第2話:思考すること

 体が、嫌に重い。

 随分とすごい重圧だ。

 潰れて死んでしまうのではないか。

 そう思えるほどだった。


 事実、一度死んだ。


 だがこうして意識があると言うことは…。


「いき、て…る…?」


 実に高い声が、俺の口から出た。

 だが今は…そんなことを気にしていられないくらい、全身が痛かった。

 目を開け、痛む体を押さえながら起き上がる。

 立つことは出来ず、座るのが限界だった。


 が、なんとか無理やり体を叩き起こす。


 そして改めて周りを見る。

 そこはまるで牢屋…そう、牢屋の中だった。

 手入れは一切されておらず、いくらか鉄格子も傷んでいる様子だった。


 近くに溜まっていた水たまり。

 周りは暗かったが、明かりでギリギリ自身の姿が確認できた。

 その姿は、あまりにもひ弱で、情けないと言うほかなかった。

 白い肌に、黒く長い髪、そして頭から生えている獣の耳。

 汚らわしい、猫の耳。

 そこには、獣の耳を生やした少女が写り込んでいた。

 大体の年齢は5歳くらいだろうか。


「ぁ…なん、だ…これ…?」


 困惑し、よろけ鉄格子にぶつかる。

 その音が地下に響くと同時に、男の声が聞こえた。


「うるせぇぞッ!!静かに座りやがれッッ!!」

「ひっ…!」


 その声に、妙な恐怖を覚える。

 トラウマのような、それでいて恐れのような。

 本来の俺なら別にこんなの、怖くもなんともなかったはずなのに。


 もう一度、再度自身の顔を見る。

 よく見ると、顔…いや、身体中が傷だらけだ。

 随分と酷いと言うのは、見ればはっきりわかる。

 火傷が体の半分を覆っている。

 治るのだろうか、これ。

 それにだ、左腕がしっかりと動かない。

 いや違う、全く動かない。


 付け根から手の端まで、全く動かないのだ。


 この際それはどうでもいい、ただ今は現状が知りたい。

 全身が痛むが、それを考える程度の余裕はあった。


「…おいクソガキ…テメェさっきから何ブツブツ呟いてんだ」

「え…?」


 後ろを振り向くと、鉄格子の隙間から男の顔が見えた。

 かなりの巨漢で、身体中の傷が恐怖を倍増させていた。

 更に怯えさせるのはその顔。

 まさに悪漢と言わんばかりの顔だ。


 俺は取り敢えず、誤魔化そうとしてみる。


「ち、違う…それ、俺は…」


 待て、俺ってのはなんか不自然か?


 いや俺は…うん、俺だ。

 でも今の姿から…。


 とか考えていたら、扉を開けて男が中に入る。

 今の俺は、それがとにかく怖くて、逃げたくて。

 でも、立つことしかできなかった。


「…亜人ごときがそんな口聞いてんじゃねぇよッ!」

「ぅがぁッ…!?」


 腹に一撃、強烈な一撃が加えられる。

 蹴りの一撃だった。

 俺は腹を抱えうずくまる。


 激痛が全身をかけていく。

 ツラミ重ねられた痛みが、一気に襲ってきたような感じだ。

 こんな痛みを感じたことは、一度もない。

 いや、そもそも痛みとか言うのは、感じたことないのだが。


 俺を蹴ると満足したのか部屋から出て行く。

 かと思いきや別の部屋に行った。

 すると隣の部屋から叫び声が聞こえてくる。


 それを押さえつけるように、男が叫ぶ。


「うっせぇんだよッ!奴隷がッ!!」


 え、待って。

 俺奴隷なの?


 いや、ありえないだろう。

 到底扱いがおかしい。


 奴隷と言うのは一個人の資産であって、それを無下に扱うのは愚かの極みだ。

 今の状況、俺はどっちなのだろうか。


 商品か、はたまた誰かの私物か。


 やはりありえない。

 誰かの資産である以上、そのような扱いは絶対にしないはずだ。

 日本の歴史の見ても…そう扱うのはありえない。


 だが…一つ、可能性があるとすれば…。


「…俺が、使えない、か…奴隷が…増えすぎてる…か、だな…」


 さっきの言葉からすれば、俺の体。

 と言うか、種族と言えばいいのだろう。

 俺は亜人と呼ばれるもの。


 人間と獣をかけ混ぜたような姿をしている。

 そのような姿をしたものを統合して亜人、とみた。

 で、あの男の感じだと…社会的地位は低そうだ。


 あの自称女神…とことんやりやがった。


 あの笑み…思い出すだけでイラつく。


「何が自業自得なんだよ…!」

「おい…」

「ヒィッ!?ご、ごめんなさいっ!」


 俺のことを妙な顔で見て、去って行く。

 け、蹴られなかった…。


 なんで俺、ホッとしてんだろう。


 とにかく、これからどうするか考えなくてはならない。

 このままあの、クソ自称女神の言われた通りなんてごめんだからな。

 考えよう、明日から。


 かなり高いところにある窓を見ると、夜だと言うことがわかった。

 今は何時か、それは流石にわからないが、夜なのはわかった。

 寝よう。


 とにかく今日は寝て、明日から色々考えることにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る