第12話:独学魔術

 助けて、上司のパワハラが酷い。

 少しでも間違えると、殴ってくる。

 めっちゃ痛い。


「あんたこんなこともできないの!?あーもう…ほんとなんで私が…!」


 ってな感じの文句ばっか吐きやがって、クソ野郎。

 亜人になったばかりに、なんでこんな目に…。

 いやまぁ、クソ女神に言われた通りなんだろうけどさ。


 俺はこの時、決めた。

 絶対に差別を消しやるって。

 亜人差別を消して、この身分から脱すると。




 とまぁ、そんな生活が一ヶ月ぐらい続いた日のこと。

 やっとこの世界の言語を覚えた。

 言語が二つあるのでそれこそ苦労したが、まぁそこは頑張った。

 俺と言う意思がそのままだったのは、幸運と言うべきか。


 で、この世界の言語と、別にある二つ目の言語は魔術言語と呼ばれるもの。

 これがまた覚えるのが難しく、本来の言語は大体五十文字程度なのだが、魔術言語は大体二百文字程度ある。

 それに付け加え記号がいくつか、あった。


 勉強の合間を使って、この屋敷にある図書館にこもって本を読みまくった。

 今もこもって本を読んでいるところだ。


「魔術言語に…うーん、難しい…」


 最近では話し方にも慣れてきて、詰まった話し方をすることがなくなってきた。


 で、今日はとあることを考えている。

 魔術と言うものについてだ。

 魔術って言うのは、魔術言語を並べて具現化するもの。

 例えば、火を意味する「テナ」。

 実際にやってみてわかったが、これだけでは成立しない。


「『テナ』」


 俺は魔術を放つ。

 すると一瞬ポッと火が出る。

 が、すぐ消える。


 魔術言語には維持、と言う言葉ない。

 だが、形にする言語ならある。


 例えば球を意味する『ス』。

 ス、だけだ。

 だがこの場合、ス、だけでは成立しない。


 成立させるには、こうするのだ。


「『火球テナス』」


 こうすることで維持ができることがわかった。

 と言っても、まだこの程度しかできないのだが。


 それに今は、メイド見習い。

 こんなことに時間を裂けるのは、ほんの数時間だけだった。

 たまに休みの日もらえるんだけどね。


 そう考えると、根は優しいのかもしれない。

 自分が休みたいだけかもしれないが。


「どうしようかな…痛み緩和とか…ないかな」


 魔術辞典とやらを読んでいく。

 アリフィードに聞いたところ、好きに使ってもらっても構わないと言っていた。

 だからどんどん読んでいく。

 痛覚さえ遮断とまで行かなくても、緩和さえできれば、頑張れる。

 そもそも痛覚なんて言語があるのだろうか。


「ノアさん、やっぱりここにいましたか」

「テラリス…さん。別にさんはいらないのに」

「そう言うノアさんもですよ…あ、また」


 そうやって、二人で笑い合う。

 どうやら茶菓子を持ってきてくれたようだ。

 嬉しい限りである。


 最近はこうやって二人で、駄弁ることも多くなっている。

 友達と言うよりは、姉って感じだ。

 向こうも満更でもないようで、俺が図書館にいるとよく来る。


「今は何読んでるんですか?」

「これ、魔術辞典ってやつ…難しいんだよ」

「魔術、ですか…私も少しならできるんですよ。『雷癒アルティナ』」


 そう俺に触れ言う。

 雷を意味する『アル』と、治癒を意味する『ティナ』。

 これを使えるのはそれなりにすごい。


 何故かと言うと、魔法言語の基礎と呼ばれる五大元素。

 火、水、風、土、雷、これが五大元素だ。

 その元素の中で最も難しいのは雷だ。

 理由は、雷は常時放出性のため、ミスると火傷することが多々ある。

 俺も未だ成功しきれていない。


 これ以外にも二つ元素があるらしいが、俺は知らない。


 で、今回使われた雷癒アルティナ

 これは神経、つまり体全体の疲れを癒すものだ。

 ちなみに治癒自体はそう難しくない。


 水と治癒なら体の傷を回復。

 土と治癒なら状態異常系の回復。

 って感じになっている。


「いつも勉強、お疲れ様です!」

「えへへ、ありがとう!まぁ勉強も今日で終わりだけどね」


 そう、明日からは本格的にメイドの仕事を覚える。

 本格的にだ、つまりはパワハラが今以上に酷くなる可能性があるわけで。

 だからこそ痛覚緩和があればいいなと、見にきた。


「あ、私これから用事があるんで、そろそろ行きますね」

「うん、またね」


 そう言ってそこで別れた。

 今日はあまり話ができなかった。

 少し残念である。


 …なんか、俺の意識持ってかれてんな、


 まぁ、いいや…。


 そう考えつつ、辞典をめくっていく。

 すると興味深いのが見つかった。


 元素であって元素に非ず。

 痛覚。


 そう目当てのものを見つけた。

 そして下の方では、一部の魔術に使うと言う、新たな魔術言語も。

 緩和も関連項目から見つけ出した。


 俺は早速、試すことにする。


 並べるのは、『レベル』→『元素』→『効果』、である。


「『Lv.1痛覚緩和リーハーズサイ』」


 効果がかかる対象は自身。

 範囲になると、また言葉を足さなくてはならない。

 それにレベルも、もう一言足さなくてはならなくなる。

 実にめんどくさい。


 と、どうやら成功したようで、自分の体が淡い光に包まれる。

 軽く自身を打ってみると、あまり痛くはなかった。

 どうやら成功である。


「よーし…午後から頑張るか!」


 と意気込んで、午後の授業に遅れないように走り出した。

 残った勉強を、終わらせるために。

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