第10話:テノール家

 屋敷の中はなかなか広い。

 探索だけでも一日はかかりそうであった。

 軽く張り紙とかしてあるのだが、やはり読めない。


 難しいものだ。

 言語としては…英語のラテン文字にウムラウト…ドイツの方の文字列に似ているか。

 だが、少し違う。

 ちょっと勉強すれば、ある程度なら読めるだろうか。


 手を引かれ、先へ進む。

 いくつもの部屋があって、少しドアが開いている。

 どうなってんだか、ここ。


 中は暗く、変な光が漏れ出ていた。

 テラリスは中に入ろうともせず、ただ避けるように足を急いでいた。


 チラッと、一瞬だけ中は見えたが、随分と怪しげな男が見えた。

 どうなってんだ、ここ。

 まぁ、親父さんが親父さんだし…。


「テラリ、ス…アリフィード…さん、って…どんな…仕事…して、るの…?」


 アリフィード・テノール。

 彼は一つの側面から見れば、信頼に於ける人物だ。

 ああ言うタイプの男は、絶対仕事に関しては裏切らない、はず。

 そこに関しては、個人的なものだから難しい。

 俺が信頼できるというだけで、他の人間のことはよく知らないからな。


 だが、もう一つの側面…人間性としては、全く信頼できない。

 人間性に関しては、俺が言えたことじゃないけどな。


「お父様?えっとですね…確か…魔術研究…精神論の主任って…私には、よくわかっていません」


 と、なんとも難しい顔をした。


 なんか、難しい言葉を並べただけみたいだな。

 それに魔術ってなんだろう。

 魔法、みたいなものだろうか。

 俺には、到底わかり得なかった。


 と、進んでいると…。

 広い空間に出る。


 なかなか綺麗な装飾がされており、無駄に長いテーブルと、無駄に多い椅子。

 さてこれは…食堂というやつか。

 あそこのと比べると、圧倒的と言うべきか。


 テーブルの上までは結構な高さがある。

 さて届くだろうか。

 俺は一人で、テーブルを見る。


 少し離れたところからなら、大体の大きさはわかる。

 まぁ、計らなくてもテーブルって大体70か80あたりなのだが。

 今回はだいたい70cmと仮定する。


 俺が普通に手をつける程度。

 大体顔あたりに、テーブルの上がある。


 推定、100cm…やはり5歳だと仮定できるか。

 耳を入れると…耳は大体9cm。

 全長109cmか。

 ちっちゃいな。


 ま、そんなもんか。

 もしかしたら栄養が足りなくて、身長が低いだけかもしれないし。


 と、そんなこと考えていると、テーブルの上に紙を見つけた。

 時代背景が、本当にもうわからない。

 しかもその紙、新聞ではないか。


 当然文字は読めないが…少しドイツの方と、似ているところもある。

 そこを上手く読んでいくと、ある程度は読める。

 が、文章体としてはおかしい。


 一応読んでみると、戦争のことが書かれていた。

 第一戦線にて軍が後退とのこと。

 こっちの国、大丈夫なのかよ。


 写真で見る限り…近代の技術が混じっているように見える。

 異世界もうやだ。


「えっと、ノアさん…どうしたんですか?」


 どうやら俺が新聞を見つめていることに、疑問を持ったらしい。

 そりゃそうだよな。

 俺だもん。

 俺みたいなガキだもん。


「うう、ん…なんでも、ない」


 新聞をテーブルの上に置いて、テラリスと手を繋ぐ。

 そして次の部屋を進んでいった。





 数時間に及ぶ探索。

 家を回るだけで、一日が終わると言う結果になってしまった。

 びっくりである。


 進展が全くない。

 今回は屋敷のことがわかったのみである。

 それよりも先に、テラリスのことを知るべきだと思った。

 それは俺の勝手な意見ではあるが。


 まぁでも、今日でこの世界の時代背景が読めてきた。

 まず、武器などのくだらないことに関しては、近代並みの技術がある。


 魔術は、俺らの世界より飛び抜けている。

 魔術ってのは俺たちの世界では、占いなどにあたる。

 黒魔術とかよくわかんないものが、目立つ。

 だがこの世界では、実体化するものだ。

 ま、とにかくそこらへんは要勉強だろう。


 ノック音が聞こえ、ドアが開けられる。

 すると中に入ってきたのは、テラリスだった。


「あの…」

「どう、した…の…」


 相変わらず言葉遣いになれない。

 おかげで、タメ口にもなってしまう。

 早く直したいものである。


 …俺が敬語使うことになるとはな。


「いえ、ただ少しお話ししたいなと思いまして」


 これはチャンスだな。

 テラリスのことをよく知れるだろう。

 男じゃない唯一の利点って、女性に対して接しやすいところだけだよな。

 亜人ってのがそれすら打ち消しているのだけども。


 テラリスはそう言うと、ベッドに座っている俺の隣に座る。

 さて、どうすればいいか…。


「あの、今日はどうでしたか?」

「家…ひろ、かった…」


 答えることが他にないもので。

 しょうがない。


「そ、そうですか…」


 なんだか雰囲気が雰囲気なだけに、気まずいな。

 どうしてだろう。


 こうなっては、と俺から話題を切り出す。


「あ、のね…テラリス、のこと…教え、て…欲しい、な」

「私のこと、ですか?」

「う、ん」


 そう言うとテラリスは少し考えた様子で、頷く。

 どうやら了承を得ることができたようだ。

 そうですね…と、言い言葉を続ける。


 俺たちはその後、眠くなるまで話し続けた。

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