第13話:相変わらずの日常

 メイド仕事、三日目。

 相変わらずパワハラが酷い。

 だから毎日、痛覚緩和を利用しているものの…。

 どうにかなんないのかな、そろそろ。

 攻撃を完全に断つと言うのなら、痛覚結界を使えばいいが、見える。

 見えてしまうのだ。


「『Lv.1痛覚結界リーハーズロア』」


 とまぁ、使ってみるのだが、目視できるのだ。

 淡い青白い光で形成された盾。

 多分結界の魔術言語が原因だろう。

 隠蔽が使えれば、なんとかできるだろうが、隠蔽はまだ俺では使うことができない。




 そんなこんなで、今日も痛覚緩和で仕事を頑張る。

 やっぱりやめとけばよかったと、後悔してももう遅い。

 今日もパワハラに耐え、頑張るのだ。


「アナさん、終わりました!」

「…ダメよ、ここの部分拭きが甘い。いい、こうやるの」


 そう言って、アナは全力で窓を拭く。

 パワハラは相変わらずだが、向こうは俺との行動にある程度慣れたようで。

 まぁ、そうじゃないとやってはいけないだろう。


「わかった?やりなさい!」

「は、はい!」


 一見すると、良い上司だが…。

 だが、適当な理由をつけて仕事を長伸ばしにしている。

 何故そう思うかと言われると、こうやってダメ出しされたの、これで30回目だからだ。

 もうやだ。


 窓を拭く、窓を拭く、窓を拭く。

 これの繰り返しである。

 腕がそろそろ疲れてきた、体力を増やすような魔術はないものか。

 増強、低弱の魔術言語を利用すれば…。


 と、そんなことブツブツ考えつつ窓を拭いていると、アナが怒る。


「真剣にやりなさい!」

「ご、ごめんなさい!」


 全く、酷い上司である。

 なんとかならないものか。

 と、そんなこと考えていると。


「ろ、ロアンさん!」

「アナ、ノアの様子はどうですか」


 あのおばさんが来たようだ。

 扉のところにいると言うのに、背中からでも俺は威圧を感じていた。

 すごいのだ、あの威圧。


 二人の会話は小声で、それなりに離れているため、亜人特有の耳でも聞こえない。

 ちなみに聞く、と言う魔術言語はない。

 ただ読む、ならある。

 読、だけだが。


 そう言えば風向きによっては、遠くの音が聞こえるみたいなこと、どっかで聞いたな。

 …試してみるか。


 窓を拭きつつ、俺は呟く。


「『風読アイスン』」


 風を意味する『アイ』、読を意味する『スン』で魔術を確立させる。

 魔術ってのは、無限に可能性があるからちょっと楽しい。


 扉から風が吹く。

 優しい軽やかな風だ。

 それが俺の方に流れ、小さくはあったが声が聞こえた。


「…それでは、私をこのままノアの教育係に…?」

「ええ、なかなか上手くやっているようなので、このまま任せようと思います」


 マジかよ。

 上手くやれてんの、これ。

 向こうからすればパワハラしていても、しっかり仕事してもらえれば良いのだろう。

 クソだな。

 まぁ、俺も働ければそれで良いし。


「それと、二人でお使いを頼めますか?」

「お使いですか?」

「はい、ご主人様がこの資料を、城の研究所に持って行って欲しいとのことです」

「お、お、お城ですか!?」


 と、驚いた様子で、俺にも聞こえる声で言った。

 たしかにびっくりだろう。

 なんせお城なのだから。


 しかしまた何故、俺らなのだろうか。

 アナもそう思ったようで、聞く。


「ど、どうしてまた私たちが…」

「私も詳しい理由は知りません。ご主人様はただ、二人に持って行かせなさい、とだけ」


 何考えてんだ、あの人。

 ほんとあの目、正面から向き合うと怖いし、意思は読み取れないし。

 何か少しでもわかれば良いのだが。


 ちょっと前、試しにとある魔術を使ってみた。

 魔術ってのは言語以外にも一応種別がある。


 例えばアリフィードの精神論ってやつは、一般的に言う呪いに近いもので、何かしらの触媒を用いて放つらしい。

 ただ、言語でも成立するとのかと言うとそうでもなく、そこからは『特異ユニーク』と呼ばれる自身で作り出した魔術言語を用いることになるらしい。

 と言うわけで、最も簡単な自作の精神汚染の札を作ってみた。

 まぁこれはどういう事かと言うと、アリフィードがいない隙に、軽く本を読ませてもらって、そこから適当に作ってみたものだ。

 だからプロアリフィードが作ったものより、圧倒的に効果がない。

 ただ、紙さえあれば作れるという利点がある。


 で、そのプロアリフィードにくっつけてみた。

 だがペタッと、後ろから引っ付けたところ完全に燃え尽きた。

 あれにはすごいびっくりした。


 そんな男のことだ、意思なんて読み取れるわけがない。


「わ、わかりました!行ってきます!」

「ええ、任せましたよ」


 話が終わった途端、こっちに来た。

 止めていた手を、いそいそと動かす。

 すると、話しかけてきた。


「止めなさい」

「はい!」


 仕事を辞めて、後ろを向く。

 片手には封筒を持っていた。

 結構分厚く重いようで、少し傾いている。


「これから出かけるわ。あなたも付いてきなさい」

「どこに行くんですか?」


 勿論向こうは俺が聞いていたことはわからないため、とぼけておく。

 すると少しドヤりつつ、言う。


「聞いて驚きなさい!お城よ!」

「お、お城ですか!?すごいですね!」


 驚いたフリをして、目を輝かす。

 こうしておけば、向こうもある程度機嫌が良くなるだろう。


 そんな感じで、お出かけが始まる。

 一ヶ月ぶりの街である。

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