第4話:地下労働

 ニーナと並び、仕事場へ向かう。

 仕事場への道は随分と長く、十分ちょっとかかった。

 道なりは上り下りが激しく、辛いものではあった。

 この時点で労力使うこの地下、狂ってやがる。


 ダメだ、何か考えるごとに文句しか出ない。


「…ニーナ…仕事って、なに…するの?」

「えっとね…重いもの運ぶの」


 うわぁ…マジかよここ。


 一回ここの経営者死んだ方がいいと思う。

 てかマジで死なないかな。


 死んだら俺たちの権利はなくなる=自由だからだ。

 奴隷のことについてはよく知らないから、そうなるだろう程度の考えだが。


 てか俺、まともに働ける気がしない。

 だって左腕動かないし。

 ここに来る前、なにがあったら左腕動かなくなるんだか。


 周りを見る。

 やはりいるのは少年少女。

 年齢の幅様々で、大体12歳ぐらいから3歳ぐらいまでの子供がいる。

 ちっこい俺とニーナでは、全く目立たない。


「テメェらとっとと運べッ!!」


 巨漢の男は叫ぶ。

 子供たちは次々と、よくわかんない石の塊…見たところ多分、鉱石だろう。

 その塊を持って運んでいく。


 あの男もアホだよな。

 お前が運べよ。

 そしたらもっと早く仕事終わるだろ、と思いつつも仕事なので運ぶ。


 ああ、クソ。

 俺はデスクワーク派なんだ。

 おまけに指示を出すのに向いてんだ。


 …これ何も面白くねぇな。


 鉱石であろうその塊は、かなり重い。

 しかも今の俺は、右腕にかなり負担がかかる運び方になっている。

 左腕は添えるだけ、死にかけの左腕はギリギリ役に立つかどうかと言った感じだ。

 横目でニーナを見ると、楽そうに運んでいた。

 あの様子だと、この仕事に長く関わっているのだろう。


 あれ、絶対強いわ。


 と、周りを見るとニーナどころかみんな同じだった。

 5個持っている奴もいれば、10個持っている奴もいる。

 これが、異世界というやつか。


 俺は改めて、畏怖した。


 さて、仕事の内容に戻ろう。

 仕事はとにかく塊を運ぶ。

 運ぶだけ。


 俺は一つ運ぶの数十分かかる。

 で、その運んだ塊は、別の少年少女たちが砕く。

 中からなんかキラキラしたものを、取り出しているようだ。

 それはなんとも妖しく、煌めいていた。


「…こんなもん、何に使うんだよ」

「なんか…武器を作るらしいよ?」

「あ、ニーナ…いたん、だ…」


 まずい、俺の独り言を聞かれたか…?


「うん、初めての仕事でしょ…?だから心配に、なっちゃって…えへへ…」


 隣を歩き、塊がたくさん置いてあるところに戻っていく。

 戻るだけでもかなりの道のりだ。

 近道、作ろうよ。

 もしくはさ、向こうがこっちに来ようよ。


 てか地下だからクソ暗いな。

 ギリギリある明かりで、なんとか周りが見える程度。

 足元は見えるか見えないかの境界線だ。


 裸足のせい+足元が見えないせいで、石がどんどん突き刺さる。

 痛い、とにかく痛い。

 夜のアレに比べたら断然マシだが。


 隣を歩くニーナは平気な顔して歩いている。


「に、ニーナ…足…痛く、ないの…?」

「うーん…痛くは、ないかな…?だって、どこに小石があるか…わかるもん」


 そう、簡単に言い放ってみせた。

 その地下にいる子供たちは、全員そうらしい。

 こいつら…怖い、メチャクチャ怖い。


 と、そんなこと考え、恐怖でフルフル震えつつ歩く。

 すると突然、俺が歩いてたところの近くの壁が破壊される。


 俺は驚愕し転ぶ。

 突然壁を破ったのは、緑色の体を持った人型の化け物だった。

 その形相はなんとも醜く…どこが見たことがあった。

 記憶とは少し違うが、大体の様子は似ていた。


 そうだ確か…ゴブリン、ってやつだ。

 あいつらの見てた漫画、こんなところで役に立つとは。


「ぁ…う、ぁ…」


 俺は驚くあまりに、身動きが取れなくなる。

 恐怖だろうか、何故こんなにも恐怖しているのだろうか。

 わからない、わからないけど、とても怖かった。


 ニーナは不思議そうに俺の顔を見る。

 周りは俺たちのことを全く気にしていなかった。


 え、そりゃ薄情過ぎやしませんか。


 そんなこと思っていた瞬間、目の前の怪物は飛んだ。

 そして俺に向かって襲いかかってきた、その時。

 ニーナが前に出る。


 そして拳を握ると、奴に向かって一撃を撃ち放つ。

 すると相手は遠くへ飛んで行った。


 で、壁に打ち付けられ、グチャッと…ま、要は死んだのだ。


 たった一撃、たった一撃で死んだのだ。


 もう、なんなの。

 異世界の人ってこんなのばっかなの?


 もうやだ、帰りたい。


「大丈夫…?」

「う、ん…大丈夫…」


 俺は手を引かれ立ち上がる。

 が、足はずっと震えたままであった。

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