第17話:国営研究所
凡才、それがどう言うことか改めて思い知る。
嫌なものだな、凡才ってのは。
俺のメイド仕事、全然上手くいっていないことが、城のメイドを見てよくわかる。
てか、城でかいな。
当然と言えば、当然なのだろうが。
そんなこと考えていると、アナが話しかけてきた。
「その…さっきあんた、魔術使ったわよね」
「え…き、気のせいじゃ…」
五歳である程度魔術使える。
それはまあまあすごいことらしい。
いや、教えて貰えば誰でもできることなのだが。
まぁ五歳だからそこまで知能が発達…してんのかな。
そこら辺は専門家の判断に任せるけど、とにかくできること自体はすごいらしい。
っても、公爵家第1位の娘、俺の同じ年齢でありながら既に雷を操り、その他諸々大人がやるような魔術もある程度できると聞いた。
要は俺はただの一般人並みに過ぎない。
で、話を戻す。
「私があんなに速いわけないじゃない、それこそ魔術でも使わないと」
「あ、アナさんが無自覚で…」
「私ね、魔力が全くないのよ」
「え、でも速度上昇だから…誰でもでき、る…」
あ、そっか。
魔力がないと言うことは、魔術を使わない。
それこそ、興味がない限りレベル制限式すらも。
アナはどちらかと言うとメイド一筋な人間だ。
そんな人間が魔術を使うかと言われると、否。
即ち、レベル制限とか、そんなの全くわからないわけだ。
俺は今、自分でボロを出したのだ。
「…はい、使いました」
「そう…その、ありがとうね。助かったわ」
…?
今俺、褒められた?
え、褒めたの?
あのアナが?
今日、雨で降るのかな。
「何よその、すごい物珍しそうな顔。私だって褒める時はあるわよ!?」
「いや…その、ほんと意外だったもので。なんせ私ですから…」
「あんたって時々に本当に5歳か疑わしくなるわ…ま、そうね…助けてもらったのにお礼を言わないなんて、それこそ人間じゃないわ。これは人間として、最低の礼儀よ」
その最低の礼儀すらわきまえなかった前世の俺って一体…。
そこで会話は途切れる。
道を進んで行くと、大きな橋が見えた。
俺たちはそこに至るまでドラゴンの話を全くしていない。
いや、するべきではないのだろう。
してそれを誰かに聞かれたら、めんどくさいことに巻き込まれるのは確実。
それなら黙っていた方がいいと言うもの。
向こうもそれをわかっているのだろう。
ドラゴンの話題は一切出さなかった。
城の中に入ろうとした時、当然ながら職務を全うしている兵士に止められる。
「おい、何の用だ」
「国営研究所に資料を届けにきました」
「資料だと?…ああ、話は聞いている。いいぞ入れ…ただし」
「ただし、亜人はダメとでも?」
アナがそう言う。
やはりそう来るか、この国。
国と言うより、この兵士がそう言ってるだけって言う可能性も、なくはないけど。
兵士は二人いるが、突っかかってくるのは一人の兵士だけで、もう一人はぼーっと突っ立っている。
仕事、なんだろうな、あれで。
いいな。
「…そうだが?」
「へぇ…例え、私の部下だとしてもですか?」
「何を…」
「公爵家に刃向かうのですか?と聞いているんですが?」
「な、なに…!?」
公爵家より王の方が偉い、偉いよな。
それでも、ある程度の権力はある。
それで辞めさせることぐらいはできるだろう…だろうが。
アナ、君は公爵家に勤めてるだけだよな。
まぁ、面白そうだから見とくけど。
あの兵士も可哀想に。
「そ、それは…!?」
「わかってますよね?公爵家に刃向かうことが、どう言うことか」
「だ、だが…」
「ねぇ?兵士さん。貴方は何も見ていない。私も届け物をしにきただけ、それでいいでしょう?」
「わ、わかった。通ってよし!」
俺たちは城を通っていく。
兵士はなんとも緊張した面持ちだった。
そんなもんだろうか。
中に入るとロビーがある。
貴族とかなんとか、豪華な服を着てキラキラ着飾ったやつでいっぱいだ。
気持ち悪い。
前世の格好、俺あんなだったことを思い出し、更に気持ち悪くなる。
こう改めて考えると、前世の俺、相当な阿呆だったな。
…こうやって考える機会をくれたことだけ、女神に感謝するべきか。
1発殴りたくはあるが。
男として、女として。
地下へ向かう。
どうやら国営研究所とやらは、地下にあるらしい。
地下に進むにつれ、騒音が激しくなっていく。
爆音も聞こえ始めた。
「私、一度だけでここに来たことあるのよ。まだメイド見習いの時にね、あんたと同じように」
「そうなんですか?」
「嫌なもん、見せられたわ…先に忠告しておくわ。出たかったらいつでも出ていいから…あんたが見るのは、その…本当に辛い光景だから」
そうやって少し言い淀む。
どうしたのだろうか。
それほどやばい光景だと言うのだろうか。
多少のやばいものには慣れている、そこは前世の経験ってやつだ。
地下へ進む。
騒音に混じって、叫び声…いやこれは、断末魔か。
断末魔が聞こえ始めた。
嫌な予感がし始める。
地下にたどり着く。
そこで俺が見たのは、実験台にされている亜人たちであった。
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