第16話:逃げ続けて

 アナは全速力で走っているが、人間いつしか体力が尽きるもの。

 数分走り始めすぐ、速度が落ち始める。

 アナの体力が尽きてきたのだ。


「アナさん!?」

「わ、わたひ、は…にんへぇん、でひゅ…」


 人間ですか、そうですか。


 もうだめだろ、これ。

 いやいや、諦めてたまるか。

 二度も死ぬのは本気でゴメンだぞ。


 こう言う時にもどうにかなるのだから、魔術って便利だよな。


「『Lv.1土癒リーセムティナ』ッ!」


 俺は声高らかに叫ぶ。

 すると速度が戻る。


 土を意味する『セナ』。

 それと治癒を組み合わせる。

 そのことによって、体力回復ができる。


 魔術、って言うのは魔術内で分類すると二つになる。

 レベル制限付きと、魔力による根本的なもの。

 魔術はややこしすぎるのだが、この前話した精神云々は魔力による根本的なものに分類される。

 レベル制限は回復など、結界など。


 魔力について話すと、なんかすごいことになるから大雑把に言っておくと、大気に存在する空気と同じだと書いてあった。

 この世界は太古の昔、世界に魔力が満ちた。

 それと同時に、体内魔力を持って生まれる人も現れた。

 それを利用する魔術も、いつしか生まれ始めた。って話だ。

 大雑把に言うとな。


 で、レベル制限の方は、これは意外なことなのだが、最近生まれたと言う。

 これを生み出したのが、アリフィード・テノール。


 そう、テラリスの父親だ。

 そんな偉人だからこそ、最下位ながら公爵家にいるらしい。

 そんなんで公爵家に入れるものなのか気になるとこだが、俺の普通とここの世界の普通は違うからな。


 レベル制限ってのは、魔力を上手く扱えない、もしくは体内に魔力が存在しない用の人だ。

 勿論魔力が上手く扱える、もしくは魔力が体内に大量に存在している人でも使える。

 どう言うことかと言うと、大気中の魔力を無理やり集め放つらしい。

 そこら辺適当でもいいから、誰でもできるとのこと。

 魔術の種類別による、難易度に変化はないんだけども。


 さて、現状に戻ろう。

 魔術ドーピングを繰り返し、なんとかずっと走らせている。

 少ししか回復できない上に連続で使えないから、ちょっとずつ限界が近づいてきているのだが。

 小道に入ると、上部分を破壊しつつ奴はついてくる。

 まだついてくるのだ。

 そろそろ諦めてもいいはずだ。


 …そもそも、なんで俺ら狙われてんだ。

 あいつにとって俺らは小物に過ぎない。

 殺す意味すらないだろう。

 殺されそうになってる、って言うなら理解はできる。

 明らかに意味はないので、それは論外と考えるが。


「あ」

「え?」


 アナが言葉を零す。

 たった一文字、『あ』と言う言葉。

 実に簡単で、理解しやすい言葉だ。


 そう彼女は、躓いたのだ。


「うぎゃぁッ!?」


 顔面から思いっきりぶつかる。

 担がれていた俺も軽くぶつかる。

 痛い。


 起き上がり、後ろを見ると、ドラゴンが顔を近づけている。

 口から出てくる熱気が熱い。

 ドラゴンの熱気って確か、石すら溶かすと聞いたことがある。

 だとしたら俺、既に死んでいるはずだが。


 生きている、と言うことは熱気を抑えているとしか考えられない。


 さっきからおかしなことばかりだな、ほんと。


 ドラゴンは飛び上がると、空に浮き上がる。

 ホバリングしているのだ。


 すると、口を大きく開ける。

 熱気が集中しているのがわかる。

 どうしよ、俺死ぬかも。


「『Lv.1痛覚結界リーハーズロア』」


 なんとなく、結界を出しておく。

 いや一瞬で打ち破られそうだが。

 スゥッ…っと、息を吸い込み終わる。

 口を大きく開け、その火球を撃ち放った。


 俺は目を瞑って両手を前に出す。

 左腕は上がりにくいが。


 死ぬ。


 そう思った瞬間だった。

 大きな音がする。

 弾かれるような、砕き割るような。


「…え?」

「大丈夫か?」


 目を開けると、そこには剣を持った男がいた。

 剣を持った男が、立っていた。


 とっとっ、っと男はステップを踏み始める。

 そして踏み出すと、駆け出した。

 ドラゴンが火球を吐き出すが、男は軽く呟きつつ剣を振るうと、火球を打ち払う。


 壁を蹴り登ると、ドラゴンに対し一撃を放つ。

 ドラゴンはたった一撃、そのたった一撃によって空から落ちたのだ。


 魔物の特有の靄を出しつつ消えていった。


「…生きてる…?」

「わ、私…いき、生きてる、の…?」


 アナは混乱が収まっていない様子だが、起きて周りを見る。

 男を見ると驚いた様子で、更に混乱する。


「ゆ、ゆ、勇者…様…!?」

「勇者…?」


 なんか変な単語が出てきたぞ。

 なんか嫌だな、すごそうな人と関わるの。

 なんせ、怖えもん。


 俺に近づくと、俺の頭をワシワシと掴んで…いや、撫でた。

 撫でたんだろう。

 不器用な撫で方だ。

 まるで…あの男ようだ。


 嫌なもん思い出し、気分が悪くなる。

 多分表情も、そこまでいいものではなかったのだろう。

 すぐに手を離した。


 なんか、申し訳なくなった。


 俺は男の顔を見る。

 なんとも感情表現の薄そうな男だ。


「…よく、耐えたな」


 まさか、見てたのか?


 いや、そんなわけないか。

 見てたらすぐ助けるはずだもんな。

 こいつのことよく知らないけど。


 まぁ、少し嬉しい。

 なんでかわからないが。


 男は、走り出す。

 ぼーっと数分、ハッとした俺たちは資料が燃えていないか確認し、城へ急いだのだった。

 一旦帰るべきか考えた結果、だが。

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