンッ! と胸を張り自慢(してるかはわからない)のバストを強調する。


「憧れのお姉さんか。妹からさらに遠のいたな」

「しかしその実態は先輩に甘える妹なのでした」


 本当にこの後輩はメンタルが強い。これだけ毎日断られたら諦めそうなものなのに。


「なあ、日向ひなたはどうして俺の妹になりたいんだ?」

「それはもう、先輩は頼れるお兄ちゃんだからですよ」


 元からそういう回答を用意してあるのか、あるいは本音か、真っすぐ俺を見つめる瞳からは嘘は感じなかった。


「むふふ。もしかして私、先輩の妹オーディションの面接審査を受けています?」

「なんだそれ? 勝手に開催して勝手に落ちろ」

「照れなくていいんですよ? 今まで散々断ったから合格にしずらいんでしょ? 私は過去を引きずらないから安心してください」


 俺が理想とする妹。俺を子供扱いせず頼ってくれる存在。

 日向にはツインテールこそが妹の髪型だと熱く語ったこともあったが、これはほとんど関係ない。

 

「そうだ先輩。髪が伸びてきたのでツインテールを試してみようと思います。いいですか? ツインテールを見たら数分前に私の申し出を断ったことを後悔しますよ?」

「後悔しないから好きな髪型にしてくれ」


 口では軽くあしらっているが、内心では日向のツインテールに期待している自分がいる。

 モデル体型で顔立ちがスッキリしていて大人びていると言ってもまだ高一だ。似合わないはずがない。

 日向は手持ちのヘアゴムで手際よく髪をまとめていくと


「似合ってるかな? ……お兄ちゃん」


 俺は言葉を失った。可愛い!

 大人びた雰囲気とのギャップが堪らなく可愛い……が、そんなことを本人に言ったら調子に乗らせてしまう。


「似合ってる」


 日向は不満そうな表情を浮かべた。

 褒め言葉としては物足りないのは自覚がある。それに『似合ってない』なんて口が裂けても言えないレベルの可愛さだ。

 これがギリギリ妥協できる最高の褒め言葉なんだ。許せ日向。


「ははぁ~ん。さては先輩。私の可愛さに語彙力を失ってしまったんですね」

「違うわ! 率直な感想を述べただけだ」

「私は先輩より精神的にオトナだし~? そのうえ理想の妹だから許しちゃいますけど、彼女だったらケンカものですよ?」

「ただの先輩と後輩だから許すも許さないもないしケンカにもならないな。よかったよかった」


 日向は口を尖らせて不満を漏らしている。

 だがこれはこいつが悪い。妹じゃなくて彼女なら……いやいや、なにを考えてるんだ俺は。

 俺は日向に恋愛感情も兄妹愛も感じてないんだ。


「むぅ……先輩。もし私が『彼女にしてください』ってお願いしたらどうします?」

「はあ!? な、なに言って」

「あはは! 冗談ですよ。先輩は妹にしか興味がない変態ですもんね。妹いないのに」

「変態じゃねーよ!」


 こんな風に兄をおちょくるやつは俺の理想の妹じゃない。

 どんなに頼まれても日向が俺の妹になる日は来ないだろう。

 だけど妹以外なら……。

 いやいや、俺と日向はただの先輩と後輩だ。


「ねえ先輩」

「ん?」

「あれ? 即答で断らないんですね」

「私を下僕げぼくにしてくださいって言う可能性も考慮した」

「うわっ! 男子高校生の妄想ってキモいですね」

「毎日妹にしてくれって頼んでくる女子高生に言われたくねーわ!」


 クラスの女子は俺を小中学生みたいに扱うけど、日向はちゃんと高校生として見てくれている。

 精神的が俺より上で妹にはしてやらないけど、俺を子供扱いせずに頼ってくれる後輩のことはまあ好きと言えなくはないと思う。

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