第19話:白銀の少女

 白銀の髪を携えた少女は、少し顔を傾げる。

 俺は、少し怖気付いて後退る。

 心配そうに、俺の顔を覗いた。

 そこらじゃ見ないような、美しくも可愛らしい少女であった。

 俺とは比にならないだろう。


「…大丈夫…?」

「う、うん…大丈夫…」


 反応に遅れつつも、しっかり反応していく。

 こんなところに少女がいるのは不思議だ。

 俺の場合そう言う中身だからだが、目の前の少女は…。


 そう考えつつ、手に持っていた本のタイトルを見る。

 タイトルは『七の大罪神話』。

 随分と難しそうな本だった。

 別に探している本というわけでもないので、置いておく。


 見た目と身長に反して持っている本に違和感である。


「それで…どう、したの…?」

「えっと、その…魔術の本を、探してて…」

「魔術は、こっち…」


 そう言って歩き出す。

 どうやら案内してくれるようだ。

 俺は後ろからそっとついていく。


 後ろ姿もどこか様になっていて、美しくあった。

 しかし、何者だろう。


 後で名前を聞いておくべきだろう。


 少し歩くと、一つの部屋に連れていかれる。

 その部屋は全体の壁が本棚になっていて、大量の本が敷き詰められていた。


「ここ…全部魔術の本…」

「ここが…!」


 驚愕する。

 天井まで届く高さの本の数。

 読みきるには一生かかっても無理だろう。


 それにだ、タイトルを見ていくとわかるのだが、テノール家では到底見れないであろう高級そうな本がたくさんだ。

 これは、すごい。


 取り敢えず、お礼は言っておこう。

 アナも言ってたしな、最低の礼儀だって。


「あの、ありがとう…名前、教えてくれないかな?」

「私…?私は…ルナ・ジェリアード…って言うの」


 ジェリアード?

 ジェリアードって、なんかどっかで、最近聞いたような。

 聞いたような…聞いた、よう…な。

 …いや、待て…まさか。


 違う、聞いたんじゃない。

 今実際にいる…この場所だ。

 ジェリアード大国、王族代々続く国。


 じゃあ目の前にいるこの子は…。

 まさか、まさかそんな。


「…お一つ、お伺いしたいんですが」


 俺は敬語に変える。

 俺の予想が正しければ当然なのだが。


 そして質問をする。


「貴方様は…その、王女様で?」

「…えと、そう…だけど」


 …うわ。

 うわうわうわ、マジかよ。

  嘘だろ、これ。


 俺、死ぬのかな。

 処刑されたり、しないよな。

 兵士に見つかったらそんなことに、ならないよな。

 亜人の身分で、普通に話しかけてたよ。

 最悪殺されんぞ、俺。


 まぁ待て、まだそう悲観するような時ではない。

 時間はある。

 最悪逃げてしまえば…。


 と、そんなこと考えていると、ルナが話しかけてくる。


「あの…」

「ひゃい!?」

「名前…教えて…」

「は、はい!ノア・テノールです!」


 言っていなかったが、俺は一応養子と言うことになっている。

 自主的にメイドになったため、公爵家の娘としての効力はないのだが。

 後光がないのは、まぁ自分自身を見直すいい機会だろう。

 と言うことだ。


「テノール…公爵家の…?」

「は、はい!」

「何才…?」

「五歳です…」

「同じ」


 やっぱり五歳かよ。

 しかしルナ王女、頭いいな、これ。

 めんどくせぇな、これ。

 クソが。


 …いや、考え方を百八十度変えよう。

 利用できる、だ。

 俺はこの世界で、この身分で、一生を生きていく。

 いずれこの世界で、俺は強くならなければならない。

 亜人としての立場を変える、亜人と言う価値観を変えるために。


 王族との関係、しかも娘ときた。

 王と関係を作るより、圧倒的にいいだろう。

 同年代だしな。


 つまり何が言いたいかと言うと、単純に友達になりたい。


 王族とか言うところを抜いても、普通に優しそうだし、物静かなのはうるさくなくて好きだ。

 LoveではなくてLikeのほうで。


「そう…よろしく」


 そう言って手を差し出す。

 向こうから来てくれるのは嬉しいと言うか、何というか。

 だが、気になるのは立場的な問題。

 彼女は王族だ、こうやって俺と一緒にいるのは…。


 いや、友達になりたいとか考えてた俺が言えることなのか?


 とにかく俺も手を出して言う。


「よ、よろしく、お願いします!」

「…普通に、話して…いいよ?」

「あ、あの…うん」


 五歳児でそう言うことも考えられるとは。

 将来が楽しみである。

 まぁ、流石に昔の俺には敵わないだろうけど。


 取り敢えず、このまま別れるわけにはいかない。

 なんとなく印象づけて帰ってもらわないと、関わりが持てない。

 持てないと言うことは終わりである。


「あの、これから…」


 と言うところで、部屋のドアが開けられる。

 入ってきたのはアナであった。


 どうやら用事も終わったらしく、戻ってきたみたいだ。

 運が、悪い。

 タイミングが、悪すぎる。


 クソ、こうなってしまっては、時間稼ぎとかしても意味はないだろう。

 素直に帰る以外の方法がなくなる。

 何か策を、策を…。


「ノア、帰るわよ…って、誰その子。友達?」

「…違うよ」


 あ、向こうから拒否られた。

 ダメっぽいな、これ。

 …諦めて、帰るか。


「ふーん…ノア、帰るわよ」

「はい…」


 俺はルナに一礼すると、アナと一緒にテノール家に帰ることにした。

 結局、目的の本も読めずに。

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