36歳無双会社員は魔族側の実情を完全に知る

私達は更なる事実を告げられて困惑している。セリーナ様もカトレアさんも次々と出てくる新事実に戸惑っているみたいだ。

けど、恐らくこの事実を知った魔族側の方が困惑したと思う。なんせ、最初こそは人間族側に非があると思っていたのが、本当は当時の魔王の嫉妬と逆恨みによるものだったなんて……


「我々も当然この事実には受け入れがたいものがありました。しかし、その日記を鑑定魔法にかけ、更には当時の魔王様の事を徹底的に調べあげましたら……」


「その日記の内容が真実だった事が判明したんですね?」


セリーナ様がそう聞くと、魔王様は黙って頷いた。


「この事実を発表しましたら、魔族側は二つの意見に分かれました。一つはすぐにでも人間族に完全降伏を申し込もうとする派。もう一つは、なんとか被害を少なく戦争を終わらせる事で、事実を有耶無耶にしてもらおうという派です」


やっぱり、魔族側は二つに割れちゃうか……前者の意見が1番簡単だけど、魔族側は奴隷のような扱いを受ける可能性がある。後者は勝てればそれもありだけど、被害を出さずにだと魔族側は手加減しなくちゃいけないから、勝てる見込みが薄いし、正直後何年戦争しなければいけない事になるか分からない。今の魔王様にとっては本当に頭の痛い話だろう。


「ですので、簡単に人間族側に勝利をもたらしてしまう可能性がある勇者は早々に消すべきだとリディアに主張され、人1人とは言え殺すのは躊躇いましたが、仕方ないと判断して……」


「って!?私を殺す主張したのリディアさんだったの!?」


「あん♡ごめんなさい♡勇者様♡だって勇者様がこんなに強くて素敵な方だとは思わなかったんだもの♡」


悪びれる様子もなく私に抱きついてくるリディアさん。隣にいるセリーナ様とカトレアさんがリディアさんを睨む。けど……まぁ、リディアさんは魔王様に協力していたんだから、そう主張してもおかしくはないのか……


「……勇者様の実力は痛い程分かりました。恐らく、魔族が全員束になっても勇者様に勝てる見込みはないでしょう」


いや……いくらなんでもそれはないんじゃないかと……多分……


「それに……僕は……このミカと共に歩める未来を作りたい……」


魔王様はミカさんを見つめてそう言った。ミカさんは嬉しそうに頰を染めていた。


「あの……その……もしかしなくても2人は……?」


「あっ、はい。実はあの戦争の時、必死で皆の治療にあたる彼女に一目惚れを……」


「違うわ!私も最初あなたを見た時に惚れたのよ!」


「いや、でもキスは僕からで……!」


「それを言ったら閨は私の方から誘って……!」


「わあぁぁぁ〜!?ストップ!?ストップ!?話が脱線してきてますから!!?」


なんだか甘々なピンクの雰囲気に包まれている2人を、私は慌てて止めに入った。リディアさん曰く「この2人はいつもこんな感じ」らしい。


「コホン!失礼しました……ですから……勇者様。それに、人間族側の王女様。どうか魔族側と人間族側で和平を結ぶ為に力添えをしていただけないでしょうか?」


魔王様は私達に深々と頭を下げてそう言った。

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