幼少期:見習い編
第9話:運命との邂逅
体が、包まれた幸せに反応していく。
そんな感じ。
あまりよくわかってはいないが、そう言うことなのだ。
意識が、蘇った。
俺死んだはずではなかったのか。
と、思っていた。
でも生きていたのだ。
生きてるなら、よしよかった。
生存を確認したなら、まだ目は開かない。
次は四肢満足かの確認だ。
ワンチャン酷いことになってちゃ嫌だし。
俺は右手を上げる。
無事、上がった。
利き手の左手を上げようとする。
が、激痛が走り上がらない。
これはもうしょうがない。
ならば両足と。
確認、四肢満足である。
頭は当然、考える能力がある時点でセーフ。
これが出来て何も起きない、安全も確認されたと見る。
起きるか。
目を開け、体を起こす。
俺がいたその場所は、ふかふかのベッドであった。
「へ…?」
身体中は包帯に巻かれ、少しばかり…と言うかそれなりにいい服を着ていた。
周りを見ると、どうやら屋敷であった。
ベッドから降りて、窓に近づく。
とても大きな庭が、そこから見えた。
メイド姿の女性がたくさん…。
つまり、なんかすごいところだ。
貴族、とかそう言うやつだろう。
なんで俺、拾われてんだ。
「…俺、亜人だもんな…」
部屋にある鏡を見る。
やはり俺は、亜人だ。
長く黒い髪、頭から生えた猫の耳。
もちもちした丸い顔、ケツの辺りから生えた猫の尻尾。
もちろん黒色だ。
可愛らしい顔つきではあるが、亜人の時点で平穏は願うことができないだろう。
取り敢えず、この空間から出て行こうと考える。
当然ながら体力とかは万全ではないので、フラフラしつつだが。
壁にぶつかるように、手をつく。
そしてドアの方へと向かっていく。
ドアに手をついた瞬間だった。
ドアが引き、開かれる。
「うぁ…」
俺はつい躓き、前に転ぶ。
だが、何かにぶつかり、転がることは免れる。
その何かは、一人の少女だった。
自分よりいくらか歳は上だろう。
多分2歳くらい。
推定7歳のはずだと思うが。
同じ、黒色の髪。
それで優しそうな顔。
おまけと言わんばかりに、なかなか高級そうな服。
まさにお嬢様ってやつだ。
「あ、あの…大丈夫、ですか?」
「あ、ぅ…えと…」
何を話せばいいのだろうか。
言葉が、思いつかない。
何を言えばいいのだろうか。
とか考えていると、その少女は俺のことを抱き上げる。
そして俺の頭を撫でた。
その温かみのある手で、俺を撫でてくれた、
そして俺のことをベッドの上に座らせる。
「そこで少し待っててくださいね。お父様呼んできますので」
そう言って部屋から出ていく。
何というか、俺の姿を見ても、目は輝いていた。
蔑んでいた時の、濁った目ではなく、純粋な、目。
しかし、そのお父様…要はあの人の親父さんだろう。
会うのが少し怖い。
数分していると、廊下から歩いてくる音が聞こえてくる。
俺は深呼吸して、呼吸を整えていく。
これから会う人に備えて。
ドアが開けられる。
そこにいたのは、普通の男。
高身長でイケメンな、黒髪の男だった。
「君が…娘が拾ってきたと言う、女の子だね」
ゾッとした。
蔑む、見下す、そんな目じゃない。
全てに興味がないのだ。
虚空、ただただ虚空を見つめている。
本当に俺を見ているのかすら疑わしい。
怖い、何が怖いかさっぱりだが、怖い。
「安心したまえ、私たちは亜人だからと言って、差別する気は無い。私たちは公爵家だが、順位的には最下位だからね」
公爵家、か。
貴族階級では最上位に位置している。
で、その中での最下位ということか。
同情、と言うよりも、興味がないだけのように見える。
少女の方は、優しさから来ているだけである。
何とも素晴らしい。
「いつまでもここにいてもらっても構わない、行くあてがないならここに住んだっていい」
まさか、住んでもいいだと。
ちょっと怖い。
でも、ありがたいと言ってしまえば、ありがたい。
だって俺は、どこにも行けないのだ。
外に出れば好奇の蔑む目。
ここにいれば、多少の虚無を向けられるくらいで、彼の娘は優しい。
「おっと、私の名前はアリフィード…アリフィード・テノールと言う。彼女はテラリスと言う。よろしく頼むよ」
彼がそう言うと、彼の娘であるテラリスはお辞儀をする。
反射的に、俺も軽く頭を下げる。
なんか、姉がいるような気分だ。
「それで君の名前は?」
俺の、名前か。
前世の名前を使うのは、絶対におかしいだろう。
なんせ前世は日本人、この世界の人たちの名前は、外国の方の名前だ。
それに今の俺は、少女だ。
前世は男だから、ありえないだろう。
どうしよう。
「…ふむ、その反応は名前がないと見る…なら、『ノア』と言うのはどうかな?君は、昔飼っていた猫によく似ているからね」
「ぇ…あ、はい…」
猫から名前をとって、ノアになりました。
よろしくお願いします。
新しい名前、か。
まあ、いいや。
これからはノアとして生きて行こう。
「テラリス、屋敷を案内してあげなさい」
そう言うと部屋から出て行った。
テラリスは、その後ろ姿にお辞儀する。
すると、俺のことを見て、手を繋ぐ。
俺はそれに反応するように、立ち上がる。
「それじゃあ、行きましょうか」
笑顔でそう言った。
俺は軽く頷き、歩き出したのだ。
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