第11話:勉強会
ここに来てから数日。
住んでもいいと言われたが、少し怖かった。
どう言うことかと言われると、娘でもない俺がここに住んで、追い出されたりしないかと言うことだ。
人間いつか別れが来るもの、それは何度も体験してきた…自分で仕組んだことだけども。
そう、俺は亜人、迫害という形があるかもしれない。
アリフィード…さん、だって周りの目があるわけだし。
だから俺は、アリフィードに一つの提案をした。
「アリ、フィード…さん…ここ、で…働かせ、て…くだ、さい…」
そう、住み込みという形で働けば、追い出されることはないだろう。
周りから見れば、俺が奴隷みたいなアレに見えて、誰も指摘はしないだろう。
そう、実に合理的。
それにだ、向こうにとっても得だろう。
俺が働くというのだからな。
ふふん。
が、アリフィードは困った様子で言う。
「働くと言われても…やることがないのだが」
「…え」
作戦が、瓦解する。
ここでなんとか働けないと、多分だけど後々まずいことになるだろう。
どうする、考えろ、考えるんだ。
…そう言えば。
外に、メイドがいた。
これだ。
「メイ、ド…」
「む…そうだな。たしかにそれなら人手が足りないとメイド長が…メイド長!」
大きな声で、言う。
すると突然後ろに、おばさんが現れる。
メイド服を着た、明らかに熟練のメイドだ。
威圧が、なんかすごかった。
女としての威圧がだ。
男時代の俺なら決して感じることはなかったろう。
だが今の俺は、それをひしひしと感じ取っていた。
「どうなさいましたか。ご主人様」
「この子がここで働きたいと言っていてな。ちょうど君のところ、人手が足りないと言っていただろう」
「ふむ…亜人の娘、ですか」
やはりそこを言うか。
この人はどっちなんだろうか。
差別するのか、同じに見るか。
「ええ、わかりました。それでは基礎から徹底的に教え上げていきましょう」
違った。
仕事一筋のタイプの人だ。
やばいかも、しれない。
「そこの貴方、名前は?」
「ノア、です…」
「私はロアンと言います。覚えておきなさい」
「は、い…」
ロアン、か。
これからかなりお世話になるはずだ。
それに上司だからな、しっかり名前を覚えておこう。
「それではついてきなさい」
と言って歩き出した。
俺は後ろからそれについていく。
少し早歩き気味で、ついていくのに精一杯だ。
そんな早歩きなのに、姿勢は一切崩れておらず、老いてはいたが綺麗であった。
「貴方、文字は読めますか?」
「少し…だけ…」
「年齢は?」
「5歳…」
推定だけどね。
とまぁ、続けて連続で質問をして来る。
俺のみの辺りの質問ばかりであった。
事実ばかり話したが、流石にまずかっただろうか。
と、一つの部屋に案内される。
そこには入ると、奥の方で窓を拭いている少女がいた。
テラリスが7歳だと言ってはいたが、彼女とそこまで身長に差はなさそうだった、が。
「彼女はアナ・レナードと言います。貴方の7つ上です」
どうやら12歳であった。
低身長のようだ、悲しいね。
「アナ!」
「は、はい!」
そう言うとこっちに来た。
チラッと俺を見ると、一瞬顔を歪める。
なんとも嫌そうであった。
ああ、そっち系の人間か。
顔をすぐに直すと、ロアンの前に立つ。
「ロアンさん、どうしましたか?」
「貴方にこの子の教育係を任せます」
「…え、この子…ですか?」
「はい、大丈夫ですね?」
「え、それは…その…」
ちょっと困惑した様子だった。
だが、ロアンは許すことはない。
「大丈夫、ですね?」
「は、はい…」
折れてしまう。
まぁ、あんな顔で言われたら、誰だってそうなるだろうよ。
ロアンは、軽く頷くと、あとは任せましたよ。と言って部屋から出て行った。
さて、どうしたものか。
俺としても、ちょっとここに居づらい。
何故かって言われると、やはりと言うか彼女の見る目が怖い。
「はぁ…あんた、亜人よね」
「はい…」
なんで私が亜人なんかと…と呟いた声が聞こえた。
そうだよな、そう言う世界で、そう言う常識なら俺だって嫌だよ。
まぁ、遊ぶって言う点なら面白そうだが。
「ま、いいわ…それで貴方、文字は読めるの?」
二度目である。
さっきと同じことを答える。
すると、呆れた様子でため息をつく。
文字読めないのが、そんなに駄目かよ。
「いいわ、勉強から始めましょう」
なんとも言えない教育係との、勉強会が始まってしまった。
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