第15話:逃走を求む

 いや、いやいやいや、え。

 なんでドラゴンなんだよ。

 わけがわからない。


 ドラゴンの大きさは大体小さいビルぐらい。

 暴れれば、完全に街が崩壊するだろう。

 すごい強そうだし。


 ってか冷静に解析してるような時じゃねぇよ。

 このままだと、死んじゃう。


 ドラゴン、それこそすごい強い魔物。

 どんくらい強いかと言われると、戦闘機5機分。

 ドラゴンの戦績から大体推察しただけだが。


 それでも昔の伝説に出てくるような魔物。

 こんな世界の端みたいで、実際は真ん中の場所に出てくるわけがない。


「な、なんで…こ、こ、こ…こんな…」


 アナは腰を抜かし、混乱している。

 俺もなんとか立つのがギリギリだった。

 怖い、めちゃくちゃ怖い。


 魔物、魔物って言うのは一ヶ月前ぐらいに出会った、ゴブリンはここに含まれない。

 どう言うことかと言うと、種別って言うのは沢山いる。

 だが一大雑把に分けると、生物か、魔物か、になる。


 魔物のと言うのはまだ完全にどう言うものかわかってないらしく、一般的には自然に発生する災害のようなもの。らしい。

 亀裂の日、即ち紅い月の日。

 あの時が自然発生が大量になる日らしい。


 魔王がなんたらかんたらって言う話を聞く。

 魔王って言うともよくわからない。

 だが、その魔王が統治する魔人族って言うのも、その魔物に悩まされているそうだ。


 さてと、目の前にドラゴンがいる。

 なんか色々思考してるうちに、目の前まで来ていた。

 もっと早めに気付くべきだろうが、思考を始めると目の前が見えなくなる。

 俺の悪いところだ。


「…」

「あ、あの…?」


 黙りこくるドラゴン、俺は対話を試みる。

 当然、意味はない。

 閉じている口の隙間から、熱気が漏れ出る。


 ちなみにドラゴンの色は赤だ。

 まさに、ドラゴンカラー。


 ドラゴンは顔を近づけてくる。

 ちょっ、熱い熱い熱い。

 怖え、めちゃくちゃ怖え。


 と、膠着状態のまま数分。

 突然、俺の体が持っていかれる。

 どちらかと言うと、引っ張られる。


 アナが俺の首根っこ掴んで、全力疾走を始めた。

 叫び声を上げ、全力で逃げ出したのだ。


「あ、アナさん!?」

「あんた何やってるのよッ!?死にたいのッ!?」

「いや別にそんなことは…」


 首根っこ掴まれたと思ったら、担がれる。

 ほら見ろ、優しい。

 一人で逃げればいいものの、何故俺を連れて行くんだか。


 と、そんな時、後ろからドラゴンの咆哮が街に響き渡る。

 全身の鳥肌が一斉に立つ。


 周りを見ると、人が一切いなくなっていた。

 後ろをチラッと見ると、ドラゴンがその巨大な羽で、飛び上がる。

 飛ぶ、って時点でめちゃくちゃ怖い。


 ちょっと待って、アレはすぐに追いつかれる。

 どうしようもない、俺は多少でも遅らせるため、呟く。


「『Lv.1風昇リーアイラム』」


 上昇を意味する『ラム』。

 そして風の魔術言語を組み合わせ、速度を上昇させる。

 これをアナに放つ。

 すると速度がグンっと上がる。


 これ、火でやると筋力が一時上昇する。


「あはは!速いわ!今日のあたしすごく速いわ!!」

「は、はい!そうですね!」


 走っている張本人は、もう半泣きだった。

 怖いのに、すごいな。

 人間の強みって、こう言うところにあるんだろうな。


 一方追ってくるドラゴンは。

 速度を上げ更に追ってくる。

 向こうは、速すぎる。


 数秒もすれば追いつかれるだろう。

 ならせめて、攻撃をどうにかできれば時間を稼げるだろうか。


 と、ドラゴンが口から放つのは火球。

 当たれば爆発して死ぬ。

 って図鑑に書いてあった。


 そう、当たれば爆発するのだ。


「『痛矢ハーズン』っ!」


 矢を意味する『ン』。

 ただの矢が火球に向かって飛んでいく。

 実に簡単だ。


 空中で火球と矢がぶつかり合う。

 そして大爆発を引き起こした。


「ヒィッ!?な、何が起こってるのよ!?」

「走ってください!死にたくないならっ!」


 アナは速度を上げる。

 人間の底力ってやつを初めて見た。


 だがこの様子だと、なんとかなるかもしれないだろう。

 誰かが助けに入ってくること前提だが。


「嫌よ!あたしこんなところで、死にたくないのわよ!!」

「なら走れよっ!死にたくねぇならとっとと走れッ!」


 まずい、つい本来の自分が出てしまった。

 まぁ、あの慌てようだ、聞いていないだろう。


 どうしよう、このまま逃げてもいずれ死ぬ。

 ならば、せめてでも必死に逃げて見せよう。

 …違うな、逃げてもらおうか。


「頑張れ!アナさん!!」


 俺は後ろから飛んでくる攻撃を魔術で迎撃し、アナは逃走を続けていた。

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