第3話 弱っている妹は好きじゃありませんか?

「はぁ~~~」


 普段は元気キャラの私も思わずため息が出ます。制服を着ていなければ疲れたOLのようでしょう。


「ど、どうした? 具合でも悪いのか?」


 先輩はガタっと立ち上がり私に気遣いの言葉を掛けてくれました。


「なんだかんだ私に優しいところが好きです」

「普段通りだな。よし仕事だ」


 先輩はすぐさま着席して書類に目を向けます。


「うええええん。先輩がきびしい」

「いや、大抵のことは自分でどうにかできちゃうだろ? 学校だから先輩後輩の関係だけど、会社だったらすぐに日向ひなたの方が出世しそうだよ」


 珍しく先輩が褒めてくれました。だけど全然嬉しくありません。

 だって、それはつまり私は先輩の妹から遠退とおのいているってことじゃないですか。


「精神年齢25歳はまだまだ未熟者なんです。むしろ社会の荒波に揉まれてボロボロにちていく一方なんですぅ」

「社会の荒波って……本当に何かあったのか?」

「私、クラスでは頼れるお姉さんなんです」

「やっぱり妹には向いてないんだな」

「うぅ……言い返す気力もない~」


 机の上にダラ~っと腕を伸ばしてうつ伏せになります。

 普段だったらこんなだらしない姿を先輩には見せませんが、それくらい今日は疲れているのです。

 露骨な疲労アピールをしているにも関わらず、先輩は私の耳元に書類の束を置きました。

 ドサっという音が心をえぐります。


「で? その頼れるお姉さんはキャパオーバーでも起こしたのか?」

「はい……。授業中に寝てた子に勉強を教えたり、委員会の仕事を手伝ったり……休まるのは先輩のいる生徒会室だけです」

「いや、ここも仕事が溜まってるから」

「そんな~~~」


 成績の良い先輩はきっと偏差値の高い大学に行きます。そんな先輩に追い付くために実は遅くまで勉強しているのです。

 それでいて女の子としてのたしなみも忘れません。朝早く起きて、少しでも先輩が理想とする妹に近付くように身なりを整えています。


「まったく。精神年齢が俺より上だっていうならもっと上手に振舞えよ」

「そんなこと言われましても~」


 苦言をていしつつ先輩は私の前に差し出した書類を自分の元に集めます。


「今日だけだ。自分のキャパがわかったならもう無理はするな」

「せ、先輩!」


 書類の方に意識を集中させて私の顔を見ようとしません。


「照れ隠しする先輩可愛いです」

「元に戻ったのなら仕事を振り分けるが?」

「うぅ……もうダメです~~~」


 心が元気になったのは間違いありませんが体はクタクタです。

 後輩らしく優しい先輩に甘えることにします。


「って、これじゃあただの先輩と後輩じゃないですか!」

「俺達は先輩と後輩だろ?」

「私は先輩の妹を目指してるんです!」

「残念だったな。俺の妹は仕事を丸投げせず、兄に手伝ってもらうのだ」

「今からでも遅くありません。おにいちゃ……」

「いいから日向ひなたは休んでろ」


 お兄ちゃんと言いかけたところで強引にキャンセルされてしまいました。


「今日のところは大人しく引き下がって休ませてもらいます。では、おやすみなさい」

「おいおい。ここで寝るのかよ」

「言ったじゃないですか。先輩のいる生徒会室が落ち着くって」

「そろそろ宇佐美うさみ先輩も来るぞ?」

「私は先輩がいればそれでいいんです」


 実年齢は私の方が下なので妹になれるのは私だけ。あんなおかしな喋り方をする合法ロリとは次元が違うのです。


「まあいい。邪魔だけはするなよ」

「はい」


 穏やかな時間が流れます。

 宇佐美先輩も私達より人生経験を積んでる合法ロリだけあって空気を読んでくれているのでしょうか?

 一向に生徒会室に現れません。

 窓から入る夕陽がじんわりと私の背中を暖めてて心地良いです。

 その心地良さのせいで忘れていました。


「ねえ、先輩」

「ダメだ」

「まだ何も言ってないじゃないですか」

「お前みたいな妹がいて堪るか」


 今日も先輩の妹にはなれませんでした。

 だけどそれが嬉しいんです。

 だって、本当は彼女になりたいですから。

 先輩が妹として私をフリ続ける限り、私はフラれていません。

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